表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残念ですが陛下、スローライフはお預けです。  作者: ヒガツキ
第二章 陛下、補佐大臣は厄介です。
9/77

遅れた報告


 「世界各地を転々とし、召使いとしての在り方、ルールブックを最初に定めた伝説の執事、トップバトラー。その手腕を買われ王下配属わずか五年で270人の召使いを束ねる執事長に就任。しかしてその正体は──王家の血を引く者の〝息子(せがれ)〟」

 「……!」

 

 平穏を絵に書いたような落ち着きある執事の顔が、動揺にわずかに歪んだ。一瞬ではあったがその瞬間を魔王を倒した男が見逃すはずもなく──。

 

 「さしずめ、父親は権力争いに敗れた元王族か何かで『勇者制度』の餌食となり国を追われた後、国外でお前を授かったと見ているが……どうだ、オレの見立ては間違っているか?」

 

 オークニ様は昼間に資料室や爺やの使用人部屋に入り、手記を盗み出して情報を得たりした。そうやって教えてもらったことが真実であると確信したギントは、自分の憶測も含めて爺やの正体について暴き出す。

 

 この国には【勇者制度】なるものが存在する。月に一度、王の独断で国民が一人選ばれ、強制出国させられる。魔王を倒すまで戻ることの許されない実質的な国外追放制度とあって、『王家に不都合な人間が勇者に選ばれている』という噂は国中に広まっている。

 勇者でなくその息子と発言したのは、勇者本人では帰国できないからだ。

 

 「もはやそこまで見抜かれていたとは……。お見逸れしました」

 

 見抜いた──。というより、実際は反応を見ながらの憶測だらけだったが、ギントはそれを初めから見抜いていたような素振りで続ける。

 

 「ここにはオレとお前しか(・・・・・・・)いない。だから真実を話してくれないか? もちろんオレも、自分の正体について素直に答えると約束する」

 「……ではまず、大國の主様より自己紹介をして頂きたく思います」

 「ありゃりゃ、ばればれで?」

 

 そう言いながら《遊走》なる異能で天井を抜け、逆さまのオークニ様がひょっこり顔を出す。以前、天蓋付きのベッドの上から現れたときもこの異能を使っている。

 

 「大國の主様。失礼、共通語では大国主でしたか。経緯などお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 「あ、うん。呼び方は別にいいけどその前に……」

 

 絶賛人見知り発動中の大国主はくるっと方向転換すると、なぜか目を細めギントを睨む。

 

 「タミくーん? 敢えて二人っきりって強調したでしょ今。國の存在を疑わせるためにぃー?」

 「すまんすまん。オレもしっかり聞いた事なかったからさ、オークニ様の素性。ちょーど良い機会だなーと思って」

 

 申し訳なさそうに笑うギント。大国主は少しふくれっ面だ。

 

 「まったくもー」

 

 これは逃げられないとばかりにため息をつく大国主は、全身をあらわに天井をスルッ抜け出すと、長テーブルの上に着地した。

 

 「改めまして、國の名前はトレジャーランド・サファイアジェットスピネル。宝石発祥の国、トレジャーランド王国の大国主だからトレジャー。サファイア、ジェット、スピネルの原産国だからサファイアジェットスピネル。トレジャーは宝という意味だけど、國が元々その語源と言っても差し支えません。国が宝石で豊かだから見た目もすこーし裕福なのはどうかご愛嬌ということでここは一つ、よろしくお願い申し上げまーす」

 

 大国主はその場にあった王冠を被り、腰に手を当てぽちゃーんと自分の偉大さをアピールする。

 

 「このような末端な人間にまでご丁寧に……。有り難き幸せ」

 「ながーーーいコト、それはもう三千年くらい引きこもってたから、昔のことはあんまり覚えていませんのでそこんとこあしからずー。ま、偉いのは変わんないから態度には気をつけるよーに!」

 

 相手が敬ってくるとあれば、凄い上から目線だった。続けてギントが補足する。

 

 「四十年前たまたまオレが封印を解いたんだ。オークニ様は過去の記憶がないから自分を封印した奴を探しているらしい」

 「見つけたらシクヨロでー」

 「当時からノリの軽いやつだったけど、あん時はもっと痩せてた」

 「おいこら信者第一号」

 

 腹の肉をツマみにくる手を大国主は叩く。

 

 「貧乏な国は貧乳。裕福な国は巨乳。それ以外は知る必要なし! ないからね! ジーヤちゃん!」

 「……畏まりました」

 

 慣れない呼ばれ方に若干爺やは困惑した。

 

 「次はオレだな。経緯についてはあらかた、お前が盗み聞きしてることがほとんどだと思ってくれて構わない」

 「おや、バレていましたか」

 

 爺やはモノクルを光らせて少しだけ冷静になる。ギントは補足程度に過去を語る。

 

 「オレには将来を誓いあった仲がいた。王国に残したそいつに会うために帰ってきたんだが、どうやら少し前に死んだんだと。オレを勇者に仕立てあげた王への復讐も考えたが、そっちはもっと前に死んでたらしく……オレには何も残されていないことが分かった。オークニ様はそんなオレを気遣って目的を与えてくれたんだ。それが今の王様家業というワケだ」

 「目的というのは」

 

 爺やの質問に良くぞ聞いてくれたとばかりにギントが拳を掲げた。

 

 「農業がしたい! 木を切って切り株抜いて、土を耕して管理して小麦からパンを作る。あとは時間を気にせず木陰で昼寝したり、自分で釣った魚とか山菜使って料理したり、ゆくゆくは店を出して振舞ってみたりだとか、辺境の村に学校建てたりだとかそーゆーの! やりたくて仕方ねぇんだ」

 「悠々自適な生活を送りたいのなら、勇者のままでいた方が良かったのではないですか?」

 「権力はないが時間と体力があって、ある程度の自由が保証されてる王様の方がオレには都合がいい。オークニ様を封印した犯人も探しやすいかもだしな」

 「なるほど」

 

 納得して爺やが続ける。


 「お二方ほど波乱万丈な過去は送ってはいませんが……。その前に、急を要する事態を思い出しました」

 「おーなんだ、言ってみろ」

 「本日正午より、城下街広場にてチャイバル補佐大臣主導の元、勇者の処刑を執り行うもようです」

 「…………はぁぁぁあああああ!?」

 

 ギントはイスが吹っ飛ぶほどの勢いで立ち上がり叫んだ。チラチラ見てる壁の時計は十一時五二分を指している。つまりあと八分しかない。

 

 「なんだよそれ! なんでもっと早く言わなかったんだよ!? 正午ってもうすぐじゃんか!! んバカ!」

 

 事情を知らず報告が遅くなってしまったことを爺やが詫びると、起きてしまったことは仕方ないとギントはひとまず許す。

 

 「おおかた勇者が口を割らないとかそんな理由を付けて処刑台に上げやがったな……アイツ」

 「ずるいね。中身はずっと喋れないままなのに」

 

 ギントは『やられた』ような『やらかした』ような複雑な表情で親指を噛む。

 

 「にしても早すぎる。いつからだ」

 「二日前にはお触れがでておりました」

 「ぜんぜん諦めてねえのな、あの毛深デブ!」

 「しかし大臣も、今は焦っているご様子。分かりやすい手柄を立てなければ、彼自身の立場も危ういのでしょう」

 「……そういう事か」

 「え、どゆこと?」

 

 話がイマイチ見えない大国主がギントに質問する。

 

 「いくら補佐大臣でもこんな迅速には動けない。何かデカい力に頼ったんだろ。見返りも相当高く付くはず」

 

 ギントも爺やも、チャイバルの背後には何か大きな存在がいることに気付いた。そしてそれがチャイバルにとって命懸けの選択だということも。

 

 ──忠誠を示したいがためにそこまで……? 何が目的だあのヤロー。

 

 王様に発言力が生まれれば、補佐大臣としての立場は必然的に弱くなる。それを危惧したチャイバルは『ニセ勇者を処刑する者』という先手を打って、己の忠誠心や実行力をアピールしようと考えたのかもしれない。しかしなんとも非効率でギントはしばらく裏を読むも、……諦めた。

 

 「急ごうオークニ様」

 「はーい」

 

 答えの出ない問題は置いといて、大国主と共に部屋を後にする。

 

 「爺や! 後でちゃーんと話してもらうからな。わかったな!?」

 

 爺やのお辞儀を見届けたあと、ギントは早足に廊下を歩きながら考えを巡らす。

 

 ──処刑はなんとしても止めたいが、無理やりチャイバルをハガシに行ったら民衆の目にオレの方が晒されちまう。そうなれば声のことももちろん……。

 

 王様の肉声を民衆はまだ知らない。チャイバルがウワサすら厳重に取り締まっているからだ。声が知れ渡ればその奇跡に民衆は沸き、過度な期待を寄せてしまう──。いずれ元の自分に戻りたいギントにとってそれはマイナスで、求心力を失いたくないチャイバルとしてもそれは望む所にないのだが……。

 

 ──はあ。ここは覚悟を決めるしかないか。

 

 背に腹はかえられないと覚悟を決め、広場を目指すギントであった。

 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ