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残念ですが陛下、スローライフはお預けです。  作者: ヒガツキ
第四章 陛下、大臣ゲームは危険です。
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しぶとい男


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 背中から腹を突き破る三本の槍。

 深すぎる傷を負ったチャイバルは十字架に磔にされたようにされながら、やがて動かなくなった。そこに憐れむような視線を向けた男が近付く。

 

 「チャイバル……なぜお前なのか。なぜお前には運命力が足りていないのか」

 

 慈悲深い言葉で、心の内側に籠る熱を男は吐き続ける。

 

 「健気ではある。だが、無茶はよくない。お前では勝てないのだから足掻くべきではなかったのだ」

 

 その口調に一切の奢りはなく、ただ事実を淡々と述べていく。

 

 「可視化できず、(まと)えず、抗えず、最後に咽び泣くこともままならぬお前では、どちらにせよ辿り着くことはなかったのだ。覇者の行く末──。エルシャラを後天的に得る愚鈍の道筋──。ブラックダイヤモンドショック──。銀の龍の胎生──。いずれもお前ならと示した世界だったのだが……それもまた、運命か」

 

 チャイバルには仲のいい兄弟がいた。界隈では知らない人が居ないほど優秀だった兄と弟に挟まれ、次男坊イキノコール・チャイバルは親戚、家族にこう呼ばれていた。

 

 「『無能』のチャイバル。私だけが、有能だと気付いていた存在。逆境に()いて兄や弟以上の価値を示してきたお前に対してのこの仕打ち、どうか許してほしい。そして今までご苦労であった。安心して逝くがいい」

 

 トレジャーランド・ゲキリーニ・ニフレル大臣。

 素直で直感的で血の気の多いこの益荒男は、普段の豪快な振る舞いとは打って変わって冷静沈着で、口から溢れる血の量が極小量になるのを待ってからダメ押しにもう一本、槍をぶち込んだ。

 

 「……、死んでいるな」

 

 無から降ってきた槍。その衝撃に弾んだ身体が自然な動きだったので、安堵したニフレルが脈を確かめるようにしてチャイバルの首に手を置く。

 

 「ん? こいつ、まだ脈が……」

 

 常人なら確実に三本目で死んでいる筈なのに、四本打ち込んでもなお止まらない心音。驚異的なその生命力に驚愕していると突如、左前腕を掴まれた。誰でもない、瀕死者本人に。

 

 「な、なにィ!?」

 

 死を待つだけのものとは思えないほど力強く、腕を折りかねない握力に驚嘆の声が上がる。チャイバルの血に染ったネックレスが赤い光を放ち、直後、右手に火が灯った。

 

 「ファイアー……ボール!」

 「オリガァーッ!」

 

 身の危険を感じ取ったニフレルが、昼間には到底見せないあぶら汗を掻き、協力者の名前を必死に口にして背後を振り返る。その間にも左前腕はチャイバルの自爆覚悟のファイアーボール連打によって攻撃を受け続けた。

 

 「ファイアーボール……ファイアーボール! ……ファイアーボール!」

 「ね……しね……しねえ!」

 

 細く長く、負のオーラそのもので出来たブロンズ髪の女が空間に染み込むようにして現ると、怨念を吐きながらチャイバルの背中に追加で六本の槍を突き刺した。

 

 「だい……じょう、ぶ……?」

 「構うな!」

 

 おかげで離れることのできたニフレルだが、その腕は服や皮膚が完全に溶け落ち、肉へのダメージを無視できない状態に。それを心配してか手を伸ばしてくる女に対して怒鳴ると、冷静ではない自分に気付いて状況分析を開始する。

 

 「不味いぞ……この怪我は昼間の私にまで影響(・・・・・・・・・)が及ぶ(・・・)。オリガ、交戦していた証拠になりそうなものを消してくれ! チャイバルが魔法を使った証拠さえ無ければ、ヤケドを疑われる心配もなくなる。……何をしている? さっさと」

 

 何故か動かない女に催促を促すと、女は細く尖った爪を向けた。その先に視線を動かすと、──チャイバルが笑っていた。

 

 「……わ、ワシは死なんぞ……一矢報いるまで……、絶対に……死なんぞ」

 

 その男は見下した笑顔を貼り付けたまま、目から光を閉ざしようやく息絶えた。異常なまでの生命力と執着心にキモを冷やしたニフレルだが、勝利が確実なものになる大きく口を開けて笑った。

 

 「ハ、ハ。ハガガ! ハガガガガガ!」

 「誰か……くる」

 

 女が耳元でそう囁くので、笑うの止めた。

 

 「見られてはいけない。一度引くぞ」

 

 二人が闇に乗じて姿をくらましたあと、メイドが死体を見つけ叫ぶまで一分と掛からなかった。

 

 

 ━━━━━━

 ━━━━

 ━━

 

 

 ギントは一階の会議卓に降りて、一人ずつ手足のヤケドの有無を調べていた。

 

 「もう、これでよろし?」

 「身の潔白を晴らすためだ。我慢してくれ」

 

 十一人の大臣は椅子の横に立ち並び、メイドのペリドによる触診を受けていく。ヤケドを隠蔽の魔法で隠されたり逃走を図られたりしないためにも、ギントは全体をそれとなく見守っている。

 今は大胆なスリットの入ったドレスを着る扇子女の右足を椅子の上に乗せ、ペリドがぺたぺたしている所だ。

 

 「はぁ〜い! 異常ないでぇ〜す」

 「よし次」

 

 既に五人の容疑が晴れ、次の次にはニフレルの番がやってくる。逃れられないこの状況に、ニフレルはやきもきしていた。

 

 ──うぅむ。これはかなぁりマズイ! 夜の我は(・・・・)なんたるヘボをカマしてくれたことか。これでは迂闊に動くことも出来ぬではないか。……あのメイドを人質に取るか? いや、自分から認めるようなマネはむしろ悪手。どうするニフレル! 考えろ不退転の英雄よ!

 

 「陛下、少しいいですか?」

 「どうした?」

 

 ニフレルがピンチに喘いでいた頃、ペリドが分かりやすく困り果てた顔をしてギントに聞いた。番は進み、ニフレルの一個手前のシバ・カレン大臣の検査を始めたが、どうにも手を焼いてるみたいだ。

 

 「陛下に直接見てほしいようです、彼女」

 「断れよ」

 

 一蹴されペリドが酸っぱい顔をする。

 

 「如何した如何した。なんだ、トラブルか? だったら我が助太刀いたそうか! ガハハハハハ」

 

 空元気、というよりも現状を何とか変えたくて足掻くニフレルが高らかに笑いながら腕を組むと、ギントは何を思ったのかそっちに急接近し、腕に触れた。

 

 「そっか、じゃあお前から見せてもらおうか」

 

 スムーズに手を取られ、いきなり袖をまくられるニフレル。だが傷も何も無い。それもそのはず、手形のヤケド跡は反対の手にあるのだから──。

 

 ──マズイ! 本当にマズイ! 自分の演技力の無さを呪うぞ! 我!

 

 形容しがたい野生の勘を持つ王様の行動に、心底恐怖し内心焦りが止まらない。

 

 「じゃあこっちも」

 

 今度は反対の手を調べられる。終わった。振りほどけば、かえって疑いが増すだけなのでもう何も出来ない。

 

 ──ムリだ、バレる! 言い訳を考えろ……! 我らしく豪快で、疑われぬワケをッ! 窮地を乗りきる、策を!!

 

 死を自覚した人間が時間の流れをスローに感じるように、ゆっくりと、ゆっくりと、袖が捲られる。

 

 

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