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残念ですが陛下、スローライフはお預けです。  作者: ヒガツキ
第四章 陛下、大臣ゲームは危険です。
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介入者


 「ど、どけ! 見えねぇだろって」

 「押すなよおい!」

 「そっちこそ」

 「どうなったんだチクショウ!」

 

 街中の一般人も酒場の冒険者たちも、宝珠にギリギリ映っているコインを食い入るように見つめる。いの一番に結果が知りたい者たちのおしくらまんじゅうが止まらない。

 

 「どっちが勝った!? なぁどうしてなんも反応がないんだ!」

 「あーもコインがちいせえよ!」

 「デケェ声だすなうっとうしい!」

 「聞こえねぇだろが! ぜーいん黙れ!」

 

 そのころ議場はどこよりも混乱し、誰も声をあげられずにいた。なぜなら、地面に落ちるはずだったコインが地面から生えてきたナゾの手に掴まれ落ちなかったからだ。その右手は女性のような白くて繊細な指をしていた。

 

 「今……あれ?」

 

 誰かがそう呟いた時には既にそれは消えていた。代わりにぽつんと置かれていたコインの存在が、チャイバルを強烈な現実へと引きづり込んだ。

 

 「ば……かな。今のは違う。いま間違いなく何かの介入が……ッ!」

 

 コインは肖像画の方が上を向いて落ちていた。チャイバルはすぐさま地面に這いつくばると、コインをめくり床の底を手探りでさらった。しかし引っ込んだ手やそれが隠れる仕掛けなどは確認できずますます焦る。

 

 「これは明らかな不正行為だ……。ワ、ワシは罠にはめられたのだ! なぁそうであろうオマエたち……! 一緒に見ていただろうなぁ!?」

 

 動悸を激しくするチャイバルは、心情に訴えようと必死に呼びかけるも、他の大臣たちはルーダーを受けることの意味に触れ、難しい顔をするだけに留まった。

 

 「「「……。」」」

 

 同情や憐れみ。あるいは恐怖や愉悦が入り混じり、チャイバルと目を合わせようとしない大臣たちに代わって王様が声をあげる。

 

 「何か、それを証明するものは?」

 「……しょう、めい?」

 「なにもなければ、それはお前の被害妄想ということになる。つーか、誰に物言いしても結果は覆らねぇさ。だって第三者は、どこにもいねぇんだから」

 

 通常、ルーダーには決闘を公平に審査する第三者が存在し、賞罰やゲームのバランス調整を行ったり、イカサマらしき行為の指摘が入ったとき一度ゲームを中断し厳正に取り締まる。一見すると、第三者ナシではゲームを作る側が圧倒的に有利な条件に見えてくるが、イカサマの権利自体は平等に存在した。

 ならばイカサマし放題なのかというとそうでもないが、とにかくバレなければ如何なるペナルティも受け付けないので問題はなかった。

 

 「ワタシの……負け」

 

 ようやくそれを理解したチャイバルは敗北を口にした。生気の抜けた顔で立ち上がると、特に暴れ回ることもせず、すんなりとその結果を受け入れる。ギントは予想外とばかりに目を見張る。

 

 「これで、ワタクシはいついかなる時も貴方の奴隷です。今までありがとうございました」

 

 覚悟と(うれ)いを帯びた目でチャイバルがそれを宣言すると、王都中は歓喜の渦に飲み込まれた。

 

 「「「うおおおおおおお」」」

 

 酒場の者たちも抱き合い、杯をぶつけ合い、肩を組みながらずぶ濡れで笑い合う。国民感情は新王に寄り添う。

 

 「しゃぁぁあああ!! やりやがったぞあの王様ァ!」

 「信じてたぜ陛下!」

 「嘘つけ見てらねぇって言ってたクセに!」

 「あの王様がなぁ……。補佐大臣の操り人形だった人が、ここまで成長するとは」

 「立場が完全に逆転しちまったなぁ! 他の大臣たちもビビってんじゃねぇか? 今頃よぉ」

 

 注がれる視線の先にある宝珠に映る王様は宣言する。

 

 「次の挑戦者は決まり次第オレの元へ来い。いつでも……ん? どうした」

 「あー、イイっすかね。挑戦の意思的な話なんスけど」

 

 単眼のアイマスクを付けた、髪から身につけてるモノまで全身真っ白なフォーマルでノリの軽い男が手を挙げた。

 

 「ほう。名前は?」

 「いやー俺じゃないっス俺じゃ。彼女ッス。拷問大臣さんが挑戦したいって」

 

 薄暗く、湿度高いジメッとした場所を好みそうな細長い女が、男の傍で頬を赤らめながらもじもじとし、たまにギントと視線を合わせては、キョロキョロと恥ずかしそうに目を逸らす。

 

 「拷問大臣っつーと……」

 

 チャイバル以外の大臣をほとんど知らないギントでも、彼女のことだけは何となく覚えていた。行方不明になった勇者の居場所を吐かせるためにキンカを拷問に掛けようとした大臣だ。顔や風貌、女であることは今知ったが、名前は覚えている。

 

 「トレジャーランド・シバ・カレン大臣だな」

 「恐縮、だと、言っておきましょうか。陛下にこんな、ミジンコの名前を……いやだなと……へ、陛下が知ってくれてるなら、それで満足ですが、やっぱり欲しいので……。ケシシっ。挑む努力してみます。目立たないように、できれば次に是非」

 

 ギントは思った。

 こいつ何言ってんだと思った。

 

 

 ☆

 

 

 「まさか、カレン大臣が次に仕掛けるとはなぁ」

 

 緊急時につき普段とは違う場所、違う二人で警備につく深夜の兵士は、昼間あった出来事について城内廊下にて話を咲かせていた。

 

 「ああ。どう見ても表立ってやる人じゃないもんなあの人」

 「何が伝えたいのかもよく分からんし、ありゃもう負け確定じゃないか?」

 「ははは違いない。一ヶ月後が楽しみだ」

 「オトコ二人、無駄話にうつつを抜かすなど素直に見過ごせないな、諸君」

 

 そんな二人の隙を突くように目の前に男が腕を組みながら現れた。

 

 「お、お疲れ様です! ニフレル大臣!」

 

 濃い顔つきに厳かなでガジガジな眉毛のよく似合う益荒男、トレジャーランド・ゲキリーニ・ニフレル大臣。彼に注意され、男共はすぐさま姿勢をただし直立敬礼した。

 担当は攻撃省。防御大臣と共に国軍と聖騎士団を指揮する権利を半分持つ。防御大臣と異なる点として、海外、海洋での活動が主なので軍船を持ち航海術などに詳しいとする男が、不愉快さを示す。

 

 「今は気が立っている。私の前であの小娘の話はするな、いいな?」

 「は、はぁ。なにか、お気に召さなかったのであれば謝りますが……」

 

 誰のことを言っているのか分からなかった兵士が聞き返すように問いかけると、ニフレルはパンっと手のひらを叩いて音を鳴らした。

 

 「謝るな。死に詫びろ」

 「え」

 

 ニフレルの底冷えする声とパンっと鈍い破裂音が響くと、目の前の兵士は上下からプレスされたように引き伸ばされ、何も無い空間に血を撒き散らしながら消えていった。

 

 「あ、ぁあ……!」

 

 目の前で起きたことに理解が追いつかず口をあんぐりさせた兵士が、今度は自分にその手が向けられていると知って、腰を抜かして倒れた。

 

 パンッ──。

 

 「ァう」

 

 逃げることも助けを乞うことも出来ず、兵士はぞうきんのように絞られながら絶命し、亜空間に鮮血ごと巻き込まれた。

 

 「昼間の私はどうかしていた。何故あんなものを面白いと思ったのか……」

 

 ニフレルは血溜まり二つを避けて進み、無からトクトクと注がれるワインを片手に玉座に座った。

 

 「不愉快だ、どこまでも」

 

 男はただひとり、チャイバルを待つ。全ての責任を取らせるために。

 

 

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