ファーストペンギン
ファーストペンギン。
天敵のいるかもしれない海に最初に飛び込む者、あるいは未開の地へ最初に乗り込む勇者を指す言葉。転じて、利益を多く得ようとする命知らずとしての意味合いも含まれる言葉──。
「先着順だ。最初に玉座に手をかけるのは誰かな?」
「「「……。」」」
静かに。そして確かに大臣たちは、嵐が過ぎ去るのを待つかのようにお互いを牽制し合った。
やるべきなのか、降りるべきなのか……。正直おいしい話ではあるが絶対に勝てるという保証はないし、仮に勝てた場合の勢力図の変化すら彼らには想像も付かないほど大きく、簡単には動き出せない。そんな中ファーストペンギンは生まれる。
「──ワタクシが挑むというのは可能でしょうか?」
「「「!?」」」
最初のチャレンジャーとして手を挙げたのはチャイバル大臣。普段とは纏う雰囲気が異なるライバルからの提案にギントは目を見張った。
「へぇお前が。言っておくが、ルールを理解してなかったとか無しだからな」
「それはコチラのセリフです。負けてからウダウダなさらないように」
ギントはいつものように軽口で返したが、チャイバルは真剣な眼差しを崩さず言い返した。その異質さに何かがあったのだとギントが気付くも、イスから立ち上がった女の大臣が代わりに質問した。
「本気でしょうや!? チャイバル大臣! いちばんに陛下を止めていたヌシが、どうして急に?」
「もはや暴走が止まらぬのであれば、いっそのこと二度と暴走しないようにするしかあるまいと考えたまで。それに……ワシにはもう後がない」
チャイバルのその発言に、白い髭を蓄えた老人が口を挟む。
「うーむ。陛下もチャイバル大臣も、ちと短絡的な考え方じゃありゃせんか? まだまだ若いんじゃて、破滅するばかりの道を往くではなく、もう少し対話の時間を取っても誰も怒らりゃせんて」
「そうではないのです。そうでは……。ワ、ワシはその玉座をシンプルに求めている! 王の全てを受けるということは、ワシが王になることも可能だということ。それはワシの悲願でもある。王となりチヤホヤされながら、自堕落な生活の果てに何不自由なく老衰していく人生が送りたい! もう無理だと諦めかけてた夢をまた追えるなら、一世一代の冒険だってなんだってしてやる……。そうだしてやるとも!」
それが男の野望。
二十七、八歳頃からぼんやりと描いていたこれ以上ない人生の終わらせ方。
父親も元大臣ということもあり幼い頃から期待されてきたチャイバル。大臣に就任した直後は期待された地位に着けた安堵感が大きかったが、次第に時が経つとモチベーションはそっち移っていった。命すら危ぶまれる大臣という立場を今もこうして守り続けているのは、その野望があったからに他ならない。
「ほう、それも若さか」
そんな熱意が伝わったのか、老人は関心したように髭をさする。
チャイバルは説得するように続けた。
「オマエたちは何のために大臣になった? くだらない勢力争いに参加しご機嫌取りをするためか? その地位を継いできた己が一族に報いるためか? 少なくとも、誰にも言えぬ野望があった筈だ。思う存分やりたい事があった筈だ。でなければこーんな安月給の責任だけが重い仕事、長く務まるものか! 抑圧したもん叶えるなら今だぞ! 今しかないのがナゼわからん!」
大臣たちの牽制し合う目つきが変わった。単に役職に毒づいてる部分もあったが、他の者たちにも思う部分はあるようで身に染みているようだった。
「ワシは挑戦するぞ。諦めかけた野望なら尚のこと、陛下がくれたこのチャンスを無駄にはしない。どの道このままでは王にもなれず明日をも知れぬ我が身。なればこそ! 一発逆転に人生を賭けてみるのが、チャイバル家の男として生まれた者の覚悟よ!」
自らの家名を背負い挑む男の覚悟を目の当たりして、大臣たちはおろか、国民のほとんどが黙り込んだ。
ギントが改めてルーダーに話を戻す。
「お前の気持ちはよく分かった。ゲームの内容や日程について考える時間も──」
「コイントスでどうでしょう陛下。それなら今すぐ決められますし」
一切冗談ではないチャイバルの目を見て、ギントは驚きを口にする。
「ほ……本気か? コイントスに全部、賭ける気か」
問われるとチャイバルはおもむろに金貨を懐から取り出した。表は九十九世の肖像画、裏は製造年数が掘られている一枚の金貨。
「裏ならワタクシの勝ち。表なら陛下の勝ち。わざわざ複雑なゲームを用意しなくても、これなら今すぐ決着がつく」
「コインは誰が投げるんだ」
「それはワタクシが。それと陛下には財宝魔法があるので触れるのも禁止とします。このルールでいかがでしょう」
・コインを投げるのはチャイバル。
・裏表を選ぶことは出来ない。
・コインに仕掛けがあるかないか確認も出来ない。
ルールに干渉できないギントは、それに伸るか反るかしか選べない。
「誰か、水はあるか」
突然のギントの要求に、一同困惑するも、益荒男大臣が水筒を投げ渡した。
「緊張するなぁ陛下。いいぞ、我のを使うといい」
ギントは受け取った水筒を何も言わずおもむろに頭からブチまけた。
「な、なにを」
誰かがそう言ったが、気にもとめず濡れた髪でオールバックをつくる。
「……よし。やろうか」




