勝負は既に始まっている
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「正直に言う。まどろっこしいのはだりぃから全員奴隷にする」
ここは書斎──。
それは議会前日の勉強会での出来事──。
大国主たるトレジャーランド・サファイアジェットスピネルに、十三人の大臣をどう攻略するか問われたトレジャーランド国王にして元勇者のギントは、面倒くさそうにたった一言そう答えた。
「ど、奴隷って、……大臣たちを?」
公務のとき以外は基本、下着一枚にだぼだぼなシャツと黄金色のガントレットを身につけ、軽装と呼ぶのかよく分からない格好をしているギント。ヘンテコだと何度もスピネルに言われたが結局、聞く耳は持たなかった。
「がんじがらめの現状を打破し、絶対的で独裁的な王政を取り戻す! そのために、絶対に裏切らない大臣たちがほしいんだ」
ギントの目の前にある空いたカップに、最高位である執事の爺やがレモンティーを注ぎながら間に割って入る。
「それが奴隷化というわけですか。なるほど、強い言葉ですね」
「ああ。全員は無理でもお前の言う通り、過半数は確保したいと思ってる。それとオークニ様には、明日の議会で交渉のための場作りをしてもらいたい」
「交渉って、絶対ルーダーを仕掛けるつもりだぁ。おもしろそーだからイイけど……その分、何を賭けるの?」
「オレか? オレが賭けるのはヤツらのそれに見合う、それ以上のもの──。奴隷になるリスクを背負ってでも欲しがるものを提示すれば、おのずと無視は出来ないハズだからな」
「ちょちょぢょっ! ちょっと待って! それってもしかして……、いまのタミくんの全てとかじゃないよね!?」
心配し激しく詰め寄ってくるスピネルに対して、中身五十代の現美少女は優しく笑いかける。
「問題ねえってオークニ様。爺やがいてオレがいて、アサシンズがいて騎士ドゥークやパステル博士も居るんだ。最悪負けても、オークニ様がなんとかしてくれるし、負けなきゃ平気よ平気!」
屈託のない笑顔だった。それでもスピネルの表情は晴れない。いつもの軽い感じのノリが出ない。
「そうは言うけど、元のカラダに戻る前に何かあったら國は……」
「初めから負けることを考えて命は張るやつが何処にいるか。そう言いたいのですね陛下」
トレジャーランドの化身であり国民の象徴である大国主が思い悩み、現在ギントと協力関係にある戦闘万能型執事の爺やが代わりに告げてくれる。
「フッ。無駄に歳は食ってねぇな爺や。交渉の席の準備、あんたにも頼もうかな」
「なんなりと」
「タミくん、負けないって約束して? 言いたいことはわかるよ? でも言葉にして欲しいよぉ……國に約束してぇ……」
心配が勝ちすぎて、もはやスピネルは泣く寸前だ。さすがに泣かれては困るのでギントは答える。
「そうならないように策は巡らす。約束する。オレを信じてくれオークニ様」
一度決めたら簡単に曲げない男の覚悟に、スピネルは後ろから抱きつく形で返事をした。
「……死んでも負けないこと。絶対に死なないこと! いいね?」
「わぁったよ。オレの命にかけて」
ギントはスピネルの落ち着く匂いを嗅ぎながら頭を撫でた。
「ところで爺や、お前の言う理想の王様ってのは、絶対的な権力者で合ってるんだよな?」
「おおむね。ですが、もっと簡潔に答えるならば──『私の言うこと聞く王』ですかね」
「ふざけんな、お前のための王になんの価値がある」
空気が途端に張り詰める。両者の譲らない意思が、視線が、鋭く混じり合い、間に挟まれるスピネルはおろおろとする。
「あわわ……」
スピネルは二人が契約を交わそうとしていたことを知っている。既に二人から説明を受けているからだ。
【ギントと爺やが結ぶ予定だった友情契約】
・契約終了まで爺やはギントやスピネルたちの仲間でいること。
・爺やにとっての理想の王にギントはなること。
・どちらかが破棄された場合は契約終了。
だが、爺やと大国主が交わした契約の一部が被っていたため、実際には結ばれることは無かった。
【大国主と爺やが結んだ決闘契約】
・大国主は自らの権能を一つ、爺やは嘘を付かないことと味方になることを賭けてゲームを行う。
・ゲームルールはギントをケガや死から守ること。
・守り切れば爺やの勝利。無理なら敗北。
・期間はギントがもう一度入れ替わるまで。
・ギントの不注意によるケガや自傷行為は大国主が気付かなければスルーとし、病気や体調の変化による出血は無効。意図的に傷付ける等の行為も禁止。
・特別譲歩として爺やの正体を語らない。
そういった契約があり、爺やはギントに手を出すことが出来ない。それを知った上でギントは挑発とも取れる刺々しい言い方をした。
スピネルはまず、ギントを説得すべきと思って行動にでる。
「まあまあ、タミくん。そっちは契約を結んだワケじゃないし、無理して目指す必要もないよ」
「一度決めたことは限界まで貫き通すって決めてんだ。それに、ゆめゆめ忘れるなって爺やに言われたばかりだからな。強欲に行かせてくれ、王様らしく」
ギントの強い意志を見て、爺やがあっさりと折れた。
「『この国で誰も抗えない権力者』になれば貴方を認めましょう。そうすれば私も、この野望から手を引ける」
「いずれにせよ、そのための奴隷ゲームでもある。……作戦を伝えるぞ」
ギントは明日の二人の行動を指定した。
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時は現在に戻る。
「ま、全くご冗談を陛下……! 誰がこんな、国家も揺るがしかねないゲームに乗ると言うのですか。 宝珠が点いていたら、今ごろ国民は大混乱でしたよ……!」
陛下にこれ以上勝手をされると後がないチャイバルは必死になって抵抗の意思を示した。しかし単眼のマーク付きの白いアイマスクが顔上半分を覆う胡散臭い男の大臣が近寄り、あることを指摘する。
「いやー、それなんスけどねチャイバル大臣。映像用の宝珠。どーにも点いてるっぽいんスよねー」
「なんだと!?」
「ケシシッ。……音声用の宝珠もだぁ。やりましたね陛下ァ」
病的なほど青白く、細く長い女が音声用の宝珠も点いていることに気付き、王の仕業ではないかと意味ありげにうすら笑った。ギントはそれをあっさり認める。
「そうだ。この会議の様子は、開始時からずっと宝映されてる。国民には既に筒抜けなんだよ。お前たちの普段の様子がな」
途中で寝ていた大臣が、引き攣った顔をしながら起き上がった。




