王様VS十三人の大臣
「──以上、本日の議会欠席者一名のみ。これより議題を始める前に、改めて陛下のご紹介をして参りたいと思います。それでは陛下、お入りください!」
進行役を務めるチャイバル大臣が集まった全ての大臣に生まれ変わった国王陛下を紹介すると、二階席の扉が開き、この世の豪華を詰め込んだ豪華な衣装に身を包む男装の麗人が登場する。両脇には紳士たるバトラーの爺やと淑女たるメイドのペリドの姿が立ち、その者と歩幅を合わせる。大臣たちはそれを椅子から立ちもせず、ただじっと眺めるだけに留まった。
「おおよそ、この声を聴くのは初めてであろうヌシらのために、自己紹介を携えに来た」
陛下の第一声。冷徹さを孕んだ底冷えする声に、大臣たちの心が打ち震えた。生まれ変わった陛下──。それが比喩ではないことを知ったのだ。
「勇猛なる狩人の子孫たる諸君らよ。一〇〇代目トレジャーランド国家現当主、──余こそがファナード百世である」
およそ一週間の勉強が役に立った。品行方正と怖さが際立つニュー王様の完成である。
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「では陛下、司会進行役のワタクシがお呼びましたらお部屋にご入場ください」
そう言うとチャイバルはそそくさとその場を後にする。
「おい、どこに行く」
出入口とは反対方向に進むチャイバルを心配して声を掛けるが、その疑問は隣りにいる爺やが解決してくれた。
「大臣たちは一階で議論します。陛下はそれを上から静観するのが今回の役目です」
「見守るっつーと聞こえはいいが、お飾りに徹しろってことだろ? まじうぜー」
据わった目をしてギントが悪態つく。
「んーおかざりぃ? 陛下は、めいいっぱい着飾った方がかわふぃ〜でしょうね〜」
いまいちピンと来ないペリドは小首をかしげたあと、ギントがあまりにも愛らしくて顔を揉みしだいた。ギントはそれを無視してスピネルに話しかける。
「オークニ様、夜遅くまでありがとな」
「うん……準備はバッチリぃ……ね」
目の下にクマが出来ている大国主は、徹夜して何かしらの準備していたらしく、満足気にサムズアップする。
爺やはギントに最後の確認をした。
「大臣は全部で十三人。覚悟は出来ましたか?」
「成功すれば議会も乗っ取れるんだ。やるさ……いくら時間が掛かろうとも」
足音や雑音を吸収する特殊な絨毯の上にいると、自分の鼓動がよく聴こえ緊張してるのが分かる。勉強中何度も聞いた爺やの説明を再確認すると、少しだけそれが落ち着いた。
「タミくん、学んだこと全部ぶっぱなしちゃえ!」
ギィィイ──。
三人と一國は、年季の入った両開きの扉が開くのを待つ。
「ファイトで〜す陛下ぁ。何するかよく分からないですけど〜」
この先が評議会。
王専用の出入口から大国主以外の三人が同時に入場する。
「それじゃあ、行くか」
足を踏み入れた瞬間、色彩や空気が一変した。
ドーム状の室内には魔法で造られた小さな光源がシャンデリアのように天井付近でプカプカと浮いており、オレンジ、黄色、赤、白の無数の光の玉が暖かく室内を満たしている。距離感が掴めなくなるほど高い天井に、三人の足音が際限なく響きわたる。王専用フロアが高い音の響きやすい大理石になっているのは、議会なりの配慮だろうか。巨大な会場の中心には十三の背の高い椅子が円卓を囲むように内向きに並んでいるが、音で王の到着をアピール出来る形になっている。
十三のうちの十一脚の椅子には既に大臣たちが座っていたが、足音に気付くと即座に振り向いた。
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──こいつら、立ち上がる気すらねぇのかよ。舐められてるとは分かっていたが……こりゃ相当だな。
完全アウェイだが、ギントはむしろやりがいを感じて大臣たち全員を見おろした。途中、目の合ったチャイバルが進行用資料で慌てて顔を隠した。彼は進行役なので自席には座らない。
「既に聞き及んでいるとは思うが、余は記憶が曖昧だ。理解しろとは言わないが、議題に口を挟むやもしれん。そこは遠慮なく付き合え」
「そうさなぁ、では我らも改めて自己紹介が必要ですなぁ! 我が名は──」
「いらん」
必要以上に声のデカイ、ごん太眉毛の益荒男の自己紹介をギントは途中で遮った。
「必要だと思った者だけ後で調べる。それ以外はしらん」
「ガ、ガ、ガハハ! 無能の名まで覚える気はないと申すか。なかなかの気概っぷり! 生まれ変わりの第一印象や良し!! たった一度の定例会議で有能無能を決められるのは少々むず痒いがキライではぬぁいッ!」
益荒男はたくましいその腕を震わせながら豪快に笑った。眉も髪も刺々しい奴だ。他の者たちは逆に興味を失ったように視線を円卓の中心に戻す。
「そ、それでは本日の議題に移ります。まずは襲撃に際し、ノミグスリ市の被害状況をクダヘリル大臣お願いします」
司会進行役は資料作りと大臣たちのスケジュール調整、議場のセッティングや場を回すのが主な仕事にあたる。しかし、国中が帝国の被害を受けるというイレギュラーがあったために事前に用意した資料だけではまかないきれず、チャイバルはその部分の説明をほかの大臣に丸投げした。
役割はほとんど終わったのでホッとした様子で一度、席に着くチャイバル。開場は月二回。ローテーション形式で組まれた司会進行役は一ヶ月交代なので、今月二度目になる大食漢はあと一年このめんどくさい作業をやらなくて済むのでスッキリした顔をする。ちなみに先月はあの益荒男だった。
『大臣たちは予め、話し合う意見や反論までも台本にまとめています。映像用の宝珠が一般国民向けに開放され、議会の様子が中継されるので、放送事故を避ける狙いがあります。ただし今回は例外。緊急性の極めて高い会議内容になりますので、台本も映像もなく行われるはずでしょう。本来であれば』
そんなことを爺やが語っていたことをギントは思い出す。国中には拡声器、噴水広場には水の膜に浮かぶ議会の生中継。今の王様になってからそうなったらしい。
『オレ抜きでリハーサルまでやってんのアイツら? イレギュラーの本当の怖さを教える必要があるな』
議会開始から三時間が経過──。
風格というメッキがだんだんと剥がれてきたギントが、浅く座り背もたれにもたれてあくびをしていると、ようやく終わりが見えてきた。
「──それでは、本日の議題を終了します。陛下、最後に何か一言ございますか?」
「そうだな。だがその前に」
横で待機する爺やが突然、円卓の中心に向かってナイフを投げつけた。立て続けにフォークやスプーン、箸まで飛ばし、それらが円卓の中心に一直線で突き刺さる。
「陛下、これは……」
大臣たちは困惑している。
「やれ」
ギントがそう伝えると、円卓に刺さるフォークやスプーンが時間差で円卓を真っ二つにした。
「「「「!?」」」」
「少し離れるといい。巻き込まれたくなければ」
忠告を素直に受け止めた大臣たちは席を立ち距離を置く。
急激に形を失い、溶け始めたスプーンやフォークが割れた円卓の間に橋を架け、円卓をV字に開く。そこに椅子が並べられて、円卓の時には見ることの出来なかった大臣たちの顔が、ようやく王様の方に向く配置となった。
「これで、余に背中を向ける不届き者は居なくなったな」
「ガハハ、ガッガッガハハハ! 豪快だな陛下。少しヒヤッとしたぞ」
「それで、ここまでして聞かせたい一言とはなんじゃ?」
白い髭を触りながら面長の老獪が楽しそうに聞いてきた。問われたからにはシンプルに答える。
「ルーダー。お前たちに勝負を申し込む」
そう言うと王様は軽々と二階から飛び降りた。
「あぁ、もうめんどくせぇ。こんな態度どうせ続かねぇし、いつものオレで行かせもらおうか」
重たいマントと王冠を脱ぎ捨て、大臣の前にやって来て、指を一本かかげる。
「オレとゲームしろ。一回限りの……世間を巻き込むゲームをな」
なんだか余計なことを言い始めたと気づいて、チャイバルが慌てて間に入る。
「な、ななな、何を言い出すかと思えば、ここはお遊びの場では無いのですよ陛下……!」
「まあまあチャイバル大臣。良いではないでしょうや。聞くだけ聞いてみましょうや」
扇子で口元を隠す美人がそう言う。
「オレが賭けるのはオレ自身。オレという人権、オレという全て。王のもつ全特権の全てだ」
その言葉に大臣たちは絶句した。そして、ギントの差し向けた人差し指が大臣たちに向けられ、もう一つの条件が発表された。
「その代わり、お前たちが賭けるのは──末代までの人生。負ければ一族諸共、オレの奴隷になってもらう」
王様VS十三人の大臣。
全てを賭けたゲームが始まる。




