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残念ですが陛下、スローライフはお預けです。  作者: ヒガツキ
第三章 陛下、襲撃のお時間です。
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大国主を信じるな


 「定例会? 予定通り今日行われるみたいだけど、今から着替えても充分間に合うわよ。なんならゆっくりしてく?」

 「いや、早めに戻るよ。オークニ様に見られてもメンドいし」

 

 なんだかんだ女の子の裸体を見ることに抵抗感が無くなってきた自分に落ち込みつつ、畳まれているパジャマや下着を取って急いで着替える。

 

 「こういうのってあれよね……、不倫って言うのよね?」

 「なんでちょっと嬉しそうなんだよ。あと違うし」

 「じゃあ、かよい妻?」

 「それだと逆……でもねぇのか? とにかく、用があるときはまた顔出すから。そん時よろしくな」

 「まって! 陛下に渡さなきゃいけないものがあるの!」

 

 入り口の扉に手をかけた時、彼女がまん丸の瞳をこちらに向けてオレの袖を掴んで止めにきた。その手にはなにか手紙らしきものが握られている。

 

 「どうして意識を朦朧とさせながら、陛下が私の元に来ることを選んだのかずっと考えてたの。……これは頼まれたことじゃないんだけど、きっとそこに意味があるんじゃないかって思ったの。……大事な手紙を勝手に拾って読んだことは謝るわ。ただ、私の立てた予測を、少しだけ語る時間をくれない?」

 

 先ほどまでのふわふわした彼女はいなかった。

 

 「オレが落とした手紙? 差出人は誰だ」

 

 ジョウカは使命感に駆られた目をしながら応える。

 

 「差出人は不明だけど、パステル博士なら何か知ってるでしょうね。私なりの解読を聞いてくれる?」

 「解読?」

 

 色々と気になることが多いが、それくらいは問題ないと言って許可を出すと、ジョウカはすらすらと手紙の内容について語り始めた。その内容はどこか歪で、文としての違和感が不気味に伝わってきた。

 

 

 ========

 

 『春を迎え優しい季節が訪れても

 越えられぬ冬を待つ夕暮れの蜻蛉(とんぼ)が如く、

 私の心は死を待つだけでした。

 坂を、

 ただすべり落ちるかのように、

 何もかも捨てたいと考えた私を

 救ってくれた人は言いました。

 一緒に待とう、その記憶のある人を。

 裏切りは私。

 待てない私。

 どうか彼を責めないで。

 アナタも共犯者だから。公園に咲く綺麗な花。

 その名前が分からないなりにあることは分かります。

 もう会えなくても、

 ずっと咲いていることは。』

 

 ========

 

 

 「一見すると、複雑な胸の内を語っているみたいだけど、気になるのは『坂を、』で段落が切り替わっている部分ね。ここからナナメに下るように読んでいくと、ある言葉が浮かび上がる」

 

 おもむろに手紙を渡されたので黙読する。差出人の名前が無いどころか、オレに宛てた内容かも怪しかった。

 

 「す捨てて、すべ……すべてはの、すべては記憶にある、人?」

 「素人が急遽考えた暗号って感じで所々ズレてる。すべては記憶の園にある──。が正解よ」

 「記憶の園……ってなんだ?」

 

 自信満々に答えてくれたが、オレには初耳だった。彼女が嬉々として語る。

 

 「太古の昔、全ての大国主たちが仲良しだった頃──。力を合わせて彼方に追いやった世界が存在したの。それが『記憶の園』。彼らは人類から信仰と、それに付随する単語を奪ったとされている。ニーチェという哲学者が『死んだ者達』と呼ぶ存在と同一視されることがあるけど、『記憶の園』は『死んだ者達』を人類から奪った存在だから間違えないように」

 

 『死んだ者達』なら知っている。ガキの頃読んだスペースの冒険に何度か出てきた。そこに関わる手紙となると、ますます不気味に思えてならない。

 

 「詳しいんだな、そういうの」

 「ま、まあ、……ちょっと、趣味でそういうのに傾倒していた時期がありまして……ちょこっとだけ」

 

 キョロキョロ目を泳がせながら、ジョウカが申し訳なさそうに言う。恐らく思春期特有の無敵感ある時期に昔話や伝説にどっぷりのめり込んだクチなのだろう。平均的だと思ってた彼女の意外な顔が知れて、ちょっと得した。

 

 「それってどのくらい前のハナシなんだ」

 「七、八年前のことよ。たしかね」

 「え、ああ……」

 

 アサシンズは全員同年代であること以外、頑なに明かそうとしなかったが、これで全員ハタチ前後であることが判明した。

 

 ──ホントは太古の昔方を聞いたんだけど、まいっか。

 

 「陛下はたぶん、私の勘に頼ってこの手紙を持ってきた」

 「オレからは何も聞いてないのにどうしてそう思──」

 「それが私の勘だから!」

 

 食い気味に顔を近づけて言ってきた。

 ジョウカの勘は確かに末恐ろしい。オレがお昼に楽しみにしてたケーキが消え、満場一致でオークニ様が怪しいと槍玉に挙げられたが、ジョウカの勘により隠し部屋とそこにあるケーキが発見され、結局オークニ様が隠したことが判明した。

 ケーキが見つかるまで泣きながらえん罪を訴えてたオークニ様も末恐ろしいが、この勘に過去のオレが期待した可能性は大いにある。

 

 「そ、そうか。ありがとな。時間がある時博士のとこ寄ってみるわ」

 

 もう出るつもりで言ったのに、またしても引き止められる。

 

 「陛下はもう、パステル博士に手紙の解析を依頼してるはずだわ」

 「……それもお前の勘か?」

 

 ジョウカは顎を引いて答えた。

 

 「パステル博士は記憶の園について辿り着き、貴方にその意味を同じく説明したはず。それでも満足できる回答を得られなかった貴方は、私の勘に頼ることを選んだ」

 

 自らの勘を元にオレの行動を推測する彼女の黒い瞳には、夜空に輝く星々が大きく輝いていた。瞑想状態とも、覚醒状態ともいえる星々の動きに気を取られ、思わず息をするのも忘れる。

 

 「しかしアクシデントが起きてしまった。ここに来る直前、突然の目眩に襲われてしまったの。原因がジェットであることに気付いた貴方は無くしたくない記憶をあらかた私に話すとほどなくして眠りについた。その際、手紙のことは敢えて語らずにね」

 

 その瞳にオレは写っていない。真っ直ぐな暗闇の中で強い光だけが目まぐるしく公転している。

 

 「語らなかったのはその差出人を守るため。差出人がわざわざ暗号化する理由に裏切り者が潜んでいる可能性を見た貴方は、誰にも名前が分からなければ差出人が危険に晒される心配はなくなるとして自分の記憶からも消えることを好都合として選んだ。この部屋で服を脱ぎ散らかしたのも実は意味があって手紙を自然な感じで落としたかったからだと思うの。そうすれば必ずそれが私の目に止まり話題に上がって今みたいな流れにまで持っていけるもの。差出人を守りつつ暗号に隠された意図を確かめるためなら貴方はそこまでする男よ。そうでしょ勇者ギント」

 

 ほぼ息継ぎなしで言い切ると、彼女の目がパッチリした普段の感じに戻った。もはやその勘は過去が見えてるみたいに鮮明だったが、それだけでは終わらない。

 

 「逸話だろうが民話だろうが説話だろうが共通して『記憶の園』は大国主に仇なす敵側として語られる。『記憶の園』の存在を肯定的に捉えてるとも云えるこの手紙には、……私にはこうも言っているように聞こえる。──大国主を信じるな(・・・・・・・・)って」

 「──!」

 

 何故だろう……。

 

 心臓がギュッと縮こまり、悲鳴をあげる。

 

 知らないハズの言葉にこれほど動揺を覚えたのは、これが初めてだった。

 

 

ここまで読んでいただきありがとうございます。

これにて3章はおしまいです。

明後日からオマケを挟まずの四章へ。

更なる展開を期待してお待ちください!

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