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残念ですが陛下、スローライフはお預けです。  作者: ヒガツキ
第三章 陛下、襲撃のお時間です。
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ジョウカのルーム


 「じゃあそろそろ、聞いてもいいかそっちの話」

 「……!」

 

 待っていましたとばかりに少女が頷く。ソファーの上で正座になると忠犬みたくずりずり近寄って目を輝かせる。

 一緒にいる時間が長くなるにつれ、ファナードは徐々に感情を表に出すようになった。無口で無表情だった頃の彼女はどこに行ったか、たまにキスするんじゃないかと思うぐらい距離でオレの話を聞いたり、その日いちにちの流れを弾むように揺れながら教えてくれる。たぶん、今の方が幸せなんだと思う。

 

 「へーそれじゃあ、生まれて初めて財宝魔法を?」

 

 キンカから事前に話は聞いていたので知ってはいたが、リアクションが薄いと怒ってくるのでとにかく驚いとく。歴代の王たちが二十歳以降で発現したといわれる能力を、オレのカラダを使ったとはいえ十二才で習得したのだから実際スゴイとは思う。そうやって伝えると海藻みたくユラユラ揺れ始めた。分かりやすいヤツである。

 

 「で、倒せたのか?」

 

 ピキ──。

 

 相当痛い所を突かれたのか、瞬間冷凍された鮮魚のように動かなくなる。目を逸らし汗もダラダラかく。聞いちゃまずかったらしい。

 

 「お前の剣に恐れをなして逃げた感じか……ソイツは」

 

 オレが代わりに倒したという真実は、ファナードの顔を曇らせるだけなのでここは黙っておく。

 

 「な、なんだよ……」

 「……。」

 

 気付かれていないとは思うが、何故か疑いの目を向けてにじり寄ってくる。しばらく無言のせめぎ合いが続いたが、観念したように彼女の流し目が逸れる。

 

 ──ジョウカとはまた違った鋭さだなーおい。

 

 それから先の話は、愉快痛快だった。

 トンネルを通って外に抜け出す途中で敵に見つかり、トロッコカーチェイスをしながら鉱山を駆け登り、スピードの出し過ぎで四人一緒に海に向かってフライアウェイをしたあと、キンカが大空タクシーの笛を吹く機転を利かせなんとか助かるも、辿り着いたアンバーグラウンドで大規模窃盗団に拘束され、今は牢屋で明日をも知れぬ我が身を抱いて寝てるのだとか。

 

 「お前いっつも牢屋で寝てんな! あひゃひゃひゃ!」

 

 ファナードがふくれっ面でオレの頬を伸ばしにかかる。実際面白すぎるのでお前が悪い。

 

 「不幸体質が過ぎるだろホントに。……お祓いにでも行ってきた方がいいんじゃないか?」

 

 お祓いに行けとは、割と冗談の話では無い。オレとしては如何にして、現実世界の彼女にまでそれを伝えるか真剣に悩んでいるところでもあるくらいだ。

 声が出ないことが呪いのせいだと知っているのは、現状ここにいる(・・・・・)オレたちふたりだけ。現実世界のオレたちはここで得た知識や記憶を引き継ぐことはおろか、ほぼ敵対関係である上に、今すぐ会える距離でもないため接触する手段が難しい。

 故にお祓いを促すこのセリフは、ホワイトルームに向けたオレのささやかな抵抗でもあるのだが……果たして、彼女に伝わっているかどうか。

 

 「……?」

 「自分のこと不幸とも思ってもねぇ奴の眼だな!」

 

 箱入り娘だし? 常識が足りないのはまあ分かるけども、でもちょっとは察して欲しいところではあるのよ。歴代でもなかなか居ないと思うぞ。ここまで運ないやつは。

 

 「あぁ、もう時間か」

 

 無駄なことに思考を巡らせてる内に、どうやら覚醒の時間を迎えしまったらしい。胸より下が見えない。ファナードは消えかかっていないのでオレが先に起きそうだ。

 行く前に、最後に何か伝えておくか。

 

 「これから先、旅を続けていればイヤでも他人と自分を比較してしまう機会が訪れる。けどハッキリ言ってそんなのは無意味だ! あまり気にしない今の姿勢を貫いてくれ。それがおまえの美徳なんだから」

 

 意識がフェードアウトする。

 最後の方まで、伝えきれたか自信が無い──。

 

 

 ☆

 

 

 天井は、見覚えがあるようでなかった。歳のせいか、硬いとこで寝るとやっぱり身体がバキバキに凝り固まる。

 

 歳のせい?

 硬いところ?

 

 何を寝ボケたこと言ってるのだろうか。今のオレは十二才の少女だし、毎日ふかふかのベッドで休める環境があるじゃないか。

 それを思い出し身体を起こすと、オレはソファーの上にいた。

 

 「うう、あぁ……?」

 

 辺りを見渡すと、スゴく馴染みのある間取りをしていた。中心にL字のソファーや近くに本棚があったりとか確かに。だが奥にキッチンが見えたり、部屋が六坪ほどと多少広かったり、アヒルのぬいぐるみが所狭しと並べられていたりと相違点も多かった。

 内装が黒とピンクの二色しかないので気づくのが遅れたが、そうだ。ここはジョウカのための密偵部屋だ。彼女のモチベーションを上げるために特別に貸し与える予定の部屋だが、最初と印象が異なりすぎて分からなかった。内装は誰に変えてもらったのだろうか。

 

 「おはよう陛下。朝ごはんは玉子とハムでいいわよね」

 

 キッチンからジュージュー焼けるいい匂いを漂わせながら、ジョウカがフライ返しを持って話しかけてくる。なんだか、ものすごく柔らかい表情をしながら。

 

 「オレはここで、一体何を……」

 「ナニって陛下……そういうの、いじわるって言うのよ?」

 

 ジョウカが何故か頬を染めながら口にする。とにかく掛けてある布団をめくってソファーから降りようとすると、オレ自身、何も身に付けていないことに気付いた。

 

 「わ!? え、なんで!?」

 

 ジョウカは振り返らずに言う。

 

 「服は予め畳んでこちらに置いてあります。だって、濡らしてしまったら大変でしょ?」

 

 濡らす? 何でだ。それが疑問として口を出る前にジョウカが朝食を運んできた。全裸は自分で見るのも避けたいので急いで布団にくるまり、流れでお皿とフォークを受け取る。

 テーブルもないので二人でソファーにくつろぎ横並びにいただく。

 

 「いただきます」

 「……いただきます」

 

 皿の上で丸くなるパンと目玉焼きとコショウがたっぷりかかったベーコンが美味しそうに照っている。最初に黄身の方をフォークで割りにいくと、トロ〜っと中身が溢れ出した。衛生的にヤバそうだ。

 

 「これ、玉子が生焼けじゃないか?」

 「それは半熟っていうのよ」

 「食って大丈夫なのか……?」

 「イヤなら食わなくて結構です。片付けますから」

 「……ぐ」

 

 真面目に確認しただけなのに、なんだかオレが悪者扱いされてしまった。イヤに不機嫌だから色々と聞にくい……。とりあえずお腹は空いていたので下げられてしまう前に急いでかき込んだ。美味しかった。

 

 「えっと、それであの、ここは密偵部屋だよな? どうしてオレは……ここにいるんだ?」

 

 二人分の皿を洗い終え、帰ってきたジョウカに改めて話を聞いてみる。

 

 「どうしてか。どうしてだと思う?」

 

 左に座った彼女がオレの腕にしがみつき、頬擦りをしてくる。ちゃんと答えもせず甘えてくる、猫みたいにだ。

 

 「せめて右側に座ってくれないか? 左側からだとあんま慣れてなくて……」

 「陛下がそういうなら、きゃっ」

 

 新婚カップルのような距離感。彼女のいい匂いがずっとする。マジメに答えてくれそうな雰囲気がない。

 

 「私……初めてだから、上手く出来たか分からなかったけど、昨日のがその……〇ッ〇〇って言うのよね?」

 「〇ッ〇〇したのか!!? 女の子同士で!? 〇ッ〇〇したのか!?!」

 「唇と唇の接触は、別名子作りとも言うそうよ……?」

 「言わねーよ! あっぶね! それ以上はなかったんだよなあっぶね!」

 

 ハダカだった理由の方を先に言われても前後関係が分からないのでパニックになる。

 どうやらオレは、記憶を喪失になっているらしい。

 

 

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