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残念ですが陛下、スローライフはお預けです。  作者: ヒガツキ
第三章 陛下、襲撃のお時間です。
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裏切りはもう出来ない


 闘技場に向かおうとするギント、イズオー、ミタマホ、モナとは反対に、変わり果てた姿で見つかったジョウカの元に戻ろうとするルーシー。そんな彼女をイズオーが羽交い締めにするも、構わず進もうとしたことで普段静観する立場の多いモナが珍しく間に入った。

 

 「いつまでそう甘ちゃんでいるつもりだ。もっと現実を見ろ。我々は陛下の温情により生かされてる立場であることも忘れたのか」

 

 覚えていると言いたげな目で一瞥すると、ルーシーはジョウカを見た。

 

 「今、眼を逸らしたら、明日以降の自分に私が殴られるんだよ!」

 「……理解してくれルーシー。お前の分も、私が一緒に殴られてやるから」

 

 モナとイズオーに諭され、ルーシーはようやく溜飲を下げた。色々と気持ちの整理は付かないが、皆の気持ちを汲む余裕が少しできた。

 

 「……陛下もみんな、ぶん殴る」

 「それはただの暴力だ」

 

 イズオーはいつになく優しくそう告げた。

 

 

 ☆

 

 

 収容人数四万人超の第一国際闘技場は、千年に及ぶ伝統の、血で血を洗う戦士たちの楽園と云われている。

 当時から変わらない石造りの由緒あるコロシアムは近年、数多くの不正行為やスター闘士の不在により採算が合わなくなり、魔法コンテストや国際スポーツ、実技試験会場として使われることが多くなった。そういった背景から国民にとって馴染み深い場所になりつつあり、既に収容人数を超える大勢の避難民が嵐が過ぎ去るのを待つように肩を寄せ合って待機していた。

 そんな会場のピンチに大国主が気付いたのは、雷を纏う猿──ライゴウエン五匹が会場に侵入した瞬間だった。

 今まさに人が襲われようとしているその刹那、四人の戦士たちがシャボン玉に乗って姿を現した。

 

 「聞け! トレジャーランドに住まう全ての民たちよ!」

 「我らは平和を愛する者! この国に住まう、救世主を求める者! 今こそ勇者が必要な時ではなかろうか!」

 

 イズオー、ミタマホが順に叫ぶと、避難民たちは勇者だけはないだろうと言いたげな苦い顔をする。構わず今度はモナが叫ぶ。

 

 「しかしオマエたちが、勇者すらも危険視するのであれば! 頼れる者は最早あの方しかいないはずだ! そうだろう!」

 

 大勢を救うということは、あの方(・・・)にとって信用を回復する絶好の機会。だからこそ、こういった丁寧な前フリは非常に重大なのだ。

 

 「……。」

 「お、おい。何やってんだルーシー。お前の番だぞ」

 

 事前に打ち合わせしたあの方のカッコイイ登場シーン。その演出のために皆が予め用意されたセリフを叫ぶも、ルーシーが心ここに在らずの状態で俯いて止まってしまっているので、イズオーが肘でつついて合図を送る。

 

 「我々は敵でない。救いを求めるみんなの味方で……国王陛下の味方である!」

 

 気を持ち直したルーシーの発言の後に、並び立つ四人の中央を割ってあの方が現れる。正装は正装でも、フル装備に身を包んだギントはヒトと魔物の中央に君臨する。

 

 「おい、あれ!」

 「陛下じゃん!」

 「え、あれが陛下?」

 「本物か……?」

 

 ライゴウエンと正面から対峙するその背中に向かって、人々は様々な印象をぶつける。おもに漠然とした不安が大部分を締めていたが。

 

 「大丈夫、なのか?」

 「無理だろあれじゃ」

 「いいのかな……? 頼ってしまって」

 「いや、もうお終いだろ」

 「ウヒヒヒヒヒヒヒヒヒウヒヒヒヒヒヒ」

 

 ライゴウエンが小さな存在を嘲笑いながら手を振り下ろして襲いかかるも、目の前に展開した謎の青い障壁が四人とギントを守った。障壁に向かい右手をかざしながら、背中から臀部の上辺りにかけて大胆に開いたスーツを着たイズオーが叫ぶ。

 

 「よく見ておけ! これがこの国の、頂点に立つお方の実力だ!」

 

 自動防壁を展開する数台の小型機を疑似財宝で呼び出したイズオー。

 その防壁はあらゆる魔法を跳ね返し、物理攻撃を無効化する高エネルギー素粒子の壁で出来ている。どんな解除魔法も封印スキルも無効化する絶対防御のその壁は、浮遊する小型機が破壊されない限り破れることはない。その小型機もスーツがある限りリソースは延々尽きないので、実質無限の壁ともいえた。

 

 「人類はふたつ史実はひとつ。価値と価値を知る者は理を謳歌し、想像は時に勇気と試練を呼び覚ます──」

 

 ここまでお膳立てさせておいて、倒せなかったでは話しにならない。故にギントは全力の一撃でもって終わらせることを選んだ。この姿になってから一度も成功していない奥義だが、体力も魔力も万全に近い今の状態なら間違いなく放てると信じて。

 

 「──顕現解放、ボス部屋(コロッセムウ)

 

 サルたちは、あっさり死んだ。

 

 

 ☆

 

 

 暗がりの空から、そろそろ本格的な黒雨が降り始める。中庭側の窓ガラスに雨が当たって道すじが出来るのを眺めるのは、王城の廊下にて立ち尽くすイズオーだ。憂いを帯び、悲しげな素振りをみせる彼女に惹かれるように、また一人、ギントが庭を眺める。

 

 「凄いですね。先ほどの演説の効果。皆さんが一心に貴方さまを信頼なさって、あれほどの大喝采……。私たちまで心が打ち震えました」

 「急造のセリフだったが、よくやってくれたよお前たちは」

 

 魔物を倒したその後、しばらく間を置いてから現状を理解した国民による陛下コールが絶えず流れ続けた。その時の迫力と一体感が忘れられないというように、イズオーは胸に手を当てて静かに目を瞑った。

 

 「陛下の人心掌握術はまるで全てが計算のウチのように、完璧にハマっていくんですね。……私たちがそうやって集まっているみたいに」

 「肝心なことの方は上手くいかねぇけどな」

 

 一瞬。ガラスに亀裂が入るような音が聞こえたが、慌てるほどの被害はない。

 

 「……。」

 「……。」

 

 しばらく流れる無言を、雨音が包み込む。どちらからともなくギントが口を動かす。

 

 「さっそく遠征だが、準備は済んだのか」

 「はい。あの三人は慌ててるみたいですが」

 

 王都ならともかく、トレジャーランド全域の被害状況を見るには大国主の目だけでは足りない。そこでアサシンズはしばらく地方に散らばり、視察兼救助の任に着くこととなった。行き先は四人バラバラなのでイズオーは今夜にでも出立できるのだが、余韻に浸りたかったのか、はたまた哀しみに暮れていたかったのか、神妙な面持ちで三人の準備を待っていた。

 

 「イズイズー。私の替えのパンツ知らなーい?」

 

 遠くから呑気なルーシーの声が聞こえて、イズオーは軽く顔をしかめたが直ぐに笑った。

 

 「私が知るわけないだろ……まったく。ま、立ち直ってくれただけ良しとしますか。お先に失礼します、陛下」

 

 そうして小走りに駆け出そうとした彼女の耳元に、すれ違いざまにギントは告白した。

 

 「ジョウカのようになりたくなければ分かるな」

 「──!」

 「お前には何もしない。が、あの三人の安否はこれからのお前の行動次第。不審な行動をすればするだけ仲間は減っていくと思った方がいい。大事なら、気を付けろよ」

 

 イズオーは足を止め、呼吸すら忘れた。最も恐れていた死因が起きたのだと気づいた時には、少女はその場を既に去っていた。

 

 「おーいイズオー? どったのこんなトコロで」

 

 地面に手を付いて項垂れるイズオーに、様子を見に来たルーシーが不思議がって近寄る。

 

 『大事なら、気を付けろよ』

 

 悪魔の囁きが再度脳裏を支配する。何処で王様が見てるか分からないので汗がどっと吹き出す。

 

 「ほ、ほら、お前の無くしたパンツがこの辺に落ちてるかなと思って、探してたんだ」

 「ここまでは流石に……お、マジでありましたわ。オーオーエスパーか? これで三日はイケるぞー。リバーシブル使いもワンチャン……。イズオー?」

 

 燭台の下から探し物を引き当てたルーシーの声は、もはやイズオーには届いていなかった。

 

 「ちょっと行きたい場所があるんだけど、付き合ってくんね?」

 

 何やら危うい状況のイズオーを見かねたルーシーは、彼女を連れてとある場所に向かった。

 

 

 ☆

 

 

 そこは見晴らしのいい平原。天気さえ良ければ毎日寝転がっていたいほど気持ちのいい場所に、ぽつんとひとつ簡易的に作られたお墓がある。

 ずぶ濡れの墓の前に黒い傘を持って立ち尽くす二人の元暗殺者。しばらく沈黙が続いたあと、二人は帰ることになり、ルーシーがこれ以上墓を濡らさないようにと傘を立て掛けた。

 

 「おいくっつくな、うっとおしい」

 

 踵を返すイズオーの傘の中に、ルーシーは強引に割り込んで腕を取る。

 

 「ほら、もうちょいそっち行って。大事なルーシーちゃんが濡れちゃうでしょ」

 「調子のいいやつめ……」

 

 悪態つきながらも、その声はどこまでも優しかった。

 

 

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