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残念ですが陛下、スローライフはお預けです。  作者: ヒガツキ
第三章 陛下、襲撃のお時間です。
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受け入れざる死


 性格も知能もスリーサイズも五人の真ん中を通るジョウカ。強いて特徴を上げるなら勘が鋭く肌感覚に優れている彼女は、薄暗く静かな森でシャボン玉から降ろされた。

 ここに降ろされたからには何か意味があるはずだと辺りを懸命に捜索し、今まさに彷徨(さまよ)っていた。

 

 「四天王は……なしと」

 

 バサバサ──!

 

 木陰からコウモリが飛び立ち、慌てて構える。

 

 「わぎゃい!」

 

 ホラー耐性も平均的な彼女だが、実は結構なビビり。右も左も分からない森の中では何が飛び出して来るか分からず、早く抜け出したいと足早になる。

 

 「さっさとやる事見つけて、出た方が良さそうね。精神衛生的に」

 

 討伐隊(こちら)は七人、四天王(てき)は三人。四天王と出会わなかった者をハズレと定めるなら自分はハズレを引いたのだと考える。

 しかし何も無い場所に降ろされたとなるとやっぱり不安になる。大国主は七人それぞれを適材適所に振り分けて送っているのでこの場所に送られた理由も必ずあるはずだが、それが分からない。手がかりが見つからない。

 結局探し回ったが無駄に時間を浪費してる感が否めず、貢献度の足りない自分に焦る。

 

 「どうしよ。私だけサボってるみたいで……なんだかなぁ」

 「ようジョウカ。元気してるか?」

 「トッギョイ!」

 

 ビビりながら振り返ると、どこからともなくギントが現れた。元気よく手を振る彼の背後には爺やの姿も。二人とも討伐隊のメンバーである。

 

 「陛下、それにバトラー殿まで。どうしてこんな何も無い所に三人……も?」

 「珍しいなぁ、勘の鋭いテメェが何も感じないなんて」

 「……え?」

 

 気づけばジョウカは二人に囲まれていた。ギントが身につけていたガントレットを漆黒の武装に切り替える。

 

 「裏切り者の末路だジョウカ。……悪く思うなよ」

 

 その一言で気付いた。

 この場所に連れて来られたワケを。

 

 

 ☆

 

 

 「ほら、お願いじゃ! わらわをここから出せ! 出せと言ったら出せ! どんな褒美も遣わす! だから置いてくな!」

 

 胸元が大胆に開くスーツを着たミタマホは『妖狐のプレレシア』との花畑での戦いに難なく勝利した。

 ミタマホが胸元のスーツを大胆に削り取って呼び出した武器は手のひらサイズの水晶。特に伝説由来でもなんでもないそれは、覗き込んだ任意の者を閉じ込めるというシンプルな能力でもってキツネ女を水晶の中に閉じ込めてみせた。最早戦いとは呼べない初見殺しの寸法で決着をつけたのだ。

 

 「ジョウカ?」

 

 燃える花畑のさらに奥にある森の中から、同じアサシンズであるジョウカらしき人物と目が合った。ミタマホが呼びかけると何故か逃げていくので、水晶も忘れたまま追いかける。水晶は業火の中に取り残され、必死に助けを乞う妖狐は、自分の燃やした花たちと共に蒸し焼きとなった。

 

 「きゃー!」

 「ジョウカ……! どこにいるですジョウカ!」

 

 森の中をしばらく迷って歩いていると、ジョウカによく似た悲鳴が上がった。急いでその場に向かう。

 細かい棘のような草が顔に刺さろうともお構いなしに草の根をかき分け突き進むと、横たわるソレを発見した。

 

 「ジョウ、カ……?」

 

 

 ☆

 

 

 「その、助かったが申し訳ない。大事な武器だったのだろう……?」

 

 何とか生き延びた団長ドゥークは、窮地を救ってくれたルーシーに精一杯の感謝と謝罪を述べた。どんなに心苦しくても、相手に構う余裕がなくても、亡くした者たちに教わった他人への配慮は忘れない。

 

 「いーのよいーのよ。また造ればいーから大丈夫よん」

 

 そう言って笑顔でその場を去ろうとする彼女に「せめて名前だけでも」とドゥークが懇願すると、ルーシーは少しキメ顔をつくる。

 

 「フッ。名乗るほどの者じゃないぜ。あたしゃー闇の住人ってヤツだから、ね……」

 「ルーシー!」

 

 背後から自分を呼ぶ声がして、ルーシーは思わずズッコケる。

 

 「なんだよーイズイズ。せっかく人が気持ちよく決めてるところなのにさー。オーオーって呼んじゃうよ?」

 

 声を掛けてきたのは白藍髪にメガネの似合うアサシンズリーダーのイズオー。ずいぶん長いこと走っていたのか、両膝に手を置いてゼーゼー息を切らす。

 

 「ふざけてる場合じゃないんだ。ジョウカが……ジョウカが……!」

 

 普段まとめ役の彼女がありえないほど呼吸を乱している。それを見て瞬時に茶化してはいけない空気を悟ったルーシーはその案内のもと、急いで薄暗き森へと向かい走るのだった。

 

 

 ☆

 

 

 「ジョ……ウカ?」

 

 その場には既にアサシンズの二人と、ギントと爺やが揃っていた。

 ミタマホが仰向けの状態のそのヒトに対して覆い被さるように泣いていたので、まだ顔は見えないが血まみれに破れたスーツや乱れきった黒髪を見れば、おのずと状況は察せられた。カラダ目当ての何者かに、乱暴されたのだと──。

 走ってきたからか余計に、ルーシーの鼓動は爆速に音を立てる。

 

 「ジョウカ! ……ジョウカ!!」

 「お、落ち着け! だからっ! もう死んでいるんだ!」

 

 ルーシーは気でも狂ったかのように、泣いているミタマホを引き剥がしにかかろうとしたのでイズオーが引っ張って取り押さえる。そうやって事実を何度も伝えると、しばらく大人しくなった。

 

 「……うゥ」

 

 ジョウカには乱暴された形跡があった。それも数人の男による生きたままの犯行だったようで、顔は絶望の涙を溜めた状態で硬直している。

 彼女の過ごした壮絶な最後を想像しただけでルーシーの嗚咽は止まらなかった。怒りが抑まらなかった。

 イズオーが淡々と状況を説明する。

 

 「第一発見者はミタマホだ。ジョウカの悲鳴を聞いて、駆け付けてみたが……もうダメだったらしい」

 「なんで……? 皆んなで四天王倒したじゃん。誰が、だれがジョウカをこんな目に!! ふざけんなよ返せよこの野郎!! 返せよぉ!」

 「……。」

 

 すぐそばで遺体に寄り添うギントは、取り乱す彼女に励ましの一つも掛けず立ち上がった。そこに地面を抜けて、血相を変えた大国主がやって来る。

 

 「みんな大変だ! 闘技場でバケモノたちが大勢襲ってる! 早く助けに行かなくちゃ皆死んじゃうよ!」

 「闘技場っつーと、一番デカイ避難場所じゃねーか」

 「犯人は……そこにいるですか?」

 

 決意の籠る視線を揺らしながら、ミタマホが立ち上がる。そればかりは分からないと大国主ははっきり伝えた。

 

 「爺やはここに残って、彼女を頼む。あとは全員オレに付いてこい。もう誰も奪わせないぞ」

 「「「は!」」」

 

 ギントの掛け声にルーシーを除くアサシンズが強く返事した。

 

 「ジョウカは? ジョウカはどうすんのさ……? イヤだジョウカも一緒に行くんだよ! なぁ! ジョウカ立ってよ……。 お願いだよジョウカ!!」

 

 ルーシーにはまだ、誰かを救う余裕はなさそうだ。

 

 

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