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残念ですが陛下、スローライフはお預けです。  作者: ヒガツキ
第三章 陛下、襲撃のお時間です。
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モナの計画


 「来るな馬鹿者!」

 

 傍からみれば明らかに有利なポジションでマウントを取る氏族長。だからなのか男の警戒心はユルかった。その背中に大量の矢が刺さってることに気付いた男は氏族長の身を案じるように慌てて教会内に足を踏み入れた。

 そうして、落ちていた矢、壁に刺さる矢に同時に襲われる。

 

 ──!

 

 「う、……ムサカ様?」

 

 男は飛んできた氏族長に押され尻もちをつく。自分が取り返しのつかないことをしたと気付いた時には、ムサカは血反吐を吐いていた。

 

 「ムサカ様ぁ!!」

 

 力無く倒れるムサカを男は必死に抱きかかえた。矢は顔以外の全ての急所を射止めているように見えた。自分の責任だと重く受け止めつつも、迂闊に抜いてはいけないのでどうすることも出来ない。

 

 「何事だ!」

 「ムサカ様!?」

 「おのれ貴様か!」

 

 遅れて三人のダークエルフがやってくる。筋骨隆々で明らかに強者の雰囲気を漂わしている。すぐさま上体を起こし弓を構えるモナだが、流石に分が悪いと感じたのか一筋の汗を流す。

 

 ──追加で三人。不意打ちなら、いけるか……?

 

 「やめんかお主ら! これはワシの戦じゃ。侮り、痛いしっぺ返しを食らった上で、部下に尻拭いまでさせては氏族長の名折れ。故にこそ、なにもするな……!」

 

 ムサカは気合いで立ち上がり、自分で抜ける矢の全てを強引に引き抜いた。全身からの出血は意外にも少ない。ただ口からは大量の血を吐きながら快活に喋る。

 

 「お主!何故ワシがこの男を助けると分かった! ワシが助けなければ、お主は負けていたぞ! 何故だ!」

 「氏族長! お体に触ります」

 「もう少し声のボリュームを下げて……」

 「ゲホゲホ! 血が絡むのだ! しょうがなかろう!」

 

 考えを口にすることにしたモナは、構えを解いて片膝を立てるように座る。

 

 「自らを氏族長と名乗る男が、焦いた同格者(おとこ)を批難した。それはつまり、備えがあるということ」

 

 構えなくとも、既に放った矢はいつでも追尾させることが出来るので問題はない。

 

 「宝石や武器の類いでなければ、近くに信頼の置ける部下が居ると予想するのは容易い。あとは追尾矢をその者らの周囲に放ち、異常を知らせておびき寄せれば囮として使える。何故なら貴方が、(テキ)にすら恩情を与えてくださる方だったから」

 

 僅かな時間でモナはムサカの甘さに気付いた。それは自分にも通じる所があり、王様に一度指摘された部分だったからこそスグに気付けた弱点──。テキの優しさに漬け込むという、優しさから最もかけ離れた手段だった。

 

 「は、はは、はははははははははは」

 

 ムサカは大笑いした。教会にその豪快な笑い声がけたたましく鳴り響く。

 

 「グゲッボ! ぐへボ! ……マズイ死ぬ!」

 「ここは無理なさらず、撤退も視野に」

 「ムサカ様ご決断を!」

 「氏族長!」

 

 部下たちにそこまで言わせて我を通せるほどムサカは独りよがりではない。皇帝になるために遠路はるばるトレジャーランドまでやって来たが、また立て直せば良い。そう決めた。

 

 「淑女の戦士よ。名を何と申す?」

 「……。」

 「主君はおるのか? その力で以って何に忠誠を示す」

 

 モナはムサカのその問いかけにも無言を貫く。

 

 「ふむ、答える気はないか……。では撤退するとしよう。誤ってお主の大切なモノを傷つけては収まりが悪いからなぁ。ルーダー」

 

 唐突に告げられたその宣告によって、モナとムサカの右手首に赤い光帯が浮かび上がった。モナは怪訝な顔をする。

 

 「もちろんゲームはない。これは一方的な宣誓だ。我らダークエルフはお主に誓って金輪際、トレジャーランドには侵攻しないと誓おう」

 「な、なんですと!? 正気ですか氏族長!」

 「黙れ。ワシはそこの戦士に問いておる。その条件で良ければワシの後に続いてくれ、賭事遊戯(ルーダー)

 「……契約完了(ルーダース)

 

 モナはおそるおそる決まり文句を唱えた。すると光帯は光帯のまま、赤く光る痣として染み付いた。その痣は傍観者であるはずの若きダークエルフたちの手首にも染み付き濃い呪いとなった。

 

 「我々にまでアザが!」

 「はははスマンのう。全員道ずれの契約、結んじった」

 「笑い事ではないですよ氏族長!」

 「も、もし仮に、末端の者が侵攻した場合、我々はどうなるのですか……!?」

 

 ダークエルフたちはモナの事も忘れ、ムサカを囲んで大事な会議を始める。

 

 「そうさな。その者だけが消滅するとも考えにくい。たぶんワシら……全滅? するかもじゃ」

 「なんて馬鹿げた契約したんですか貴方は!」

 

 若い衆がムサカの肩を激しく揺らす。

 

 「え〜。懸けたもんはしょうがないじゃろて〜。けが人をあまり揺さぶるでない。というわけで淑女の戦士、ワシらの命を預けたでな! ヨロシク頼むぞい」

 

 そう言ってご老人は元気よく手を振り自分の足で帰ろうと踵を返す。致命傷とは何だったのか。

 

 「……モナです! 我が名はモナ。忠義を尽くす存在は、この国の王陛下です!」

 

 モナはモナなりの義を尽くすために、自らの名を打ち明けた。老人は笑顔で振り返る。

 

 「モナか。良い名だ。お主ならいつでも里に歓迎しよう。ひとりが不安なら友達でも連れてくるといい」

 「ひとつ教えて頂きたい。なぜこのような状況で自分に不利な契約を……? 私を倒す方法など、幾らでもあったのではありませんか?」

 

 そのダークエルフには人数差を活かすことも、死んだフリをして不意を突くことも出来たはず。モナには理由を聞かずに返すことが出来なかった。

 氏族長は当然のことように優しい口調で返す。

 

 「ワシの楽しみに反することはせんよ。それにこの国を堕とすのも、どうやら一筋縄ではいかなそうだしな。今頃、他の氏族長たちも苦戦を強いられてる頃じゃろうて。出直す時間は十分あると踏んでいる。まあワシらの場合、戻ってきたら全滅じゃがな! ハッハッハッブぼ!」

 

 血反吐を吐きながらも、冗談を言う余裕はあるようだ。心配する部下たちの顔色だけがどんどん悪くなる。

 

 「ああ……あと、そうじゃ!」

 

 何かを思い出したように、ムサカは彼女の目を見てにっこり笑顔で答える。

 

 「なによりお主にホレたんじゃった!」

 「……。」

 

 あまりに唐突であまりに大胆な告白に、息が詰まり目がチカチカする。ギリギリでキュン死せずに済んだのは、また天然でやってるよこの人、と言いたげなダークエルフたちの呆れた視線が視界に入ったからだった。

 

 「機会があれば村の男どもも紹介するでな〜。いつでも遊びに来いよ〜」

 

 今度こそダークエルフたちは教会を去った。誰もいなくなり気の抜けたモナはぺたんと女の子座りをして、すーっと息を吐く。

 

 「なんか、負けた気がするんだが……」

 

 

 ☆

 

 

 一方その頃、何も無い森の中に飛ばされたジョウカは爺やとギントに挟まれていた。

 

 「裏切り者の末路だジョウカ。……悪く思うなよ」

 

 ギントのガントレットが鋭く光る。

 

 

また明日18時頃です。

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