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残念ですが陛下、スローライフはお預けです。  作者: ヒガツキ
第三章 陛下、襲撃のお時間です。
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ショタコンスレイヤームサカ


 「急いては事を仕損じるとゆうに、このゴブリン。無駄に老いさらばれば詮無きことか。同列に語られたあの頃が恥ずかしいではないかぁまったく……。のう、お主もそう思うだろう?」

 「未練がましく過去を語られるよりはマシだ」

 「おうおうこれは手厳しい。割とマジで堪えるぞワシ」

 

 ビュンッ──。

 

 そうやって落ち込むフリをする黒髪のダークエルフの放った矢が、舌戦を軽くいなしたモナの頬をカスめる。確実に急所を撃ち抜く予定だった老人がカカと笑う。

 

 「見てから合わせて弾くか。お主も相当な弓の名手のようじゃな」

 

 予備動作があまりにも少なすぎる老人の武器の正体はクロスボウである。着込んだローブの袖中に隠してあるためモナには右手にあるのか、左手にあるのかすら分からない。

 

 「弓のおかげだ。気にするな」

 「ひょっとしてワシ、励まされてる? ショボーン……。とはいえ氏族長になってこんな経験もなかなかに乙なもんかぁ? 最近はワシのワガママがあまりに通り過ぎるゆえに、気軽に軽口を言い合える仲もおらんくなってしまったからのう。ありがとう若いの。久しぶりに本気の笑顔じゃ」

 

 そう言って老人を名乗る少年はキラキラ笑う。

 

 ──うーん、やりづらい。

 

 モナは悩んでいた。あのゴブリンのように躊躇なく殺しに来る敵ならどれほど良かったことか。

 本気でひとつのお世辞なく褒めてくる老人を見て、なぜか浮き足立ってしまう自分がいる。このままでは変な隙ができて殺されかねない。敵が気になり殺されたのでは不名誉にしかならない。さて、どうやって純粋な命のやり取りに持ち込もうか。

 

 ──情が移る前に、やるしかない。

 

 モナの判断は正しかった。

 目の前のダークエルフはなにを隠そう『あざとかわいいランキング』『養子にしたいランキング』『お姉ちゃんと呼ばせたいランキング』で堂々殿堂入りを果たした生粋のショタコンスレイヤーなのである。歳をとった現在でも当時の技術力(計算でやってない)をいかんなく発揮し、敵味方関係なく虜にしてしまう男。ついたあだ名はデスキューピッド。彼にメロメロにされたが最後、物理的な矢が心臓にぶち込まれ絶命するのだ。

 小さくて可愛い男の子が好きな(初出し情報)モナにとって相性最悪な相手といえた。ちなみに陛下と初対面の時に無言だったのはあまりにもどストライク過ぎたためだったが、性別が女だと知った時は夜遅くまで部屋の隅っこで丸くなった。

 

 「神聖な弓とみた。手入れも行き届いとる。さぞ大切に扱われてきたんじゃな」

 「これはアマゾネスに古くから伝わる伝説の──」

 

 ──待て待て、何をしているんだ私は。戦いに来たんだろう。見た目に騙されるな! 相手はご老人だぞ。どんなにちんまりしてて小生意気でキュンキュンくるかぁいい笑顔を向けられたとしても、討ち滅ぼすのだ! 私!

 

 ギリギリで意識を戻したモナは眉間に飛んできた矢をもう一度素手で受け止める。

 

 「惜しい。で、なんとゆう弓じゃったか?」

 

 モナは爆発寸前の思いを込めながら、握力で矢をへし折った。

 

 ──ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛そのギャップある口調が憎たらしいぃ! クッソオォオー

 

 敵の狙いはあからさまにあざとかった。だからこそモナは一呼吸置いて、その誘いに全力で乗ることにした。その方が精神衛生上良いとも考えて声を張る。

 

 「弓の名は〘魔法弓パーシュラム〙! アマゾネスに古くから伝わる伝説の弓兵が病を根絶するために使ったとされる弓だ! 圧倒的な連射力と追尾力。そして魔力尽き果てぬ限り無限に矢を生成することが可能で、落ちた矢ですら追尾を可能とする。先程そこの男との戦いで、既に教会内には矢を二十本放っている。ご老人よ、串刺しにあいたくなければ大人しく国へ帰るがいい! 私からの説明は以上だ! 何か質問はあるか」

 「もしかして、全部話してくれたのか? ワシのために。優しいのだなお前は」

 

 ──こ、ここでオマエ呼びだとぉぉ!?

 

 叫びたい思いを一旦飲み込む。

 

 「わ……我が種族にかけて、嘘はないと誓おう」

 

 主な集落が原始的な生活スタイルを貫くアマゾネス族は、大変目が良いのだがせっかちな者が多く、集中力の必要な弓狩りが苦手な者は多かった。モナもそのうちの一人で、村を襲いにくる猛獣を返り討ちすることを得意としていたが、今回は集中力を高めるサファイアの宝石を持参しているので伝説の弓の使用を一時的に可能としていた。

 彼女の説明以上のことを付け加えるなら、集中力が切れてもお終いという点くらいだった。

 

 「良き女だ。ぜひ里に招きたい」

 「……!?」

 

 ──そ、そそそれって、お嫁に来いっってことぉぉ!??!!?

 

 ダークエルフのムサカは教会中の壁を飛び回り、モナに肉薄した。そのまま首を掴み地面に叩きつけると、右手のクロスボウをモナの左目に向けて構えた。彼の背中には何本も矢が刺さっているが、あえて自分から刺さりに行くことで追尾矢からの致命傷を免れていた。

 

 「(テキ)への優しさは、命の奪い合いにおいて最も不要な行為。理解したら()ね」

 「……他の矢は、何処に行ったと思う?」

 「なに……?」

 

 追い詰められているはずのモナが意味深く笑う。

 

 「追尾先をダークエルフ全体に指定した。そろそろ他のダークエルフが……ああ、噂をすれば」

 「氏族長! 無事ですか!?」

 

 モナの読み通り、入口から一般的な成人男性サイズのダークエルフがひとり、顔を覗かせた。目の前の光景が罠だとも知らずに──。

 

 「来るな馬鹿者!」

 

 

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