キンカと告白
絶対に偶然ではないけれど、ビーナさんが助けに来てくれてた! 思わず飛びつきたくなるくらいに嬉しい。
「今の炎って、ビーナさんがやったんですか? あんなスゴイ氷結魔法が使えるのに」
「あれは少し特殊だから、しばらくは使えないわよ」
「サブゼロ……的な?」
「よく知ってるわね」
全身が黒い衣装のままだけど、全くスス汚れなどがない。とにかく無事なようで良かった。炎の幕はいまだ燃え盛っている。
「そこのアンタ、敵じゃないから武器は降ろしなさい」
言われたネフェッタさんが剣をしまう。
「ネフでいいよネフェッタです! 助けてくれてどうもありがとう! そしてございます!」
「ね、ネフ……デイヨ?」
ビーナさんが急接近するネフェッタさんに気圧されている。そういや二人は初対面だっけ。
「自称ですが、彼女も勇者なんです」
「自称じゃないよ? ほら、赤札とかあるし」
「え」
ネフェッタさんが、懐から王印のマークが付いた手紙を取り出し二本指に挟んで掲げた。この国には『勇者制度』なるものが存在すると確かアニキから聞いた事がある。月に一度、才覚あるものに限って赤い手紙が国から届くとかなんとか。
「ホントに今日から勇者だったんだよ?」
きっとアニキが王様と入れ替わる前に届けられた手紙だろう。じゃなきゃこんな制度、アニキが許すハズもないし。
「ご時世的に考えても、ネフが最後の勇者だろうね!」
満面の笑みだった。……呆れてモノも言えなくなる。堂々と名乗る最後の勇者であることは間違いないだろう。
「よく分かんないけど、よく分かったわ……」
「そうだビーナさん、コレを」
僕はお世話になった武器とすっかり忘れていた彼女のカバンを渡そうとして、武器の方を返されてしまった。
「そっちはまだ必要でしょ。それより逃げる算段はついたの?」
「ネフが連れてくから大丈夫! 北の関所から珀地に抜けるルートがあるんだけど、そこがすんごい穴場だから!」
「穴場ってねアンタ……、珀地はさっきみたいのがうじゃうじゃいる地域なのよ? さっきのは騒ぎに乗じて遊びに来た個体でしょうけど……、基本は群れで行動してる種族だしアレ。もし仮に群れで遭遇したとして、何か対策とかあるわけ?」
ネフェッタさんはそう質問されると、逆に僕たちに質問を振ってきた。
「どう? 勝てそう?」
「(勝てない)」
首を横に振って即答した。ユーシャも速攻で首を振る。
「なんとかします!」
「この子、そうとう重症ね」
ネフェッタさんを間に通すと僕たちの答えも無かったことにされるようで、ビーナさんが分かりやすく頭を抱えた。
「そうね……。とりあえず後で合流しましょ。関所前でいいわね?」
「一緒に来てくれないんですか?」
「来てくれないんですか?」
僕のお願いにネフェッタさんが追従する。
「そんなクリクリおめめでアタシを誘惑しようたってすぐには行けないの! 北にまっすぐ進むなら、大聖堂建設予定地がそのままおっきな避難所になってるから、迂回するか身を隠せるものを用意して進みなさい。身分がバレるのは避けなきゃいけないでしょ?」
「ビーナありがとう! よーしおじき、さっそくネフがコーディネートしたげるー!」
ネフェッタさんが避難所に入る気満々でユーシャをひょいっと持ち上げて走り去って行った。
「入るのね。だったら物資の調達も済ませてくるといいわ。お金ある? サイフ渡そうか?」
「い、いえ! 僕のがあるので大丈夫です」
「あっそ。じゃ道中死なないように気を付けて進みなさい」
──この人、親切隠さなくなってきたな……。
言われた通り死ぬほど危険な道中を抜け、僕たちはどうにか避難所のある場所までたどり着いた。外套はさっきの炎で燃えてしまったので、途中で拾った雨よけの布をユーシャには首に巻いてもらい顔を隠している。
「おじきは迂回して、さき向こうの出口で待っててね。オシャレなお洋服、いっぱい見つけるぞー! おー!」
拳を掲げながら、ネフェッタさんは一人で行ってしまった。残された僕たちは顔を見合わせる。
「まあ、そういう訳だから。俺たちはここで最後の物資調達をしてくる。くれぐれも……まあお前なら余計なことはしないと思うし、大丈夫だと思うけど、バレないように気をつけるんだぞ」
「……。」
頷いてくれたユーシャと別れ、僕は一人で避難所に入る。
☆
~避難所~
緊急用のテントが点在する避難所には数百人もの人が何かしらの列に並んでいた。重症で寝たりきりの人、物乞いをする人、何らかの掲示板に群がる人、居なくなった息子の聞き込みをする母親など、見るに堪えない光景が広がっていて、これら全ての原因が僕たちにあると思うと途端に気が重くなった。
『今不幸なのは勇者様のせいなの? 違うよね、悪い奴らが居るからだよね?』
内側に原因を求めては行けないと、ネフェッタさんの声を思い出す。
「あの人どこ行ったんだ」
これだけ人がいると物々交換所や根性で大安売りする商売人もいて、四人分の冒険必需品、それと最低限の宝石類は手に入れることができた。また衣服に関しては国の兵士らや商工会の人らが協力して配っていたのでそれを貰う事ができた。お金はそれほど掛からなかった。
「あ、いた。おーい」
遠くにネフェッタさんがいたので声を掛ける。笑顔でこっちを見た。それからすぐ誰かに気付いて、嬉しそうに会話を始めた。どうやら同じ年頃の男子たちのようだ。互いの無事を喜び合っているのが見て分かる。
「良かった、生きてたんだな! みんなお前の心配してたんだぞ」
「おば様たちは元気?」
「みんな元気だ」
「そう、良かった。じゃあ人待たせてるからゴメンね」
「お、おい、どこ行んだよ!」
「勇者らしく人助けしてくる!」
「この期に及んでまだ勇者なんか目指してんのかよ……死ぬぞお前!」
男の子たちと別れようとしたネフェッタさんがその言葉に足を止める。
「勇者は全ての元凶なんだ! アイツらのフリを続けたら、今後絶対良くないことが起こる。だからその……、俺が守るからさ。勇者なんかやめて、俺のそばに居てくれよネフェッタ」
ひとりの男の子が顔を真っ赤にして言った。これはあれだ、愛の告白というやつだ。ネフェッタさんが何やら暗い表情でゆっくりと男の子の方に振り返って言った。
「ごめんね今、ゾワァって来ちゃった。眼中にない男の子から告白? そういうのされると気持ち悪いって心底思ったかな。不愉快だったし今日のことはお互い忘れよ、ね? じゃあ行こキンちゃん!」
「え!? ちょっ、ネフェッタさん!?」
こっちに来ていきなり腕を掴まれる。
「もー、ネフでいいって言ったでしょー。言ってない? あれ言った? まあどっちでもキンちゃんのご自由にネフって呼んでね!」
笑う彼女の笑顔がとびきり可愛くて、僕まで顔が赤くなりそうだった。男子たちは泣き出す男の子を励ましている。
「お前らも告白するんじゃなかったのかよ〜……」
「無理」
「あんな振られ方されたら死ねる」
「それに……はぁ」
何か言いたげな男の子たちの視線が嫌に僕に刺さる。絶対勘違いされてると思うけど、それを弁明する時間も隙も、ネフは与えてくれなかった。
また明日の18時に。




