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残念ですが陛下、スローライフはお預けです。  作者: ヒガツキ
第三章 陛下、襲撃のお時間です。
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世界を救って悪いことなんてあるの?


 「いい加減にしてください!! もうずっと気付いてるんでしょう……? 誰のせいでこんなメチャクチャな事になってるのかを……。僕たちが出ていかなきゃみんなに迷惑が掛かるんですよ? 貴女も勇者を名乗るなら、救えないものもあるってちゃんと理解してください!」

 

 勇気があってもさっきのおじいさんのように上手くいくとは限らない。気付いた時には既に手遅れのあの女性のようなことは幾らでも体験するんだ。僕ですら経験あることをネフェッタさんが知らないハズが無いし、耐えられないなら勇者を名乗る資格なんてない。本物の勇者を知る僕だからそこ、そう思わずにはいられなかった。

 

 「でも、助けを待ってるかもしれないし……」

 「故郷が壊れてくのをそんなに見たいんですか!?」

 

 根っからの勇ましい人で、悪い人でないことは分かってる。でも僕からすればそれはただ都合の悪い人でいい人ではない。これ以上好き勝手を続けるならもう頼らない。頼れない。そう思った矢先、僕は余計な一言を放った。

 

 「えっと、そう言うつもりじゃなくて……」

 

 彼女にとって故郷は大切なモノのはずなのに、それを『見捨てろ』と軽々しく口にしてしまった。正直、勇者を自称するネフェッタさんがこれ以上僕たちと共にする義理はないし、ひとり(きびす)を返しても問題はない。

 お世話になりっぱなしの分際で僕は彼女になんて酷いことを……。

 

 「世界を救って悪いことなんかあるの?」

 「え」

 

 彼女は怒るでも悲しむでもなく真っ直ぐな目で僕にそう訴えてきた。

 

 「今不幸なのは勇者様のせいなの? 違うよね、悪い奴らが居るからだよね? そこを履き違えたら流石にダメだよキンちゃん」

 「き、きんちゃん?」

 「おい! 小僧!」

 

 不意に、背後から震える大人の声がして振り返る。

 

 「そこを動くんじゃねぇ! オマエもだ女!」

 「あ、貴方は、前に酒場で一緒だった……」

 

 顔を見てスグに分かった。ユーシャを探してたとき酒場で相席になった冒険者の男だ。小さいが体格のしっかりしたその男が、小型のナイフをユーシャの首すじに突き立て僕たちを脅しているその事実を理解するまで、少し時間が掛かった。

 

 「……よぉ、にぃちゃん。探してる白髪のおっさんってのはコイツだったんだな。どんな関係かは知らねえが、悪く思わねぇでくれよ」

 

 もはやいがみ合ってる場合じゃない。刺激しないようにそっと手のひらを見せる。宝石を持っていないとアピールするためだ。魔法は飛んでこないと安心させなきゃ、この手のヒトは何をしでかすか分からない。

 

 「あんな宰相の言うことを、信じるんですか……?」

 「俺だってこんなコトしたくねぇさ! でもよォ……今までみたく、皆で笑い合って平和に酒を飲み明かすためには、コイツの首が必要なんだ!」

 

 よく見ると、ナイフを持つ手が震えている。嘘で泣いてる訳でもなさそうだ。

 

 「落ち着いて! こんな事しても事態は好転しません!」

 

 ユーシャの首を狙いに来る奴は様々だけど、まさか日常を取り戻すために襲いかかってくる刺客がいるとは思わなかった。帝国の宰相がトレジャーランドに宣戦布告してきたのはきっとこの為だったのだと今ようやく理解できた。内側に発生する敵ほど怖いものはない。

 

 「現状見れば分かるだろう!? ……何人死んだ? あと何人死ねばいい? 地位も名誉も大金も、はっきりどうだっていいんだ! 一秒でも早く悲劇が過ぎ去ってくれるならなんでもしてやる! だからどうか、俺を許しちゃくれねえ──……か?」

 

 背後の異変に気付いて男が振り返る。そして、全長十メートルはある手長のバケモノの口の中に自分が立っていることに気付き固まった。

 

 「か、かか」

 

 僕たちはもうひとつ見誤っていた。理由もなくただ命を刈り取る、魔物だっていることを──。

 

 ガチンッッッ──!!

 

 首を横にして大口を開けた白いサルが、その鋭いキバを引っ掛けて冒険者の頭と両手足を弾き飛ばした。残った中身を(・・・)舌の上で転がして遊んでいる。

 

 ペッュン──!!

 

 サルは逃げる馬車を見つけると、そこ目掛けて勢いよく中身を吐き捨ててぶつけ、馬をグチャグチャにした。衝撃に吹き飛ぶ馬車は二軒先の家まで巻き込み、倒壊させる。

 

 「「「……。」」」

 

 本能から恐怖した。中にいた人の安全を祈る暇さえ与えない圧倒的な暴力に、戦慄しかなかった。悪夢に取り憑かれたように喉と足が震えてどうにもならない。

 

 「ウヒ、ウヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」

 

 そんな僕たちを見て、白目を剥くサルが笑ってる。輪郭がカミナリのようにバチバチと音を立てながらうねっている。雨もうっすら降ってきたし、いよいよカミナリの化身に睨まれている気分だ。

 

 「ユ、……ユーシャ」

 「おじき逃げて!」

 

 手を伸ばすのがやっとだった僕とは違い、剣を構えたまま走り出したネフェッタさん。しかしそんな彼女とユーシャの間を裂くように、上空から炎の幕が降り注ぐ。

 

 「くっ……!」

 

 目眩がするほどの灼熱は近くにいるだけで顔を守ってないと死ぬほど熱い。炎の勢いに気圧されたのか、カミナリのサルが遙か上空をジグザグに移動しながら飛んで行って姿をくらました。なのに別の何かがまたやって来る。

 

 「気を付けて! 誰かいるよ!」

 「今度はなんだよ!?」

 

 炎のカーテンに写る影で、ユーシャとは違う人影が近付いてるのが分かった。その人物は炎の荒波をものともせずユーシャを担いでこっちにやって来る。見覚えのある女性の姿だった。

 

 「偶然ねキン坊。元気してた?」

 「ビーナさん!」

 

 

また明日。

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