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残念ですが陛下、スローライフはお預けです。  作者: ヒガツキ
第三章 陛下、襲撃のお時間です。
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キンカの護衛任務


 ~城下街の一角~

 

 「おらジジイ。寄んじゃねぇーよ!」

 「金目のもんもねークセに、いい加減しつこいんだよ!」

 「スラムにも落ちれねぇ半端もんが。へへ、いこうぜ」

 

 お年寄りが路地裏で二人の男に絡まれている。何があったか知らないけど、男たちは何度もしがみついてくるお年寄りを蹴飛ばし、飽きたように去っていった。

 

 「う……、臭うな」

 

 遠くからでも鼻がひん曲がるほどの悪臭。壁にもたれて座るお年寄りには死んでもないのにハエがたかっていた。以前までの面影がまるでないそのお年寄りに、僕は困惑しながらも見つからないようにそっと身を隠した。

 

 「水浴びくらいしろっての……」

 

 僕の名はキンカ。今はアニキから特別な任務を受けて、ある人を探している。僅かな情報を頼りに聞き込みをし、探し続けて三時間──、ようやく見つけた。そうしろと命令は無いがひとまず様子を伺う。

 

 「にしても……あれがホントに、王様なのか?」

 

 アニキはこの国の王様。

 そこに転がっている浮浪者のような者は元のアニキで、今は王様をやっている。

 

 ……?

 

  自分でも何を言ってるかよく分からないが、要は中身が入れ替わってるらしい。

 アニキは老いた肉体を捨て、うら若き女の子の王となった。諸々の事情は一気に説明されたので大まかにしか覚えてないけど、とりあえずアニキは簡単に動ける立場ではないらしい。だから目の前の『アニキの絞りカス』は僕が管理することになった。

 

 「あんな連中、本気でやれば訳無いだろ……」

 

 中身にさして興味はないが、その肉体は魔王を倒し世界を救った勇者(アニキ)のモノ。その肉体が落ちぶれている所を僕は見ていられないし、スペックは高いのだからやり返さないのは勿体ないと思った。正直もどかしい。

 

 ──僕がオマエなら殴り返すところだぞ。

 

 アニキには「どうせお前は勇者を鍛えたくなる」と言われたが、そこまでの義理を今のところ感じ得ない。

 そいつの顔にはボコスカ殴られたような腫れがあったが、みるみるうちに引いていく。アニキが飲ませたという秘薬が効いている証拠だ。

 

 ──確定だな。こいつが元アニキで間違いない。

 

 「アニキアニキって何回言うんだ僕は……」

 

 ルールーキッチンの特盛アイストッピング全部のせを食すという夢を叶えてくれたアニキ。そのアニキが新しく与えてくれた目標──それが護衛任務。

 絶対に成功させなきゃいけない。「有事の際は両手を解放しろ(・・・・・・・)」と言われたけど、その必要もどうやらなさそうだし、引き続き監視を続ける。

 

 「よし。立てるな」

 

 元王様のソイツは、壁を支えによろよろ歩き始めた。

 この数日間、どこで何やってたのかはボロボロで泥だらけのローブを見ればだいたい想像はつく。おそらくさっきの男たちの会話から察するに、既に金銭や武器も強奪された後なのだろう。高価な鎧や大事な武器も全部──。

 なんだか腹が立ってくるが、僕はソイツの後を追った。

 

 

 ☆

 

 

 ~街のはずれ~

 

 僕はソイツをユーシャと呼ぶことにした。ユーシャリアでもファナードでも、ファナでもリアでもどーでも良かったが、尾行は案外暇なのでそうした。

 

 ──呼んでも違和感ないし。

 

 アニキの話だとユーシャは幼い頃に母親を目の前で殺されたショックから失語症になってしまったのだとか。そのうえ王様だから基本生活力が無く、餓死する恐れがあるから助けて欲しいとのこと。

 アニキに言われたらそりゃもちろん助ける。でもユーシャのことを可哀想だと思い始めたら任務に支障をきたしかねないので、僕は冷酷に距離を保つのだ。

 

 「なんだなんだ?」

 

 しばらくするとユーシャは街の上流にある緑豊かな川辺にやってきた。周りにヒトはいないし柵もないので水浴びをしに来たのだろうか?

 何故かローブも脱がず、頭の先まで水に浸かる。いくら経っても出てこないので接近してみると、うつ伏せのまま下流に向かって流されていた。

 

 「くそ! なにやってんだ!」

 

 彼女に対してよりも、自決に気付けなかった僕自身に対しての苛立ちが強く言葉に出た。川に飛び込み彼女を引き上げにかかる。

 

 「うお、……らぁっ!」

 

 幸いなことに川は僕の足が届くくらい浅かったし、ユーシャが鎧を着てなく軽かった。彼女を投げ飛ばすように川から引き上げ仰向けにする。すぐに水を吐いたので意識はないが、ひとまず生存を確認。ほっと一息つく。

 

 「はぁ。油断も隙もない……」

 

 その肉体は前とは比べ物にならないくらい貧弱に痩せこけてる。顔はげっそりとし、手足も骨が透けて見えるほど弱々しくなっていた。まったくご飯にありつけていないのか? 入水自殺を選ぶまで追い込まれてるとは驚きだ。

 

 「何も上手く行かなったのは分かるよ……。でも諦めるのだけは違うだろ」

 

 フっと怒りが沸いた。奴隷でもないのに。自由の身なのに。ましてや元王様なのに何もせず終わらせようとする彼女に苛立った。

 

 「言葉が通じない国だってあるんだぞ。……喋れないは言い訳にもならないんだ」

 

 アニキの身体じゃなかったらこんな奴とっくに見捨ててるところだ。

 コイツは母親を失ってるらしいが、僕よりは間違いなくいい暮らしをして来たはず。奴隷にも落ちたことないクセにこんな早くに諦められたらたまったもんじゃない。こんな終わり方、僕は絶対に許さない。

 

 「バカげてる。せめてあの王様に、復讐してやろうとは思わないのか?」

 

 言いながら、それってアニキのコトなんじゃ……? と思ったけど、何もする前から死を選ぼうとするコイツを僕はどのみち理解できない。返ってくるのはうっすらとした寝息だけ。本人の意思とは裏腹に、身体は空気を取り込むのだ。

 

 「……生きようと必死じゃないか」

 

 愚痴をこぼしながら水の溜まった彼女の靴を逆さまにすると、中からカエルが出てきた。目で追うとそれは、黄色いカエルではなく金のロケットペンダントだった。

 

 「これって……」

 

 それは、いつか金に困った時に売るとアニキが語っていた代物。ずっと首にぶら下げていたはずなのに、なぜ靴の中に?

 理由が知りたくて拾い上げようとした時、彼女のお腹がグ〜となった。

 

 「そんなに空いてるなら、こんなもの売ればよかったのに……」

 

 言いながら、それすら彼女には出来なかったのだろうと悟る。先が思いやられる。

 

 「……ん?」

 

 落ちた衝撃なのか、ペンダントが勝ってに開いて折り畳まれた紙がぱらりと落ちてくる。気づけば僕は、それを拾って見ていた。

 一人の少女を中心に二人の少年が肩を組む一枚の綺麗な絵。幼いがアニキと分かる人物がいて、他二人は分からない。

 

 裏面には

 ばかギント

 ネフェリ

 エレク──。(その先が潰れて読めない)

 と書かれている。

 

 「お前、まさかこれに気付いて……」

 

 急激に自分のしようとしたことが恥ずかしくなる。売ろうだなんてトンデモナイ、彼女は無くしちゃいけない物だと分かっていたから靴の中に隠し持ってくれたんだ。

 

 ぐ〜。

 

 再びお腹の音がなる。

 

 「ああ、もう分かったよ!」

 

 僕はユーシャのサポートを全力で続けることにした。

 

 

 ☆

 

 

 ~城下街の宿~

 

 気絶中の彼女の肩を抱き、一番近くの宿に入る。なんという偶然か、そこは以前「勇者は泊めない」と一度断られた厳しい主人のいる宿だった。

 

 帝国襲来まで残り四日──。

 

 

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