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残念ですが陛下、スローライフはお預けです。  作者: ヒガツキ
第三章 陛下、襲撃のお時間です。
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お勉強とお息抜き


 「くー終わったぁ……。もーこりごり。ん? 明日もある? 勘弁しろよー」

 

 ほぼ五時間座りっぱなしだったギントは立ち上がり、軽く伸びをした。王冠やマントを一旦玉座に置き、今日の玉座の間での業務は終了とする。そこに、後ろで腕を組み見守っていたチャイバル補佐大臣が近づいて来た。

 

 「陛下、本日はまだ評議会が残っております」

 「おーおー。まだ必要なことがあるってゆーのかい? もういーだろー。十分頑張ったって。オレ百点んー」

 

 玉座に座り直すとギントは瞬く間にスライムのように溶けてぺちゃぺちゃになる。余程疲れたようだ。

 

 「おつかれなのは分かりますが、今後の陛下の身の振り方が決まるなにせ重要な会議なわけですから、出席しないというのもいささか印象に欠けるかと……」

 

 チャイバルから復讐の匂いがしない。本気で思っているようだ。

 

 「却下だぁ。どーせ緊急で集まりも悪いんだろ? 顔合わせも兼ねて全員集まった時にでもしてくんネ。はい、この話おしまい! ケーキ食おうぜケーキ! 甘いものが無性に食いてー気分なのよー」

 「とはいえ大事な会合をキャンセルしてやってきた大臣もおりますので、やはり会わないというのは──」

 「それでもヤ! ヤったらヤーっ!」

 「し、しかしですね……?」

 

 子供のように駄々こねられたチャイバルは、怒りで頬を引き攣らせつつも笑顔を忘れなかった。

 

 ──まったく。これだからガキは……。ただでさえ味方も少ないクセしてワシにも嫌われたいか。ヒトが変わったようにワガママになりおってからに……。

 

 「良いではありませんか大臣」

 

 用事を終わらせて帰って来た爺やが冷淡な顔つきで口を挟んできた。

 

 「バトラー、お前まで陛下の戯れを許すと申すか。いささか過保護過ぎるのではないか?」

 「なんとか言ってくれよぉ爺や〜」

 「今の陛下には常識や治政を学ぶ時間が必要でございます。私がみっちりシゴきますので、どうかお時間を頂けないでしょうか」

 「ほう。そういうことならいた仕方なしだ。頼んだぞバトラー」

 「お任せ下さい」

 「おい? 待て」

 「九日後の定例会では礼節をわきまえた上でお顔を出していただきますようお願いいたします陛下」

 「だから勝手に話を」

 「 “理想の王” は目指されないと?」

 

 追撃とばかりに爺やのモノクロが光り出す。断ればナイフが飛んできそうだ。

 

 「う、……分かったよ。やりゃーいいんだろやりゃー。外堀から埋めやがってコノヤローども。マジでロクな死に方しねーぞ」

 

 愚痴を吐きまくるが死にたくないので受け入れるしかない。そうと決まればその足で爺やとの勉強会に向かうのは早かった。

 

 

 ☆

 

 

 「ベンキョウツライ……ベンキョウ、モゥヤダ……オウチカエルウ」

 

 書斎の机と向き合い、ペンを走らせながら弱音を吐く王様。涙が糸のように机に向かって垂れているが、開始からまだ一時間も経っていない。

 

 「ダレていては時間が増す一方です。さあ、あと二百十秒瞬きは禁止です」

 「うぅ」

 

 学ぶことはそれほど嫌いではないギントだったが、さして興味もない難しいことを強制的に叩き込まれる状況には苦痛しか感じなかった。

 だからといって監視がいてはサボる訳にもいかず、紅茶を時おり差し出してくる爺やを泣き脅しにかかる。

 

 「爺や〜オレが悪かったから許せ〜。イッパツ殴らせろ〜」

 「おっさんが情けない声を。次は珀地化現象(アンバー)の推移と対策についてです。手を止めてはなりません」

 「うぅ。もぅ女の子だもーん……」

 

 涙ちょちょ切れるギントは僅かばかりの反抗を見せつけるも筆は止めなかった。それはギントなりの意地にも近い。成立しなかったとはいえルーダーを仕掛けたのは自分。『爺やにとっての理想の王』を目指す義理がなかったとしても、一度やると決めた以上カンタンに折れる訳にはいかない。そう考える男なのだ。

 

 「珀地(はくち)化、アンバーグラウンド化現象とも呼ばれるそれは、いかなる大國の主の恩恵も届かない領域が、大國の権威が弱まることで広まる現象のことを指します。珀地は強力な魔物やダンジョン、ハクチビトの他、大規模盗賊団や大海賊、大奴隷商などがうろつく大変危険なエリアとして有名ですが、近年その範囲は減少傾向にあることが判明し、魔王が公の場に姿を表さなくなった時期とも重なることから──」

 

 淡々と語られ、思わず眠たくなるが途端に目の覚めるような名前が飛び出す。

 

 「──勇者ギントが英雄として語られる日も近いでしょう」

 

 ピタッと筆を止め、背後も振り返らずにギントが聞く。

 

 「なぜオレが出る」

 「魔王の死によって危険な大地が減少したのであれば、前より少しだけ世界を平和にしたのは貴方ということですから」

 「……誰かにとっての英雄は、誰かにとっての悪魔でしかない。愛した人に会うために、ただ魔王の立場を利用したヤツなんかに英雄を名乗る資格なんてない」

 

 自分のことなのに、ギントはやけに冷えきった回答を残した。

 

 

 ☆

 

 

 城には大きく分けて三つの砦が存在する。全長が最も長く、城とその近辺の自然や使用人たちの住まう小屋を囲う第一の砦。それより内側にあって最も強固とされる第二の砦。最後に城の入口から全体を取り囲み、取り込まれた宝石によって強化と装飾を施された豪華絢爛な第三の砦。

 

 「「「はッ! やッ! エイ!」」」

 

 第二と第三の間には兵士たちが日々鍛錬を続けるための庭がある。昼から汗水垂らして稽古する男たちの様子を、王様とその執事は砦の上から見下ろしていた。

 

 「非番だろあれ? 騎士団のみなさんは大変だな」

 「ちょうど良い機会です。陛下も参加されてみては」

 「は? どーして」

 「身体が鈍っておいででしょう。調整する必要もあるのとか」

 

 またいつ暗殺者が押し寄せてくるとも限らない。ゆえに、まるで運動に適してないその身体を少しは鍛えろと爺やは遠回しに口にした。

 

 「それに、勉強ばかりにこんを詰め過ぎていてはお辛いでしょうし」

 「よく言うぜ。二時間トイレにも行かせてくんなかったクセに」

 

 愚痴りながらも丁度鍛えたいと思っていたギントは庭に飛び降り、休憩中の騎士団員に挨拶して回った。

 

 「よ。騎士団長さんいるか?」

 「え、ええ。団長ならこちらに」

 

 騎士団たちは唐突に、気さくな感じで現れた王様に戸惑いつつも、団長の元へと案内した。程なくして青髪天パの若い女の前へと連れて来られる。

 

 「陛下、これは御無礼を。こらお前たち膝を立てないか!」

 「そのままでかまわん。邪魔してんのはオレだし。えっと……ドゥーク、とか言ったっけな」

 「はい。ドゥークなら私で間違いないですが」

 

 ギントは正面から改めて向き合ってみて、背も胸も女性にしては大きめだなと感じた。

 

 「邪魔者次いでにさ、オレと一戦交えてくんねーか?」

 

 

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