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残念ですが陛下、スローライフはお預けです。  作者: ヒガツキ
第三章 陛下、襲撃のお時間です。
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尋問部屋


 「ぶはっ……。あっつ」

 

 被せられたズタ袋を強引に剥がされ、少女は呑気に感想を述べる。

 両手を縛られイスに固定されたまま、辺りを見渡す。部屋は全体的に灰を被ったように暗く、窓すらないためか熱気がこもっている。天井には寒色の大きな明かりが一つ吊らされており、それが部屋全体をぼやっと照らしていた。

 久々の明かりに少女は眩しそうに目を細める。目の前には前傾姿勢で座る見覚えのある大食漢の姿があった。

 

 「陛下、まず初めにこのような非礼を働いてしまったことを深くお詫び申し上げる。なにさ、急を要する事だったので」

 「そう思うなら外してくれ。てかここドコよ?」

 「今は使われなくなった尋問部屋です」

 

 補佐大臣であるはずのチャイバルはそう言いながら両手を組み、指遊びを始めた。少女、もとい陛下がチラリと視線をそちらに向ける。

 

 「こんなことしてタダで済むと思ってんのか?」

 「分かっていますよそのくらい。しかしあなたの容疑が晴れなければワタシが他の大臣に示しをつけられない。あなたの味方だと思われると、少々面倒でしてね」

 「へーそーですか。ずいぶん正直なこって」

 

 陛下は元気を装い、不貞腐れた。

 

 「補填はお約束しましょう。それでどうかご容赦を。まずは──」

 

 いつもよりどこか砕けた態度を取るチャイバルは淡々と、陛下と呼ぶ少女の容疑が晴れるまで質問を続けた。少女であり陛下──。トレジャーランド・ユーシャリア・ファナードと入れ替わり王様を続ける勇者ギントは、一問一答に向き合い着実に自分の無実を証言していく。

 しばらくするとチャイバルの背後の鉄の扉から数人の兵士と一緒に拘束された女たちが入ってきた。女たちは困惑した顔ぶれで縛られた陛下を見詰める。

 

 「陛下、彼女たちを知りませんか? 格好や武器からは暗殺者たちと同じ物が見つかりました。ですが、どうもあなたに忠誠を誓っているようでしたので」

 「陛下申し訳ありません!」

 「陛下!」

 「勝手に喋るな。黙って見ていろ」

 

 兵士に脅され女たちが押し黙る。

 彼女たちは元アサシン。ギントにジェットで殴られ記憶を失った者たちだ。失った記憶はごく一部。それでも肝心な目的を忘れてしまった彼女たちをギントは教育……──もとい洗脳した。

 

 『君たちは王直属の暗殺者集団(アサシンズ)だ』

 『命すら懸ける覚悟で付いてきてくれた』

 『何より大事な家臣だ』

 

 そんな調子のいいウソは絶大な効果を発揮し、彼女たちはコロッと騙された。存在しない記憶があたかも真実であるかのように振る舞うアサシンズは、助けを呼びにいく形で二手に別れ、ギントとは別行動を取っていた。だが任務を達成する前にチャイバルに捕まり連行されたようだ。

 

 「「「……。」」」

 

 沈黙が流れると全員の視線がギントに集まる。

 

 「知らない」

 

 彼女らを切り捨てるように一言そう告げると、部屋は真っ赤に光った。見上げると天井唯一の明かりが赤く光り輝いている。

 

 「申し遅れました。こちらの尋問部屋、ウソに反応して少々色が変化する仕組みがございまして。たった今、陛下のウソに反応してこうました。なぜウソを付いたのか、お聞きになっても構いませんね?」

 

 兵の前だとチャイバルはしっかりと丁寧な口調になる。しかし妙なしたり顔で笑うので、兵士たちに良い印象を与えたとはいえない。

 

 「……わぁったよ」

 

 ギントは激しく動揺したが態度には出さなかった。即興で嘘を並べても無駄だと悟ったのか、正直に話を続けることにした。

 

 「そいつらは暗殺者たちから奪った新人ちゃんたちだ。オレの都合のいいように洗脳してある。だからそれ以上のことはなんも知らん」

 「陛下、何言ってんの? ウチらは今日まで貴女のためを思って生きてきたのに」

 「そうです! この気持ちがウソなんて信じられないです! パッとは思い出せませんが、思い出だっていっぱいですもん! パッとは思い出せませんが」

 

 女たちが畳み掛けるように話しかけてきた。不安そうに陛下を見詰めている。一人だけ明らかに睨んでいる者もいるが。

 

 「そう思わせるように仕向けただけで、お前らとの間に微塵も特別なことなんか……“ない”」

 

 部屋の明かりは既に白に戻っており、その言葉にウソがないことが証明されると、彼女たちは信じた者に裏切られたような悲しい顔をした。泣き出す者はいなかったが、疲れた果てたように座り込む者はいた。

 

 「チャイバル。ウソはついてねえぞ」

 「……そのようですね」

 

 男は安心したように、それでいて残念そうに呟く。

 今回の暗殺未遂事件、裏で糸を引いていたのは王様でないことが確定したからだ。陛下に命を狙われた訳では無いのだとしたら、誰なのか。チャイバルに思い当たる節は一個くらいしかなかった。

 

 ──ワシ側の問題……なら奴らか? いやしかし、それにしては損切りが早すぎる。ワシを単なる目撃者扱いしていたのも謎だ……。普段より城の中が手薄だったのも偶然とは思えんが、絞りきれんぞ……陛下暗殺を企てようとする組織など、それこそ五万といるじゃないか!

 

 「なにか、なにか特定出来る情報があれば良いのですが……」

 「陛下! ……ではなくチャイバル大臣。暗殺者集団のリーダー格と思わしき男の真名解析が終わりました」

 「ああ。それで」

 

 報告へやったきた兵士に不機嫌な顔をしつつ、チャイバルは耳を傾け、その名をこっそりひとり聞く。

 

 「うん、そうか……この国の?」

 「なんだよ真名解析って」

 「重大事件を引き起こした者にのみ適用される集団魔法です。名前を調べれば種族やどの国に属するかなど分かります」

 

 大国主の存在する国家では必ず『トレジャーランド』というような国家ネームが入る。それは別の国でも同じで、国ごとに国名字も変わる。重大事件を起こし死亡した犯罪者にまず行われるのがこの真名解析。これにより犯人の母国や出身大陸、場合によって貴族出であることなども見えてくる。

 

 「トレジャーランド・エレクシアキレウスという名に陛下は心当たりがありますか?」

 「……ぅ!」

 「ミタマホ! 大丈夫か!」

 「な、なんだろう。大事な名前だった……気がする……」

 

 ですです口調の小柄な女がひとり、急に頭を押さえだし腰を落とした。隣の介抱する女はまたしてもギントを睨んでいる。

 そのギントが口を開く。

 

 「その名前なら知っている」

 「なんですと? 陛下、やはりあなたが自作自演を……?」

 「違う、そんなんじゃない。エレクシアアキレスは……オレの親友だ」

 

 ひとときの沈黙の後、部屋の明かりは白のままだった。

 

 

 

分かりづらいかと思いますので

名前の補足をさせてください。



国名姓→名前→身分姓(身分の低い人はない)


の順番です。


トレジャーランド・イキノコール・チャイバル



この人を例に出すとチャイバルは家名で、イキノコールが本名です。


ずいぶんしぶとそうな名前ですよね。ᕙ( ˙꒳˙ )ᕗツヨイ


ただし王族は特殊で、身分性を持たない代わりに王様になった時ファナードという名を引き継ぎます。

そのため、100代目のファナードはファナード百世を名乗っている訳です。



ここまで読んでくださりありがとうございます。

誤字脱字報告や感想など、欲しくて欲しくたまらない性分なのでいつでもどこでも何時間でもお待ちします。,,

(っ ꒳ c)マッテルヨー



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