ネプラントナイト⑩
「人類はふたつ史実はひとつ。価値と価値を知る者は理を謳歌し、想像は時に勇気と試練を呼び覚ます! 顕現解放、ボス部屋!!」
口上を述べたあと激しい雷の嵐に包まれたギントであったが──。
「うにゃーー」
何かが起きる訳でもなく、地面に伸びて唸りを上げた。
「うひゃへぇ、魔力ぎれたわ」
脂汗をかき舌を出したまま床にへばりつく。これまでの無理がたたったのか、或いは単純に魔力が尽きたのか、どちらにせよ限界はとっくに超えていて起き上がれそうにない。
「……? なんへおそわれへい?」
こんなチャンスは滅多にないが、アサシンたちは罠の可能性をみてるのか迂闊に詰め寄らない。
「まだだ、慎重にすすめ。慎重に……」
じりじりと、その距離は縮む。
☆
ギントが人知れずピンチになる少し前、爺やとスピネルは書斎で会話を弾ませていた。
「あの男は今頃、王としての器を発揮している頃でしょうか」
「なんの話? タミくんに何かあるの?」
「試練でございます。これもまた一つの」
「試練って。妙に周りが静かだけど、まさか……!」
ハッとしたスピネルは耳をすませ、周囲から生活音がしない違和感に気づいた。──否、少し前から気付いていたが、問題には思わず流していたのを思い出す。
「なりません。貴女様では殺されます」
立ち上がっただけで静止を促されるされるスピネル。そんな言葉を振り払って進みたくとも、爺やの圧はスゴくて動き出せない。
「……どいて。助けに行かないと」
「大国の死はすなわち国家存亡の危機。過去にあった数々の終わり──。テロや革命に始まりクーデター、飢饉に伝染病、他国からの侵略や属国化。そして泊地化など。死ねば何かしらが起き、愛する民たちは幸せを見失うことになる。そんなことも忘れてしまわれたのですか」
大国主は決まった寿命を持たないが、別に不死ではない。刺されれば死ぬし国の崩壊が原因で死ぬこともある。祖国に多大な恩恵を与える代わりに大国主はその国の大きな弱点、心臓とも言えた。
スピネルは全てを忘れたわけではないと首を横に振る。
「死ぬほど危険な状態なら、なぜタミくんをひとり行かせたの! それが試練だからとでも言うのですか? ふざけないでッ! 彼はもう十分過ぎるくらい過酷な運命を乗り越えて王様になった。それを試練だなんて……! 王なら何をしても許されるのですか!? これ以上の苦しみを与えることは、この大国主が絶対に許しません!!」
チェキスというボードゲームでは、マスターがチェックメイトされると幾ら強力な駒を持ち合わせていようとゲームが終了する。それと同じ要領で大国主の死が国家を終わらせる。そんな事は分かってる──。けど、だとしても、ここにいるトレジャーランド・サファイアジェットスピネルはたった一人の人生に固執した。彼を見殺しにする理由にはならないと命を張った。
「いくよ、もう。……行くからね!」
爺やは心底申し訳なそうに目を瞑る。気持ちだけは汲んでいるようだ。
「ひとりに愛を注ぐのは勝手ですが、その身勝手な愛に国が壊されてはたまらない。また彼を独りにしたいのですか?」
「……ぅ」
その言葉は確かに響いてしまった。仮に自己犠牲の果てに助けることが出来ても、彼自身が喜ばない未来が想像出来てしまってぐうの音も出ない。
「ならば契約の呪文だ……ルーダー!」
だから爺やを無理やりにでも動かすことにする。
「……あの男がそんなに心配ですか?」
その言葉には少し怒気がこもっているように思えた。互いの右手に真っ赤な帯が巻き付くように浮かび始める。
「ゲームの勝敗で運命を決める賭け事──。我が国ではそれを有効にしています。説明は不要ですか」
大人びた雰囲気をまとい出した大国主が爺やに確認を問う。
「宣言した側が賭けの内容を設定し、された側はそれに見合うゲームを用意する。両者その条件に納得いかぬ場合、第三者及び第三国を交えて内容を擦り合わせなければならない。……でしたか?」
爺やが語る基本ルール。しかし今回はその段階から少し違っていた。
「変則ルールとして今回、國がゲームの設定を行います」
スピネルは賞罰決めよりゲームの内容決めを選んだ。
「よろしいので? ルール変更はひとつにつき一回、相手の要件を呑まねばなりませんが」
ルーダーの原則をねじ曲げるには、相手にひとつ有利な条件をプレゼントしなければならない。もちろん却下されればそれも無効になる。
「キミの正体を誰にも話さない。でどう?」
「……聞くだけ聞きましょう」
爺やはなんとなく引き合いに出されるだろうなと理解した上で、それを了承した。
「ルールは簡単、ジーヤちゃんがタミくんを護衛し守りぬけばジーヤちゃんの勝ち。タミくんが攻撃を受け、ケガをしたら國の勝ちだ。題してタミくん護衛ゲーム! 意図的に傷付ける行為等はもちろん禁止ね」
そのほかに期間はもう一度入れ替わるまでや、ギントの不注意によるケガや自傷行為は大国主が気付かなければスルーとし、病気や体調の変化による出血は無効という細かなルールが盛り込まれた。
「あの男が死んだ場合も貴女様が勝つのですよね?」
「ルール的にはまあそーゆーこと。さて、条件の設定だ。ゲームの難易度に見合うモノをよろしく頼むます」
「では……私が勝ったら貴女の持つ権能をひとつ私にお譲りください。私が負けた時は、あの男を殺さないと約束しましょう」
爺やはそれほど悩むことなく賞罰を設定するも、スピネルはしかめっ面になる。
「それじゃ賭けにならなくない? さっきも言ったようにタミくんが死んだ時も國の勝ちになるなら、殺さない約束が守られたとしても結局タミくんは死んでることになる。条件が吊り合ってないよねこれ」
「では……何を聞かれても嘘を付かない。貴方様の味方になるでどうでしょう」
それを聞いて安心したように大国主は深く頷く。
「それならアリ! 契約を反故にした場合、待っているのは確実な死──。それがルーダーだ。覚悟はいい?」
「二言はありません」
「それじゃあ契約成立の音頭を取ろうか」




