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残念ですが陛下、スローライフはお預けです。  作者: ヒガツキ
第二章 陛下、補佐大臣は厄介です。
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ネプラントナイト⑦


 『トレジャーランド四大貴石の一つ、忘却のジェット。馬車や船に道路と利用されることがなにかと多い加速石で、数が多く真っ黒な見た目のため、装飾品としての人気は少なく扱われることは滅多にないの。でもツライことを忘れたいヒトへの御守りとして使われることはしばしばで、そういった意味(・・・・・・・)では最低限利用価値のある宝石として親しまれている。思い出さないほうが良い事もあるんだよね。……世の中的には』

 

 

 男の顔面にそれが叩き込まれる時、バキリと音が鳴った。財宝からの音じゃない。衝撃にねじれ吹き飛ぶ男の顔面から鳴っていた。

 

 「な……!」

 「なんだ!?」

 

 殴り飛ばされた男はきりもみ状に回転しながら、先を行く男たちを軽々と飛び越え壁に激突した。自分たちの間を飛ぶ流星に、ヤバい飛び道具だと勘違いした暗殺者らが振り向き武器を構える。

 

 「フヒヒ」

 

 両手両足に不釣り合いなほどに重そうなヨロイを装着した小さき王が、彼らの目の前で手足をダラりと下げた状態で不敵な笑みを浮かべている。

 

 「ジェットで殴られると、ヒトは忘却しちまうんだと。……けどよォ、死ねば問題ないよな?」

 

 男たちは少女の軽口に戦慄した。

 

 「財宝よ、“ジェット” 足鎧(サバトン)

 

 ギントがそう呟くと足元の鎧に小さな蒼雷がカケメグル。

 一瞬にも思えた雷はギントの歩みを追いかけるように何度も(ほとばし)り、一歩前進する度に常人では成せないような速度が加算されていく。

 

 ガシャガシャガシャン──!

 

 「は、速い!」

 「来るぞ!」

 

 暗殺者たちにとってそれは目で捉えられる限界の速度をとう超えており、すぐさま防御の体勢に入る。小さき王は自らの速度を抑え切れないのか、狭い地下の壁と天井を走った。

 

 

 ──ジェット──

 レートF+(産出国補正H-)。

 耐久硬度3.5

 精神力アップ↑

 回避率アップ↑

 命中率ダウン↓

 回復力ダウン↓

 忍耐力ダウン↓

 魔物との遭遇率が下がる。

 強敵との遭遇率が上がる。

 モノの加速力を上げる。

 忘却のステータス効果あり。

 

 

 駆け上がったギントは暗殺者らの間に飛んでくる。

 

 「“レッドスピネル” 前腕甲(バンブレース)!」

 

 そのまま燃えるダブルラリアットを食らわし、二人が地面に延びる。

 

 

 『挑戦のスピネル。新しいモノに挑戦し続ける者が付けるべき宝石で、魔導師を目指す人には特にオススメ。色によって得られる効果は様々だけど、レートはほとんど一緒だから色々試してみるといいかもよ?』

 

 

 「重いな……体力の限界か」

 

 震える自分の手を見て、残された体力が少ないと感じた少女は歩き出す。右腕の篭手は僅かにひび割れていて、そこから金色の光が漏れている。

 

 「検証が必要だな。どのくらい消費して、どのくらい耐えれて、どのくらい補正が掛かるのか……」

 

 新しいおもちゃを手に入れた子どものように、ギントは静かにワクワクしていた。

 

 「しっかしここまで用意周到ってことは、内部に協力者がいるパターンだなこりゃ? チャイバルごとオレを始末するつもりだったのか知らないが、これくらいは日常茶飯事だったり……しないよな? まっさかー!」

 

 王たるもの暗殺未遂なんて日常茶飯事──。そんな最悪な妄想を、茶化すように笑い飛ばした。

 

 「“サファイア” (ヘルム)

 

 ブカブカの甲冑頭部を被ると、ギントはおもむろに目を瞑った。兜が青く光る。

 

 

 『慈愛のサファイア。精神を高めたい、もしくは鎮めたい時に重宝する宝石で、音の探知や傍受にも優れた性能を発揮する。これ付けて寝るだけで頭の中がスッキリして、気持ちよく起きれるんだよね。同じコランダム系には四大貴石のルビーもあるよ』

 

 

 ──周囲にある出口は三ヶ所。罠の気配……あり。完全に封鎖されちまってるのか。困ったな。

 

 「ん? 二人、いや三人こっちに向かって来てる」

 

 ドドドド──!

 

 階段を駆け下りる暗殺者たちの足音をいち早く察知したギントは身を隠してそれをやり過ごしたあと、なぜか堂々と姿を現し、数歩進んで足を止めた。

 

 「おうおう、ガールたちじゃん。勇者の調子はどうだったよ」

 

 楽しそうに腕を組み虚空にむけて話しかける。しばらくすると花壇や植木鉢の影から、先ほど撒いたはずの女たちが出てきて立ち上がる。

 

 「ふん。答える義理もないが、一言で言うと脳筋だった」

 

 ツンケンした態度、の白藍(しらあい)色した短髪ボブの女は赤ブチメガネを押さえて言った。今度は純粋そうな銀髪サイドテールの一回り小さな女が言う。

 

 「魔法を使わず腕力だけで私たちを逃がしてくれましたです」

 「で、貴様はどうした? 逃げ場もないのに逃げ回って、それで時間稼ぎのつもりか? くだらない。お前の味方はやって来ないぞ」

 

 メガネをくいっと持ち上げ勝ち誇る表情で言ってくるが、ギントは気にせず目の前にあった燭台にゆっくりと手を伸ばす。

 

 「ちょいちょい、動かないで」

 「それに触ったら本気で殺しますです!」

 

 後ろ髪が肩に掛かるほどの長さのあるやる気なさげな金髪女と銀髪サイドテールが警告してくる。

 

 「殺す? 最初からその気だろお前ら。まるで助かる方法があるみたいに言いやがって……」

 「あると言ったら?」

 

 金髪からの意外な言葉に、ギントの片眉が上がった。 

 

 「あれだけ全力でタマ取りに来て、今更助かる方法があるって? じょーだんは牢屋の中だけにしといてよオバサン」

 「オバサンだとふざけるな。こちとら花も萎れるピチピチの十八だよ」

 「乗るな乗るな、安い挑発だ。あと萎らすな」

 

 白藍髪が金髪につっこむ。

 なんとなく彼女たちの関係性が見えたところで本題をつめる。

 

 「で、オレに何しろと。助かるんなら幾らでも協力させてもらうけど」

 「まって! この王様変だよ!」

 

 奥の方でじっと黙っていた黒髪黒目の女が急にギントを怪しみだして声を上げる。不意の糾弾にギントも口をきゅっと結ぶ。

 

 「王様なのになんでひとりきりなの? 裏口のひとつやふたつ知っていてもおかしくないのに、どうしてそこから逃げようとしないの? おかしいわよ」

 「た、確かに。なぜだ」

 「単純に知らないんだろ。こいつがニセモノ(・・・・)だから」

 「「「……!?」」」

 

 金髪がいちばんに核心を突いてきた。その他の連中は思いもよらなかったのか驚愕している。

 

 「いやまて、資料にあった人相とは一致しているぞ」

 「ホントに一致してるかね? 肌の色も全然違うし目も悪魔みたいだしイカれすぎマンでしょこれ」

 「そうね。声の件もそうだけど、聞いてた仕草や性格からは大分かけ離れてる。こういうの何て言うか知ってる? 影武者と言うそうよ」

 「ニセモノはだいたいそうだろ……」

 

 先ほどからツッコミ役に回る機会の多い白藍も、さも当然ように影武者を口にするが、それは的外れなのでギントは腰に手を当て高笑いする。

 

 「ハッハッハッハッハ!」

 「何がおかしい!」

 「的外れだ愚か者め! オレは正真正銘トレジャーランドの王! ファナード百世である! そしてオレは、お前たち味方であると宣言しよう」

 

 ギントが何かを企む時、その顔はより悪魔的になる。

 


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