召喚状
『召喚状。貴方は勇者に選ばれました』
駐屯兵が持ってきた赤い手紙を読んだ時、少年は激怒したんだと。
幾人もの兵士に行く手を阻まれながら、たどり着いたのは玉座の間。王に直談判する少年は必死に訴えかけた。
「陛下! これは何かの間違いです! 私は勇者になるつもりなど毛頭ありません!」
「連れて行け」
「わたしには大切なものがおります! 将来を誓い合った、大切な女性です! お願いです陛下ッ! どうかお慈悲を……ッ!」
「そんなものは、忘れろ」
無慈悲な一言と凍てつく視線に突き放された少年は地下牢に連行され、王に忠誠を誓う者達に気絶するまで痛めつけられた後、飽きると森に捨てられた。
『犠牲の勇者』なんてのはよく言ったもので、月に一度、どこかの家の誰かの元に手紙が届いてこんな目に遭うんだとか。少年を殴った兵士が言うんだから間違いない。
勇者になってこの国に帰ってきた者はただの一人もいない。それはつまり『魔王と戦い死んでこい』の合図。テイのいい厄介払いだったり、王様の意思に削ぐわない反勢力が選出されやすいという噂は、少年からすれば単なる噂に過ぎなかった。だって少年は、パン屋で働くごく普通の少年だったから。
運が悪かったのだと割り切れたらそれで良かったのだが、フツフツと湧き出るその激情は魔王を倒したあとも納まることは、とうとうなかった。
──いつからだろうか。
王に復讐してやると心に決めたのは。
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黄金。絵画。豪華な装飾。
この国の繁栄が一挙に満ち足りた王城──謁見の間。
階段に敷き詰められた赤いカーペットの頂点にそびえる黄金の玉座。唯一それに座ることを許された華奢な者そこ、彼の声なき王トレジャーランド・ユーシャリア・ファナード百世。
十二歳のうら若き王は、虚ろな目で今日も孤独に鎮座していた。