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残念ですが陛下、スローライフはお預けです。  作者: ヒガツキ
第二章 陛下、補佐大臣は厄介です。
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処刑を止めろ!


 パジャマ姿では出ていけないので侍女たちに無断外出の手伝いをさせ、いざ街へ。王冠と真っ赤なマントが堂々輝く。

 

 「タミくんタミくん、既に民草は処刑台周辺にパンパンだ。歩いて止めにいけそうにはないかも」

 「《遊走》行けるか? オレも一緒に」

 「飛び方教えるよ」

 

 《遊走》は壁や床を抜ける移動術だが、移動そのものの速度もなかなかのものである。

 先に街の様子を見た大国主の助言に従い、ギントは《遊走》の使用も辞さない考えを示した。使ってしまうと入れ替わりの異能が使えるまでの時間がさらに延びてしまうが、それを譲歩したカタチだ。

 

 「ついでに声のことも公表しようと思う」

 「え!? でもそんなことしちゃったら、戻りづらくならない? みんな王様に期待しちゃうよ!」

 

 ふわふわ浮くように首元に抱きつきながら、大国主が心配な目を向ける。

 

 「しょうがねぇさ。戻るカラダが無くなったら、そっちの方が困るだろ? 手伝ってくれるかオークニ様」

 「うん。腕によりをかけて協力するとしよー。でなにするの?」

 

 大国主は頼ってもらえたことが嬉しいようでギントから離れて、力こぶをつくってアピールした。

 

 「山にいく」

 「やま?」

 

 

 ☆

 

 

 広場に仮設された処刑台には既に多くの見物客が集まっていた。その中心にてチャイバル大臣は剣を持ち、勇者が如何に非道な行いをしたか力説する。

 チャイバルの前には両手を縄に縛られ、俯きながら正座する勇者の姿が。勇者はここ何日、鎧も着せられたままだったのかボロ雑巾よりもボロく異臭を放っていた。しかし、無理な拷問を受けた形跡はない。チャイバルとしても変に口を割られるより黙秘を続けてもらっていた方が都合が良かったためだ。

 そんな彼の後ろにいる屈強な処刑人は、はち切れそうなほど太い剛腕に似合わない細身の斧を持って立っている。

 

 「これより勇者の処刑を執り行う! 罪状は国家反逆罪および、王城侵入罪、それと偽証罪だ」

 「偽証罪? 勇者じゃなかったのか?」

 「さあ? 勇者って言ってた気もするが」

 

 集まった野次馬の中にそんな会話をする者がいる。

 

 ──ふん、忘れっぽいお前たちにはどうでも良いことだ! よく見ておけ、貴様らは働き者のワシがいた印象さえ残しておけばよいのだ。

 

 民衆など大きく捉えれば地位も知能も働かない烏合(うごう)の集まり。心の中でそう見下しながらチャイバルは演説を続ける。

 

 ──大して効果があるとは思わんが、何事も積み重ねが大事よ。大臣の次は名代、摂政、そして国王。このステップアップは誰にも譲らんぞ。ふふ、ふははひ、

 

 「フハハハハ!」

 「なんか、笑い出したぞ」

 

 チャイバルは望む場所に至るためなら堅実であり、したたかであり、時に大胆であれた。既に大きな組織の力を借りていることもあって失敗は許されない。そういう面持ちでいざ挑む。

 

 ドガッゴバァーーン──!!

 

 その時だった。

 チャイバルの背後に何かが降ってきて処刑台の床の一部が破損した。

 周囲はどよめいているが、演出だと思っているのかなかなか逃げようとはしない。民衆が暴れた時に出動させる予定だった兵士たちが急いで壇上に上がってくる。死期悟る勇者も思わず振り返りその正体を知る。

 

 「オレとしたことが、飛び方習っておいて、着地を習い忘れるたぁね……」

 

 巻き上がる砂埃の中から何者かがぶつくさ喋りながら現れる。兵士たちは危険と判断したのか、一斉にその人物を取り囲む。空から降ってきた謎の人物に全員、槍を向け出した。

 

 「何者だ!」

 「頃合いを見計らい登場する予定だったが、ずいぶん派手な登場も嫌いじゃない」

 「「あ、あなた様は……!」」

 

 その容姿を見て兵士たちはすぐに気付いた。目の前にいる者こそ、我らの仕えるべきお方であると。所々おかしな様子ではあるが。

 

 「静まれーい! そのホコは誰に向けるもだいよ! 我が名はファナード! トレジャーランド・ユーシャリア・ファナード一〇〇世。トレジャーランドの正式な王であるからにてー!」

 

 演技臭のするその宣言に、会場全体が静寂に包まれる。そして、だんだんとその意味を理解した者たちが声にならない声を上げ始める。

 

 「へ、陛下が……」

 「「「「陛下がしゃべっったァぁああああぁぁぁあ!??!!?」」」」

 

 処刑台が音に縦揺れした。みんな目が飛び出すほど驚いている。もはや勇者の処遇なんてそっちのけ。反応が城の時と同じだ。

 

 「唐突ですまんがこの断頭式を止めに来たぜ!」

 

 王様はそれを伝えると、自分が声を取り戻した経緯や、その恩人こそ勇者であることなどを簡潔に話した。それを聞いた勇者本人は振り向きもせず目を丸くしたが、しばらくするとどこか寂しそうに俯いてしまった。

 

 「ま、マジかよ」

 「あれが今の、俺たちの王様……」

 

 民衆がその気迫と口の悪さに押されている。

 こうなってしまえば刑を執行することはもはや不可能。チャイバルは無理やり笑顔をつくってホコを収めることになり、この騒動もお開きになるかと思えた。だが……。

 

 「本当に王様なのか? こんな胡散臭いチビが?」

 

 最前列の男がそんなことを言った。兵がすぐさま詰め寄る。

 

 「貴様、侮辱行為か!」

 「何言ってんのよ! 本物はこんなに日焼けしてないはずよ!」

 「そうだぜ、いくらなんでも変わりすぎだろ!」

 「「そうだそうだ!」」

 

 初めて顔を見る者はその迫力に圧倒されたが、そうでない者達からニセモノではないかという声が上がり、徐々にその声は波のようにでかくなり始めた。

 

 「「「「「「ニセモノ! ニセモノ! ニセモノ!」」」」」」

 「き、貴様ら、どいつもこいつも……!!」

 

 もはや兵士たちだけでは収集がつかない。ギントの悪いことを考えていそうなアクマの顔つきが、より大きく反感を買い続ける最悪のループに入ってしまった。

 

 「いや、待てよ……」

 

 この状況はむしろチャンスなのでは? チャイバルは直感でそう思い、脳をフル回転させた。そして民衆側に立ち、王様すらニセモノであると糾弾しようと人差し指を天に掲げるも……。

 

 ──ダメだ。今さら王の愚行に反抗したところで、ワシの評価が上がる訳ではない……!

 

 ギリギリで思い留まった。

 しかしこのまま何もしなければ、その場で責任問題に発展しかねないので眉間のシワが濃くなる。

 

 ──くぅぅ、おのれ百世め! 扱いやすいただのコマだと思っていたが、飼い犬に手を噛まれた気分だ。ワシの覇道をそうまでして止めたいか……。いいだろう、貴様がそう来るならワシも最後まで全力で足掻いてやるとも!

 

 

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