前田慶次
あーめんどくさ。酒を呷りながら、つらつらとあーでもないこーでもないと考える。しばらくすらと、その思考すらめんどうになった。酒が空になる。
「おい!酒!!」
女将がこっちに来て、訝しみながら
「あんた金は持ってんのかい?ないなら、その身ぐるみ剥ぐことになるけど」
「あ?金ならここに…」
巾着袋から小銭を探るが、何もなかった。そうだよな、最近は散財してばっかだった。
「金持ってない客に出す酒なんてないよ。出ていきな」
ぶっきらぼうに言われる。だが、不思議とイラつくこともなかった。こんなとこで反省が生きるとは。寂しさを感じながら
「ああ、金もってまた来る」とだけ言い、席を立ち、出口に向かう。
「あいよ」と暖簾をくぐるときに聞こえた。
路地裏で行く当てもなく露天を冷やかしながら歩く。そろそろ屋敷に帰るか、親父に見つかるとめんどーだからな。
「おい、兄ちゃん。随分と上等なもん着てんじゃねーか」誰かに声をかけられる。
「あ?」帰るときに誰だよだりーな。少し観察すると、くたびれた服を着た30過ぎのおっさんだった。
「金目のもん出せよ。そしたら痛いことしないでやるよ」
「雑魚が何言ってんだ。俺に勝てるわけねーだろ」
「はー?調子乗ってんな兄ちゃん。」
「俺はな、お前みたいな雑魚に構ってる暇ねーんだよ」
「チッ お前その身なりからして地侍の息子だろ?そんなおぼっちゃまに世間の怖さ教えてやるよ。いいぞ、やれ」
おっさんがそう言うと後ろで隠れていた二人が飛びついてきた。気付いてはいたが、体がうまく動かず、組み伏せられる。クソ!酒が回って体が思うように動かねえ。こんな雑魚どもに遅れをとるとは。
「よわwwwww、お前よくそんなで調子乗れたな。おい!殴って気絶させとけ」
頭を殴られて視界が暗転した。
気がつくと、まだ路地裏にいた。連れ去られたわけではないようだ。身体を弄ると裸だった。身に付けてるもん全部取られたようだ。これだと目立って帰る前に親父に見つかるな。
放心しながら、仰向けに転がり空を見るとまだ日は沈んでなかった。
「惨めだな」
「…………」
「前田家の家督を利家殿に奪われた挙句、チンピラに身ぐるみ剥がされるとはな。お前がほんと滝川家の人間じゃなくてよかったわ」
「….うるせーよ」
「昔は熱意あるやつだと思ったんだがな。どこで間違えたんだか」
「うるせーって言ってんだろ!」
「お前はほんと人の話を聞けないやつだな。
だから、前田家でも周りの信頼を得られんかったんやろ」
「ほんまに黙れや……クソ親父」