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成人の儀と女王の責務

「シロン、成人の儀まであと一月だ。正式に王位継承権を持つ事を公にすれば、今まで以上に苦難多い日々となるだろう。ラヴォーナ国と国民を伴に守り、其方を支えるのが夫の役割になる。成人の儀では、其方には王配となる夫を選んでもらう。成人の儀までの七日間、候補者である各国の王子達と交友を深め、伴侶に相応しいと思える相手を選びなさい」


シロンは憤った。


「……お父様、何ですかそれ! なんでそんな大事なこと今まで教えて下さらなかったのです! 急に言われても困ります」


王が立ち去った後、その場に控えていた、ラカとピートはどうやってシロンをなだめるか思案している。


「姫さん、その台詞は王様本人が居るところで言わなきゃ、伝わらないだろ。けどまぁ、もう候補者決まっちまってるからなぁ~」

「シロン様が生まれた時から婿選びについては決まっていた事ですから……」

「何よ! 二人とも知ってて黙ってたのね。私だけ知らなかったなんて」

「それはなぁ~、女王の責務に縛られる前に、少しでも長く自由な時間を持たせてやりたいって王様の親心だよ。姫さん」

「そんなの……分かってる! だけど私にだって結婚に対して夢はあったの。政略結婚はしょうが無いとしてもね」


不貞腐れて俯いたシロン。いつになくしおらしい様子にラカはシロンを覗き込む。


「へぇ……それは知らなかったな。因みに姫さんの夢ってどんなの?」


ラカの視線から逃げるように顔を逸らすと、静かに見つめるピートと目があった。


「実現可能なものであるならば、叶えて差し上げられるかもしれませんが……」


二人の真剣な眼差しがシロンに刺さる。きっと、どんな些細な願いであっても、二人は叶えようとしてくれるだろう。


「……いいの、子供じみた我がままだって本当は分かってる。……さっきのは忘れて」

「姫さん……」

「私、研究の続きがあるから!」

「……シロン様」


まだ何か言いたげな二人を残して、シロンは研究室へと逃げ込んだ。無性に一人になりたかった。


「女王の責務か……」


シロンは扉に持たれるとしゃがみ込んで蹲る。それからしばらくして、控えめに扉がノックされた。


「シロン様、マーサです。入ってもよろしいですか?」

「マーサ、ちょっと待って」


シロンは立ち上がると扉から少し離れ、声をかける。


「どうぞ」

「失礼します。お茶はいかがですか?」


マーサは手早く休憩用スペースにティーセットと可愛らしい焼き菓子を用意する。シロンは香りの高いお茶を一口飲むと、心までじんわりと温まっていく気がした。


「マーサ、私ね、好きな研究に没頭して過ごす毎日が、ずっと続くと何処かで思っていたの」


シロンのとつとつと語り始めた言葉をマーサは静かに聞く。


「それで、お母様のようにいつか恋をして、想いあった人と夫婦になるのだと、そう思っていたの。初めて会う知らない人の中から、たった七日間で本当にお相手を選ぶことなんてできるのかしら?」

「不安に思われるのは当然です。シロン様の婿となられる方ですものね。最終決定権はシロン様にございます。候補者の中にシロン様の御心に叶うものが居なければ、そう仰ればいいのです」

「えっ。断っても大丈夫なの?」

「外交のことですので、ディオ様のお仕事が少々増えるかもしれませんが、シロン様がお幸せになる事が何より重要ですからね」

「そうなのね、少し気が楽になったわ」

「それに、ディオ様は『真に姫が望むものを与える事ができたもの』を婿にすると宣言されていらっしゃいますしね」

「私が望むもの?」

「えぇ。シロン様がお相手に望むものをしっかりと心に定めていれば、思いの外あっけなく答えは見つかるかもしれませんよ。それに、シロン様は一人ではございません。困った時はいつでも助けを求めればいいのです。ディオ様、ピート、ラカ、城の皆んなに、このマーサも、シロン様のおそばにおります」

「マーサ、ありがとう」


 それからのシロンの日常には変化があった。式典のリハーサルに、各国の貴賓を迎える為のもてなしや社交の復習、ダンスのレッスン時間がいつもより長く取られ、毎日入り浸っていた実験室に篭ることもままならなかった。


 お披露目に着るドレス一式がシロンの元に届けられた時には、成人の儀まで既に二週間を切っていた。城内は常に慌ただしく、各国の王子を迎える準備が着々と行われていく。ピートとラカもそれぞれ忙しいようで、シロンとゆっくり過ごす時間は取れていない。


 そして成人の儀まで両手で数えるまでになった頃、ついに各国の王子を乗せた飛空船(ひくうせん)が続々とラヴォーナ国にやって来た。

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