プラト国へ
シロンがセージと東の庭園を散策していた頃、ラカはある人物との再会を果たしていた。
その日、ラカはまたしても打ち合わせの為に、呼び出されていた。もうすっかり顔馴染みとなった外交官と、何時ものように情報の共有を行う。
「……以上が新しく入ってきた情報です。ラカ殿の方では何かありますか?」
「いえ、本国からの情報も概ね、今お伺いした事と変わりありません」
「そうですか」
王子の死に対する復讐を掲げ、ラヴォーナ国をほぼ占領下に置いているにも関わらず、何もかも投げやりで杜撰な様子のサギーナ国。領土の一部とするなり、国政を牛耳るなり、なんらかの動きがあるかと身構えていたものの、何の動きも無いまま時だけが過ぎている現状。ラヴォーナ国がジワジワと衰退し、滅びていくのを、ただただ遠くから興味が無さそうに眺めているだけの様にも見える。
「本当にサギーナ国は何を考えているのか」
「意図が分からなすぎて不気味ですね」
お決まりの会話を交わしつつ、議題は四カ国協定に向けての詳細へと移り変わる。近日中に、ラヴォーナ国一行はプラト国へと向かう事になった。今日はその行程についてより詳しい部分を詰めていく予定だ。同行人数の確認や日程等、諸所の確認が行われた。
トントン
ノックの音に従者が対応に出て行き、外交官に取り次ぐ。
「ラカ殿、今日は紹介したい者がいるんだが、よろしいかな?」
「はい」
「入りたまえ」
外交官は扉に向かって声をかけ、訪問者を部屋へと招き入れた。
「失礼します」
部屋へと入ってきたのは青い騎士の正装を纏った背の高い青年。
「ラカ殿、紹介しよう。この度、ラヴォーナ国使節団をプラト国までお送りする飛行船の責任者だ。バーム隊長、こちらはラヴォーナ国空挺師団のラカ殿だ」
「サルト国飛鷹騎士団第一部隊隊長デーツ・バームだ。よろしく頼む」
「バーム隊長、ご尽力感謝いたします。ラヴォーナ国空挺師団に所属しておりますラカと申します」
形式的な紹介と挨拶の後、二人は握手を交わす。それを見守っていた外交官は、申し訳なさそうにラカに断りをいれた。
「ラカ殿、すまないが、私はこの後別件が有るので席を外す。バーム隊長、ラカ殿と話を詰めておいてくれ」
「畏まりました」
外交官が退席すると、青年はラカにつかつかと歩みより、ラカの肩を気安くバンッと叩いた。
「久しいな、ラヴォーナ国空挺師団のラカ殿。それとも、蒼の旅団のラカと呼んだ方がよいか?」
ゾーンスピア領主の長兄は、ニヤリと人の悪い顔で笑う。
「その節は、身分を隠しての旅でしたので、何卒ご寛恕を。改めて、よろしくお願いします。バーム隊長」
「はははっ。色々と聞きたいことはあるが、先ずは任務が先だな」
デーツは飛行船の大きな航行地図をテーブルに広げる。
「プラト国への航行予定について説明しておこう。今回はこの航行区域を通る予定だ。何か気付いた点があれば、忌憚なく意見を聞かせ欲しい」
「分かりました」
空挺操師同士の意見交換が行われた。
◇◇◇
プラト国への出発の日。ラヴォーナ国の使節団は、サルト国王への謝辞も済ませ、空挺師団のドックに停泊している飛行船へと乗り込んだ。元々シロンが滞在していた事は内密にしていた為、華々しい出発の式典や盛大な見送りはもちろん無い。それでも身の回りを世話してくれた官吏や外交官の姿は見える。ラカは冴えない表情でデッキからお世話になった人々を眺めていたシロンに声をかける。
「姫さん、浮かない顔してどうしました?」
「何でもないの」
「飛空船酔いが心配ですか?」
「ふふふっ、飛空船酔い対策に関しては前回の反省を活かしてちゃんと薬を用意しているから大丈夫よ」
ゾーンスピアから王都への空の旅で、酷い飛空船酔いを起こした為、もしかしてそれを心配しているのかと思ったラカだったがどうやら違ったらしい。
「本当に、何でもないの。サルト国での滞在を思い返していただけよ」
シロンはラカにそう告げると、もう一度群衆を見渡した。
「セージ王子が別の公務で、見送りに来られなかったのは残念でしたね」
「えぇ。でも、二度と会えない訳じゃないもの」
「そうですね。……まぁ、直ぐにまた会えますよ」
ラカは何とも言えない表情でシロンに答えた。飛空船のデッキはザワザワと慌ただしくなり、乗り込み用のタラップが取り外される。
「姫さん、そろそろ出発の時間です。中へ入りましょう」
「分かったわ」
シロン達は貴賓室へと戻り、そのすぐ後に飛空船はプラト国へ向けて飛び立った。
お待たせいたしました。(間が空いた上に、かなり短いですが)
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