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側近達と候補者

 ピートの研究室ではシロンから逃げて来たラカが実験台に寄りかかり、シロンからの賄賂のおやつを幸せそうに食べている。


 のんきなやつめとピートは憎まれ口を叩いたが、実際には最近のラカは超多忙であちこちを飛び回っていて、この時間がほんのわずかな休憩時間だという事も知っていた。


 国の中枢施設で姫の教育係兼王立研究室室長のピートは、相変わらず城から出る事はない。情報収集は行っているつもりだが、空挺師団に所属するラカほど、各国の最新情勢を知る訳ではなかった。情報の擦り合わせもかねて、ピートは自分の知る情報をラカに投げかけた。


「聡明さと美しさを兼ね合わせた美の女神ミランもかくやと各国では評判になってるらしいな」


 シロンの十六才の誕生日に近隣諸国からの貴賓を招いて、お披露目もかねた大きな晩餐会が開かれる。姫誕生の報以降、シロンの露出はなかったので、噂が噂を呼んでいるらしい。


「実際、姫さん、黙ってりゃ超絶美少女だもんな。賢いし~まぁ間違ってはないんじゃね?」


 白衣を身に纏い、怪しげな薬品を夜な夜な作っては奇声をあげ、城を吹っ飛ばしたり、城内部から国の壊滅の危機を招くような事件を起こしたりと、見事な奇行っぷりを知っているだけに素直にその評判には同意しかねるピートだった。


「真実とは時に残酷なものだが、評判がいいにこした事はない」

「まぁな、嫌われるよりゃ好かれてる方がやりやすい。どのみち何かあれば、俺らが処理するまでだ」


ラカはお菓子の最後のひとかけを惜しそうにしながら、ぱくりと口に放り込んだ。


「……それで、会って来たのか?」


ピートは誰にとは聞かなかった。ラカが最近飛び回っていた理由。


「各国回って姫さんのお誕生日会のお知らせ配って来たからな。もちろん候補者達に会って来たよ。王にはもう提出してるけど見るか?」


『プラト国 第三王子   ケルビン・ハートレー(二十五歳)

 ラストリア国 第六王子 アゲート・アーカンサス(十八歳)

 サルト国 第四王子   セージ・トロープ(十三歳)

 サギーナ国 第二王子  グロム・ギベリ(十六歳』


 ピートは各国の麗々しい王子たちの絵姿のついた報告書を複雑な気持ちでそっと机に伏せた。


「それで、この中にシロン様の配偶者として相応しい方はいそうか?」

「どうかな~まぁ、近々嫌でも会えるさ。……ピート、お前はいいのか?」


ラカは普段と同じ軽い口調でズバリとピートの僅かな心の揺らぎを突いてくる。


 ピートはシロン姫誕生のあの日、王家の血を引く年の近い男児として一族郎等に担ぎ出されて以来、必死で学んできた日々を思い起こす。何かある度にまことしやかに語られるシロン姫の婚約者候補としての自分。


 ピートは代々国の中枢を担う重臣の一族で、宰相を幾度も輩出している名門の出身だ。過去に遡れば王族の血に連なることが一目でわかる銀の混じるブロンドの髪に、一族に共通する澄んだアメジストの瞳は、高貴な出自であることを隠しようがない。


 幼いときからその頭脳は群を抜いており、国の優秀な子弟が集う王立アカデミーに入学し、飛び級で主席卒業したうえ、難関の王立研究室研究員に合格、異例の若さでの室長就任を果たした。そんな順風満帆、人生勝ち組のようなピートだが、シロン姫誕生の日から周囲の大人達の都合に振り回されてばかりの人生とも言える。


 極秘裏に許嫁候補として目されたピートの生活は一変し、普通の子供でいることは許されず、王家の許婚にふさわしい貴公子になるための厳しい教育が始まった。ありとあらゆる学問から、帝王学、立ち振る舞い、感情のコントロールに至るまで、徹底的に叩き込まれた。


 けれど、その努力は違う形で実ることとなる。ディオ国王の意向もあり、ピートは婚約者候補からシロンの教育係へと転身することとなり、現在に至っている。


「私の立ち位置は、もう決まっているからな。お前もだろラカ?」

「まあな」


ピートの迷いのない返答にラカはからりと笑う。


「それにしても、姫さん大丈夫かなぁ~」

「何がだ?」

「ディオ国王、俺にお前、こんないい男に囲まれて、箱入りで育っちゃってるからなぁ。男を見る目がぜって~厳しいだろ」

「何かと思えば。そもそもシロン様を王配としてサポートできるだけの力がなければ候補者になる資格はない。事はシロン様の一生に関わることだ。シロン様ご自身が、相手を厳しく見極められるならいい事じゃないか」

「ハァ~これだから自分を分かってないやつは~。ピート、お前を超える条件の男なんざ、そうそう居るもんじゃないんだからな」

「やめろ、お前に褒められると居心地が悪い」

「“冴え渡る氷の君”は、相変わらずつれないねぇ~」

「その名前はやめろ、シナを作るな気持ち悪い」


 二人はくだらない言い合いをしながらアカデミー時代をふと懐かしく思い出していた。

 お互い身長は高くなり、見える景色は変わっても、“何があってもシロン姫を守る”と誓い合ったあの日と、その眼差しを向ける先は変わることはない。

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