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シロンの部屋 帰国したラカ

 空挺師団の仕事で諸国に向かい、一ヶ月程不在だったラカがラヴォーナ国に帰って来た。物心ついた時からいつも一緒だったラカが、こんなに長い間側に居なかったのは初めてで、シロンはこの一ヶ月なんとも言えない物足りなさを感じていた。


 シロンはラカの好きな焼き菓子を用意して帰国の報告に寄るはずのラカを今か今かと待ち構えていた。


「シロン様、ラカ様がお見えですよ」


侍女の一人が来訪を告げると、ラカがいつもの調子でシロンの部屋に入ってきた。


「姫さん~。元気してたか? 俺がいない間、ピートからお小言もらってないか?」

「お帰りなさいラカ!」


シロンはラカに駆け寄ると、思わずぴょんと飛びついた。ラカはシロンを受け止めフワリ抱き上げると、その場でクルクルと回転した。


「どうしたどうした~姫さん。熱烈だなぁ~」


ラカはシロンをそっと下ろすとニカッと笑った。


 ラカの姿を見て思わず飛びついたシロンだったが、子供の頃によくねだった”抱っこ回転”をこの年になってまた経験するとは……シロンは自分の子供っぽい行動が急に恥ずかしくなって、居住まいをただし椅子に案内する。


「ラカここに座って。少しは時間あるんでしょ? お茶飲んでいきなさいよ」


二人がクルクル回っている間に、有能な侍女によってテーブルには軽食とラカの好きなお菓子とお茶のセットが用意されている。


「おっ! このお菓子くっていいの? やりぃ~、これ俺の好きなやつじゃん。流石姫さん分かってる~」


ラカは長椅子にドカリと座ると、さっそくお菓子を口に放り込みもぐもぐ幸せそうに食べている。それを見届けたシロンはラカにゆっくりと詰め寄った。


「ラカ、食べたわね」

「ん?」

「”賄賂”を受け取ったからには白状しなさい、私に何か隠してる事があるでしょ!」


シロンは口いっぱいにお菓子を頬張るラカにズバリと本題をつきつけた。


「ぶふぉっ! げほげほっ……」


ラカはお菓子が変なところに入ったのか盛大にむせている。


「ちょっと大丈夫ラカ? はいお茶飲んで」


ラカはシロンの渡したお茶を一気に飲み干す。


「賄賂だったのかこれ! てっきり、会えなくって寂しかった~お帰りラカへ♡なお菓子かと……姫さんの気持ち嬉しく思った俺の純情をどうしてくれよう」


なにやらぶつぶつ言っているラカをよそにシロンはお茶のおかわりを注ぎながら上目遣いに見る。


「こんなにラカが居ないなんて初めてだったもの、とても寂しかったのよ」


(くぅっ、姫さんその顔でそのセリフはずりぃ~よ)


ラカは思わずニヤける口元に手をやる。


「ラカはこの遠征で他国を回ってきたのよね?」

「そうですねぇ」

「隣国と何かありそうなの? ラカがこんなに長期間居なかったことって無かったし、誰に聞いてもうまく逃げられちゃうのよね」

「ふ~ん」

「何かおかしいのよねぇ、最近皆よそよそしいっていうか、絶対何かあると思うんだけど。お父様も用も無いのに実験室によくいらっしゃるし……」

「へぇ~」

(王様~バレバレ、不審がられてますよ~)


ラカはうっかりな王に内心苦笑しつつ、ついつい、娘の部屋の前をうろついてしまう王の心情を察する。


「隣国とのことは、まぁ心配しなくて大丈夫だよ。自分で言うのもなんだけど、俺がお使いについて行ってたのは飛空船乗りで一番操縦が上手いからだしぃ」


ラカは不安そうなシロンの頭をくしゃりとなでた。


「姫さんはいつも通り元気に過ごしてればいいんんだよ」

「あのね、成人の儀って実は大変な試練とかあったりするの? ラカなら知ってるんじゃない?」

(うっ、いきなり核心ついてきたな)

「ん~、その時が来たら……な。心配すんなって、姫さんなら大丈夫だ。俺やピートもついてるし」

「ラカとピートがいてくれるのは心強いけれど……」

「だろ。こんないい男二人に仕えられて姫さんは幸せもんだなぁ~」

「それは否定しないけどね、ラカ……話を逸らそうとしてない?」

「あっ、もうこんな時間か、わりぃ~姫さん。俺いろいろと他にも報告しないとだから、そろそろ行くわ。お菓子ありがとな」


ラカは手をヒラヒラと振りながら退出した。去り際にお菓子をちゃっかりもう一個手に取って。


「……いつもながらわざとらしいわ、ラカ。それにしても、試練については否定しなかったわね」


シロンは儀式で行われるかもしれない試練の事を考えてみた。

“ドキドキ恐怖の断崖絶壁度胸試し!!”、“本物はただ一つ! 王家の秘宝鑑定大会”


「……う~ん。これはたぶん違うわね」


シロンは答えが出ない問いをいったんおいておく事にして、ラカに言われたようにいつもどおり、ピートから駄目だしをもらった飲むだけ万能薬の実験に再び取りかかることにした。

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