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外の世界へ 1

 星降りの儀式が数日後に迫ったある日、巫女に呼び出された二人は、ついに外界へ出る方法を教えて貰える事になった。


「まず最初に、外界へ出る方法を話す前に、これだけは伝えておくよ。外界へ出るものは、“精霊の加護”が授けられる決まりだ」

「精霊の加護ですか?」

「そうだよ」


加護とだけ聞けば良いもののように感じるが、巫女が改まって話すと言うことは何かあるのだろう。シロンは真剣に耳を傾ける。


「“精霊の加護”で得られるものは主に三つ。郷と外界を繋ぐ道を見つけられるようになる事、外界でも弧空の民を認識出来るようになる事、自分に害意を持つ者を見分けられるようになる事だね」

「“自分に害意を持つ者を見分けられるようになる”のは便利そうですが」


ラカはどう言う風に認識出来るのかが気になるようだ。


「だが、“精霊の加護”は良い面ばかりでもない。加護とは言っているが、外界へ出る者を縛る呪でもあるんだ。まず第一に、外界で弧空の民や郷に関する全ての事を話せなくなる。第二に、外界で弧空の民や郷の暮らしを脅かす行いをした場合、呪が発動し命を落とす事になる」

「巫女様、例えばどのような行いで術が発動しますか?」

「さぁて、呪が発動した者を知らないからね。どんな行為が“脅かす”と判断されるのか、何が術の理に抵触するのかは分からない」

「……そうですか」


ラカは難しい顔をして考え込んでいる。シロンはふと疑問に思って巫女に尋ねてみた。


「呪が発動した場合、解除方法はあるんですか?」

「呪の発動は止められない。見たことはないが、全身を黒い痣が覆い、苦しみ悶え絶命すると言われているね」

「巫女様、その呪は姫さんの分も俺が受けられるように出来ますか?」


ラカは身を乗り出して意気込む。


「ラカ、あんたの忠義心はかうけどね、“精霊の加護”は一人ずつ授けられる決まりだよ」

「やっぱりそうですよね~。分かりました」


巫女は居住まいを正すと改めて二人に向き合う。


「それらを踏まえた上での最終確認だ。あんた達は、本当に“精霊の加護”を得て、外界へ出ることを望むかい?」


シロンはラカを見る。ラカはシロンの瞳に揺るがない決意が有るのを見て一つ頷いた。


「おばあ様、外界へ出る方法を教えて下さい!」

「巫女様、お願いします」

「まぁ、あんた達はそう言うだろうとは思っていたけどね」


シロンとラカの気持ちが変わらない事を確認すると、巫女は肩の力を抜く。


「そうと決まったら、早速だけど、“精霊の加護”を授けるとしよう。いいかい?」


 巫女は二人に小さな蒼輝石の結晶を一つずつ持たせると、“精霊の加護”を授ける術を使った。石からぽわりと浮かんだ青い光が、ラカとシロンの体に吸い込まれていく。石は色を無くし、手の中でパキリッと砕ける。巫女は割れた石を回収して確かめると、二人を見る。


「問題なさそうだね。これであんた達は“精霊の加護”を得た。さっき話した事を決して忘れないようにね」

「「はい」」


二人は元気よく返事をした後、自分達の体を確認してみた。外見的に何かが変わったわけでも無く、感覚の変化などは特に感じられなかった。


 次に、外界への通路の説明を聞く。


「まずは、これを渡しておくよ」


巫女は色の違う三個のお香と、覗き窓の付いた吊り下げ香炉をシロンに渡す。


「これは獣よけと、時刻を計る為のものだよ。通路の奥には三箇所の結界石があるから、それを開錠したら次のお香を燃やすようにしな。このお香が燃え尽きるまでに次の結界石の場所までに行くようにするんだよ」

「最初が緑、次が黄、最後が赤の順番ですね」


シロンは順番を間違えないようにしっかり頭に叩き込む。


「最後の結界石を越えた場所は、通常は水で埋まっている場所だ。星降りの儀式の間だけ水が引くからね。悠長に構えていたら、通路に水が戻ってきて溺れたなんて事にならないように気をつけな」

「外界への通路で迷ったりしませんか?」


シロンのその疑問には、ラカが答えた。


「外界への道筋は、鍵の守り人の資格を得た時に俺の頭の中に全て入っているから、安心してください、姫さん。精霊が導いてくれるから、迷うことは無いみたいですよ」

「そうなのね。頼りにしているわラカ」

「それから……」


巫女は小さな革袋を取り出す。


「これは少しだが、あんたが手伝いをしてくれた時の対価だよ。旅費のたしにでもしておくれ」


シロンは革袋を受け取り、袋を開けてみる。そこには小さな蒼輝石がザラリと入っていた。


「こんなに……おばあ様、ありがとうございます」



 それから出発までの数日は、旅支度に追われる。ある程度事前に準備していたものの、いざとなると、あれもこれもと荷物が増えて行く。


「姫さん、熱冷ましはそんなに要らないと思うんだけど」

「はっ! そうよね。ついつい作り過ぎてしまったわ」

「それは、ジュウザさんに渡しときますよ」

「お願い。私はもう一度荷物を見直すわね」


 ラカは薬包紙に包まれた大量の熱冷ましを抱えてジュウザに持って行く。


「ジュウザさん、すみません。姫さんが熱冷まし作り過ぎたんですけど、貰って下さい」

「おぉ、ありがとう。それじゃあ、お返しにこれを持って行きなされ。また、必要になるかもしれんで、念の為持っとくといい」


ジュウザからは白い花を煎じた薬と、白い花の種が入った包みを渡される。


「ジュウザさん……何から何までありがとうございます」


ラカはジュウザの心遣いに感謝した。



◇◇◇



 星降の儀式の前夜。二人はジュウザが用意してくれた旅装を身にまとう。必要最低限に減らしたそこそこ大きな荷物はラカが背負っている。


 ジュウザに連れられて巫女の屋敷に向かう。二人が今までに入ったことがない奥の部屋へと案内される。部屋の壁一面に、弧空の民の歴史を記した見事な壁画が描かれており、正面にあるのは精霊を祀る祭壇だろうか。


「凄い……」


緻密に描かれた壁画を見渡したシロンは、感動のあまり言葉を失った。


「ほら、何ぼーっとしてるんだい。シロン、時間が無いよ。こっちにおいで」


巫女は祭壇の前に二人を呼び寄せる。巫女が祭壇の上に飾られている宝玉に手をかざすと、見事な壁画に光の線が走り、祭壇の後ろの壁面には、ぽかり開いたと通路が現れた。


「ここが外界に繋がる通路への入口だよ。良いかい、香を必ず焚くことを忘れずに行くんだ」


シロンは小さな鞄から薬瓶を取り出し巫女に渡す。


「おばあ様、ジュウザさんこれを。前に薬草を採りに行った日に見つけた希少な薬草です」

「ありがたく受け取っておくよ。外に出たら、しっかりやんな」

「嬢ちゃんも兄さんも元気でな」

「「今までお世話になりました」」


二人が通路側に入ると同時に、祭壇の壁は元の状態に戻って行き、すぐに巫女とジュウザの姿は見えなくなる。二人の目の前にはつるりとした石材の壁があるばかり。振り返ると、青白くぼんやり発光する何も無い部屋に立っていた。


「姫さん、あそこに最初の結界石がありますよ」

「ラカ、お願い」


ラカが『開錠』を行うと、通路が現れる。二人は扉をくぐり、ラカが『施錠』を行っている間に、シロンは緑の香に火をつけた。


「さぁ、行きましょう! 外界へ」


二人はしっかりとした足取りで歩き始めた。

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