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鍵の守り人の修行

 ラカは鍵の守り人の資格を得るために、全ての基本となる結界石の操作をジュウザから学んでいた。ジュウザの屋敷の庭に用意された小さな台の上にのる何の変哲もなさそうな拳大の石。ラカは目の前にある鈍い灰色の石に、ジュウザに聞いた通りに力を込める。しかし、いくら待っても石は何の変化も起きそうにない。


「……くぅ〜。ジュウザさん、すみません。今の所、もう一度お願いします」


ラカは悔しそうにしながら、横で見ていたジュウザにその場をゆずる。ジュウザは石の前に飄々と立ち、今一度、結界石の操作の手本を見せる。


「ええかい? まず、こう手をかざすじゃろ? そいでもってグッと力を込めたら、ガッてなるじゃろ? そしたら、ググッと来た時に『解錠』じゃよ」


 石は淡い光を放ってキンッと高い音を鳴らすと文字のような模様が表面に浮かび上がった。


「続けて行くぞ、石に手をかざしたら、力をバーッと一気に叩き込むんじゃ。そんで石がギュッとした所で『施錠』じゃよ」


表面に浮かんだ模様が収縮していくように一箇所に集まりふっと消えると元の何処にでもありそうな灰色の石に戻る。


「ほれ、簡単じゃろ?」


ジュウザは呼吸をするように易々と結界石を開閉して見せた。


「……ありがとうございます。もう一度やってみます」

「それじゃぁ、出来たら言っておくれな」


ジュウザは、昼食作りの為に屋敷に入っていった。ラカは再び結界石と向き合うと、訓練を再開する。


(グッとして、ガッとなってググッと……うぅっ、分かんね〜っっ。ジュウザさんの説明、説明になってねぇ〜!)


 一回見ただけで直ぐに結界石の操作が出来たらしいジュウザは、残念な事に教師役にはまるで向いていなかった。


 外界では古の術として、文献でのみ残る精霊術が施されているらしい解錠石の操作は、ラカにとって大変難しいものだった。慣れ親しんだ蒼輝石とは違って、力が思うように上手く入って行かない。力の込め方がどうしても分からず、最初の一歩で躓いている状況だ。


「もう一度。ぐぐぐっ!」


 ラカは何度も手をかざし力を送るが、結界石はというと、ほんのわずかにも反応を示さなかった。



◇◇◇



 一方シロンは、ラカがジュウザから鍵の守り人の教えを受けている間、巫女の手伝いに駆り出されていた。


 弧空の民にとって大切な星降りの儀式が間近に迫っており、巫女は連日準備に忙しくしている。ジュウザの手が取られている分、シロンが替わりを務める事になったのだ。


 巫女の手伝いは多岐に渡っていた。各所から送られてくる書簡の仕分けに始まり、星降りの儀式に用いられる道具類の手入れ、祭壇に置かれる供物のお飾りを作って綺麗に並べたり、儀式で使用する数種類のお香の調合……と、シロンは巫女からの指示を受けつつ、一生懸命に仕事をこなしていく。


「お婆様、こちらは終わりました。他のお仕事はありますか?」

「もう終わったのかい? 仕事が早くて助かるよ。じゃあ次はこれを頼むよ」

「そちらは既に纏めています。前回の書式に沿って、各郷から届いた供物は種類ごとに個数を記録しましたので、確認をお願いします」

「あぁ、これでいいよ。ジュウザは書類仕事だけはてんでダメでね。今回はシロンのおかげで準備が早く済みそうだ」


シロンは事前に作った儀式に向けての準備リストを確認しながら作業を進めていく。シロンが出来上がった分を持っていくと巫女は感心して言った。


「シロン、今日はそれで終りだ。あんた、本当に有能だね〜」

「お婆様、お世辞でも嬉しいです」

「お世辞なもんかね。郷に残る気はないのかい? このまま巫女補佐に任命したいくらいだよ」


巫女は半分本気で冗談めかして言う。


(ピートから学んできた効率的な仕事のやり方が役にたっているかもしれない)


巫女の手放しの褒め言葉に、シロンは嬉しい気持ちで一杯になった。


今日の手伝いが終わったシロンはジュウザの屋敷に戻ると、昼食を巫女に届けるジュウザとすれ違う。


「あぁ、嬢ちゃん。帰ったのか」

「はい、今日の私のお手伝いは終わりまして」

「そうかい。じゃぁ、兄さんと昼ごはん食べてな。わしは巫女様んとこに食事を届けてくるでな」

「ラカの調子はどうですか?」

「う〜ん。かなり煮詰まってるようじゃな。次の段階まで、時間がかかりそうじゃからの、今日はわしも巫女様の所で準備するよ」

「分かりました。ラカに伝えておきますね」


ジュウザが用意してくれた昼食のお膳を部屋まで運んで、庭で難しい顔で結界石と向き合うラカに声をかける。


「ラカ、お疲れ様。お昼にしましょう?」

「ハァ〜、姫さん。運んでくれたんですねありがとう〜。頂きます」


訓練が始まってから、少しばかりゲッソリとした様に見えるラカと向かい合って座る。お昼ご飯を食べながら、進捗具合を聞く。


「結界石の操作はどう?」

「難しいですね。蒼輝石に力を込めるのは簡単なんですけどね」

「どう違うの?」

「そうですね〜。蒼輝石の場合は、とにかく強火で一気に加熱調理する感じなんですけど。結界石だとその方法では中まで熱が通らなくて、表面がちょっと焦げるだけみたいな感じで……」


ラカは根菜の煮物を突つきながら話す。


「なるほど、結界石を正しく料理する方法が分からないのね。ジュウザさんは何と?」

「グッと力を込めて、ガッとなったら、ググッとです……」

「それって、前に穀物を炒めた料理を作ってた時の説明で、ジュウザさんが似たような事を言って無かった?」

「姫さん! そうですよ、そうか、そう言う事か」


ラカは急いでご飯を食べ終わると、火加減を調整するように、力を調整しながら結界石に力を込めてみる。


「『開錠』」


 さっきまでは何の反応もなかった結界石は、お手本で見せてもらったように、淡い光を放ってキンッと高い音が鳴り、文字のような模様が表面に浮かび上がってきた。


「やったわね! ラカ」


シロンが駆け寄ると、ラカは魂が抜けたような顔をしてはははっと笑った。


「……出来ました。姫さんのおかげです」


ラカは、続いて『施錠』も難なく行った。


「くぅ〜っ。こんなに簡単な事だったんだ〜」


その日の午後、ラカはジュウザから次の課題を貰って、今までの躓きを払拭するほど次々と課題を合格して行くのだった。


 数日後、ラカの鍵の守り人の修行が終わりを告げる頃、シロンが手伝っていた儀式の準備もつつがなく全て整った。

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