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星降りの民と外界への道

 ただ単に忙しいからなのか、“兎狩り”の真相をシュカの知るところになったからなのかは分からないが、郷長屋敷で会った日以降、ジセイがシロンを訪ねて来る事はなかった。


 風で扉がカタリと鳴る度に、ついついそちらを気にしてしまうシロン。そんな姿を何回目かで目撃したラカは、何気なさを装ってシロンに問いかけた。


「姫さん、郷長が来なくなって残念ですか?」


シロンはハッとしてラカを見ると、なんとも言えない微笑を浮かべた後、ポツリとつぶやく。


「……少しだけね」


ラカはシロンの答えに息を飲む。まさかという思いに矢継ぎ早に質問を投げかける。


「郷長の事が気になりますか?」

「そうね、気にならないって言ったら嘘になるわね。ジセイ様はいつも急で、強引だし、こちらの気持ちをちっとも考えてくれない。でも、ちょっとだけ、分かる部分もあったから」

「……分かる部分?」

「ジセイ様がどんな気持ちで言った言葉なのかは分からないけれど、この人も私と同じなのかなって思ったの」


 シロンはジセイに対して感じている、正直な気持ちをラカに伝えた。


「姫さんと郷長が同じ気持ち? それって……」


ラカはシロンの言葉の意味をしばらく考えた後、真剣な表情でシロンに向き合う。


「姫さん、もしここに残ることで、姫さんが幸せになれるんだったら、俺は……」

「ラカ、ちょっと待って。何で急にそんな話になるの?」


シロンは慌ててラカの話を遮ると、居住まいを正してラカの目をしっかりと見て言う。


「ラカ、私は誰?」

「ん? シロン・ラヴィターニア姫様?」 

「そう。ラヴォーナ国唯一の王位継承権を持つ姫、シロン・ラヴィターニアよ! 全てを捨てて、私だけここに残って暮らすなんて有り得ないわ」

「……そっか」


シロンの力強い言葉に、ラカは張り詰めていたものを吐き出した。


「じゃあ同じ気持ちって何です?」

「ジセイ様もね、為政者としての政略結婚をしなくてはいけない立場なのかなって思ったの」


シロンはジセイの熱のこもった青い瞳を思い出す。あの時の許嫁を愛していないと言い切った言葉に、嘘は無いように思えた。


「それじゃあ、郷長の事を将来の伴侶として好きになった訳じゃ~無いんですね?」

「ラカったら、それで急に変な事を言い出したのね。ジセイ様とはまだ数える程しか会ってないのよ。そんな気持ちになら無いわ。それに、ジセイ様には婚儀を控えたツユ様がいらっしゃるじゃない」


なんの躊躇いもなく即答したシロンに、ラカは気まずそうに頬をポリポリとかく。


「すみません、俺の勘違いでしたね。実は、残ると姫さんが言ったら、ピートになんて言い訳しようか~って真剣に考えました」

「ラカったら」

「姫さんも知ってるでしょ? ピート、怒るとマジでこえ~から~」


いつもピートに叱られている二人は顔を見合わせて笑う。


「ラカ……私ね、お母様と約束しているの。ラヴォーナ国民の幸せを守れる素敵な女王になるって」

「それは、絶対に叶えないといけませんね。……姫さん、俺も王様とピートと約束してるんです。無事に姫さんをサルト国に送り届けますって。まぁ、無事にって部分が今の時点でかなりあやしくなっていますが……」


ラカは自身の不甲斐なさに苦笑する。


「ラカ、この先も多分もの凄く大変だと思うけど、私に力を貸してくれる?」

「そんなの決まってる、もちろんだよ姫さん」

「それでね、サルト国に行って助力を得られたら、皆んなが待つラヴォーナ国に帰りましょう。“約束ね”」

「“約束です”」


二人は決意を新たに約束を交わした。



◇◇◇



 シロンの弧空の郷での暮らしも、巫女が口にした期限である半年が経とうとしていた。


「シロン、ラカ。あんた達に確認しておくことがあるから、ちょっとおいで」


 二人は巫女の部屋に招き入れられ、巫女の前に座る。巫女は棚に置いてある木箱を手に取り蓋を開け、中から布に包まれた何かを取り出して二人の前に置く。布を捲ると中から現れたのは薄い板の様な鈍色の石。


「シロン、ここに手を置いてごらん」


シロンが恐る恐る手をのせると、石板の色がほんの少し明るい色に変わる。


「次はラカ。あんたもここに手を置いてみな」


次にラカが石板に手をのせると、石板はピカッと青白い光を放った。


「うわっ?!」


ラカが驚いて手を離すと、石板の光は消え、元の鈍色に戻る。


「……やっぱりそうかい」


 巫女は一人何かに納得した様に頷くと、石板を布にくるんで丁寧に木箱にしまい、元あったように棚に戻した。


「巫女様、これはいったい?」

「この石板はね、一族の血脈を見定めるものでね。結論から言うとラカ、あんたは大昔に外界に残った星降りの民の子孫って訳さ」

「星降りの民の子孫? 姫さん知ってますか」

「いいえ、初めて聞いたわ」

「星降りの民は既に歴史上から消えた一族だ。あんた達が知らないのも無理はないよ」


巫女は星降りの民の歴史を簡単に語って聞かせた。


「大昔の話さね。今は失われた術、蒼輝石を生成する“星降り”を生業としていたのが星降りの民だ。“星降り”は富を生み出し、大きな争いをも生む。それを案じ厭った星降りの民は自らの名前を捨て新天地を目指した。俗世から隔離されたこの場所に移り住んだのが弧空の民の祖先。“星降り”を封印し、只人となって暮らす事を選んだ者達も僅かながら居たらしい。おそらくラカ、あんたはその血脈だろうね。蒼月湖の結界は血脈者の強い意志が働かないと越える事が出来ないから、そうではないかとは思っていたんだ。ジュウザから聞いたが、あんたは蒼輝石の扱いにも長けているんだろう? それも子孫の証拠さね」


 ラカはさらりと告げられた新事実に驚きを隠せないでいる。蒼輝石は発掘で稀に見つかる大変貴重なものだ。それを作る術があるというだけで、世界の根底を揺るがしかねない。


「巫女様、そんな重要な話を、俺達に話してしまってよかったんですか?」

「あんたら二人とも外界に帰りたいんだろ? その為にはどうしても必要な話だからね」

「では、外界に戻る方法を教えて下さるんですね」


シロンは喜色満面な様子だ。


「方法を伝える事は直ぐにでも出来る。だけどね、実際に外界に出る為には、幾つかの条件を満たさなければなら無いんだ」

「言ってください。俺が出来る事は何ですか?」

「ラカ、まずあんたは鍵の守り人の資格を得なければならない。外界に続く道を迷わず進み、結界を抜ける為には必須だよ」

「どうすれば、鍵の守り人の資格を得られますか?」


意気込んだラカに落ち着くように言うと、巫女は部屋の外に控えていたジュウザを呼び込む。


「鍵の守り人の事は、このジジイから教わる事だね。ここからは、あんた次第だ、精々頑張んな」

「ジュウザさんよろしくお願いします!」

「大丈夫、大丈夫。兄さんなら直ぐにでも覚えられるさ~」


気の抜けたジュウザの返事に案外簡単なのかもと、楽観視したラカ。


 しかしその直後、鍵の守り人の資格を得る事が、そう簡単にいかない事を思い知る羽目になるラカだった。

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