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ラヴォーナ国の王位継承者

 定例である朝議はいつもの如く紛糾している。


「ディオ国王、どうか国内からの候補者を今一度ご検討頂きたい」


何度却下されても、暫くすると再熱する議題にディオ国王はうんざりしながらも同じ応えを返す。


「何度も話し合った通り、王家には新しい血が必要なのだ」

「しかしながら!」


尚も言い募る一部の高官を目で威圧し黙らせる。


「これは決定事項である。覆ることはない。不備が無きよう候補者を迎える準備を進めよ」


 朝議の場を後にしたディオ国王は、執務室の椅子に深く沈み込み眉間をもみほぐす。ふと香ばしい香りが部屋に漂ったかと思うと、補佐官のアランがワゴンを押して部屋に入って来た。


「失礼します、ディオ様。少し休憩を取られては?」

「あぁ、そうだな」

「どうぞ」


机の上にそっと差し出されたティーカップには、シロンが考案した疲労を和らげる効果のある薬草茶が注がれていた。


「また古老達ですか?」

「あぁ、いつもの事だ」

「いい加減諦めてくれたらいいんですけどね」

「仕方あるまい。古くから王家に使える高官には、王家純血主義思想が根深い。自分達に流れる王家の血こそ誇りと思っているからな」


ディオ国王は、自身にも僅かながらに流れている王家の血があればこそ、最愛の妻と結ばれた事を考えると、古い因習と斬って捨てる事が出来ずにいた。


 ラヴォーナ国の始まりより、神の寵愛を受けた初代国王の血を尊び、王家純血主義を掲げてきた。王家に子供が生まれた場合、すぐに王家に連なる一族より年齢の近い許嫁候補が選出される習わしがあり、代々近親婚を重ねている。タリス女王の代には年回りの近い条件に見合った一族に連なる相手がおらず、女王を補佐する王配がなかなか決まらなかった。苦肉の策として、遡ればなんとか王家の血を僅かに引く家柄出身であった、タリス王女より五歳年上の近衛騎士団隊長が相手に選ばれることとなり、それが現ラヴォーナ国国王ディオだ。


 近年ラヴォーナ国王家に生まれる子供は病弱体質の者が多く、早逝が続いており、これは近親婚による遺伝的な要因が大きいというのが王立研究室の医師団の見解だ。病弱体質は王家の特徴を色濃く持つ者程その割合が高く、シロンの母で有るタリス女王も、もれなくそのうちの一人だった。


 ディオ国王とタリス女王の結婚から一年後、王家の証を色濃く受け継いだシロン姫が誕生した。国王家直系の一族に現れる病弱体質がシロンにも受け継がれていないかと心配をする国王夫妻をよそに、シロンは元気にのびのびと成長していった。(その陰には王立研究室の日々の研究とシロン姫の体調を万全に管理する部隊、通称”シロン様見守り隊”の尽力も大きい)


 シロンが九歳の時、元々体が弱かったタリス女王は儚い人となり、ラヴォーナ王家は、王位継承権を持つ直系王族がシロンただ一人となり、王家存続の危機という重大な局面を迎えた。王位継承権を持つ唯一の姫として、シロンは城の奥深くで大切に守られ、育てられることとなる。


 輝く白銀の髪に、白磁の肌、ラヴォーナ王家直系に現れる淡いシルバーピンクの瞳。月の女神ミランの化身とまで言われた母親に似て、シロンも整った容姿をしていた。今はまだ幼さを残した愛らしい容貌だが、数年後には母と同じように、誰もを魅了する美しい女王となるだろう。小国ながらも豊かな交易国、王の地位、美貌の女王、結婚すればこの三点セットがもれなく手に入るシロンである。国内のみならず、近隣諸国が放っておく訳がなかった。シロン姫誕生の一報からすぐに、シロン姫の婿の座争奪戦が始まった。


 国内では因習である王家に連なる一族からの婚姻を強く押す意見も根強く、各所からの求婚の嵐に辟易とした王が出した答えはーーー


『姫の十六歳の誕生日である成人の儀において、姫に求婚を希望する候補者の中から婿選びを行い、真に姫が望むものを与える事ができたものを婿とする』


という、曖昧なものであった。


 結論を先送りする為の時間稼ぎに出されたとも言えるこの公布を受け、各国の反応は様々だった。他国に遅れをとるまいと密偵を放つ国、シロンが何を望むか分からないままに金銀財宝をかき集める国、中には世界の珍味を集めてみたりと迷走する国もあった。


 生まれた時から婿の座が争われていることなどつゆと知らないシロンは、今日も元気に自身の研究室に籠もっていた。

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