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三の郷からのお客様

「……という事は、外に出る方法があるということですね?」


ラカは巫女の言葉に確認する。


「外界に出る方法は無くはない。けれど、出られる時期が決まっている」

「おばあ様、それはいつですか?」

「おおよそ半年後だね」

「半年……もう少し早くに出ることはできませんか?」

「こればかりは、しょうがないね。外界へ続く道はその時しか開かない。それまで待つことだね」

「……そうですか」


 ラカとシロンは半年という時間の長さにもどかしさを感じながらも、少しだけ前進したことに喜んだ。


「長に知られたからには、郷の者との関わりも出てくるだろう。あんた達には郷の者達に変に思われないように、ここで学んで、しっかりと働いてもらうからね」


二人は頷きあって了承した。


「元よりそのつもりです」

「おばあ様、ジュウザさん。頑張りますので、よろしくお願いします」


 その日から、シロンとラカは弧空の民について勉強を始めた。それに伴い、シロンは薬師見習いとしてジュウザの薬草を管理し、ラカは腰を痛めた程のジュウザの代わりに外回りの仕事を担当した。


「いやぁ~。こんなに楽させて貰うて、悪いなぁ~」


実際にはぴんぴんしているジュウザだが、いつ郷の者に見られるとも知れず、屋敷内での仕事のみを行っている。最初は覚束なかった作業も、毎日続けているうちに、二人とも手慣れてきた。


「ジュウザさん、巫女様の昼食なんですが、味付け見て貰ってもいいですか?」

「どぉれ? あぁ、いい塩梅だ。兄さん料理が上手いな」

「母親が料理人でして。幼い頃はよく手伝わされてたからですかね」

「あぁ、なるほどなぁ。通りで、おっかさんの美味しい味を知っているからじゃな」

「大雑把なラカが料理が得意だなんて……」


シロンは自身の料理が壊滅的だった事に落ち込んでいる。


「姫さん、練習してれば上手くなりますって。ほい、とりあえず今日は味見係な」


ラカはシロンの前に煮物を差し出す。差し出された煮物をパクリと頬張るとシロンは悔しそうに言った。


「クゥ~、美味しいわラカ」

「でしょ? 俺、いいお嫁さんになれますかねぇ~」


ラカはくるりと回って可愛くポージングする。


「ラカったら、ふふふっ」


 シロンは、そんなラカを見て思わず吹き出した。


 ラカはシロンに少しずつ笑顔が戻ってきている事にホッとしていた。日中元気にしていても、夜にうなされて目を覚ます事が多い。ふとした時に見せる不安や悲しみの表情。城の皆んなの事、グロムの事を思っているであろう事はラカにも分かる。


(今の自分に何ができるだろう……こんな時、マーサがいてくれたらなぁ〜)


“お前が弱気になってどうする!”ラカはピートの叱責が聞こえた気がしてフッっと笑った。


「ジュウザさ〜ん、ごめんください〜!」


表から声がする。誰か訪ねて来たようだ。


「おぉ、お客様が来なすったな。兄さんや、すまんが客室に案内してもらえるか? 嬢ちゃんにも後で紹介するが、わしの里から来たもんじゃて」

「分かりました」


ラカは玄関に立つ若い男に声をかける。ラカはそれが不自然だと自分でも気づかぬまま、城でそうするように客人へと対応をしてしまう。


「遠路、よくお越しくださいました。ジュウザさんは中でお待ちですので、どうぞお上がりください」


若い男は、今まで受けたことのない、貴人を持て成すようなラカの丁寧な対応にビクっとする。


「は、はい、どうも。それじゃあ、上がらせてもらいますよ」


三の郷から来た若い男はジュウザが待つ部屋に案内されるとジュウザに詰め寄った。


「ジュウザさん! なんなんですかアレは?」

「なんじゃい、来るなり」

「いやいや、アレはどう見ても三の郷出身者じゃないでしょう! 郷長の侍従か、一の郷の戦士かって感じですよ!」


アレ扱いされたラカは、自分のやってしまった失敗に気がついた。


(しまったな〜。長年、城での所作が身についてっからなぁ〜)


トントン


「失礼します、お茶をお持ちいたしました」


 シロンがお茶を持ってくると、若者はシロンの美しい所作や容貌に見とれて真っ赤になった。


「どうぞ」


若者の前に茶を置くと、シロンはマナーの授業で習った通りにニコリと微笑んだ。若者はがくりとうなだれると情けない声でジュウザに訴える。


「……ジュウザさん、本当無理っす。三の郷にこんな娘さん居たら直ぐ噂になるっす」

「ふむ、困ったのぉ。巫女様と話し合った中で、一番いい設定じゃと思ったんじゃがな」

「それに、聞いていた話と違いますよ。九歳位の女の子だったんじゃ。どう見ても成人前の立派な娘さんですよね?」

「あぁ、そうそう。嬢ちゃんはここ数日でな、成長したんじゃよ。いやぁ〜子供の成長は早いよなぁ〜」

「はぁ〜!? 何馬鹿なこと言ってんですか。そんな数日で一気に成長するもんですか!」


 つい先日、シロンは薬の効果が切れて、元の姿に戻っていた。


「明日の昼食会が心配になってきましたよ。俺、正直者なんで、長に聞かれたら嘘なんてつけませんよ」

「大丈夫じゃよ。三の郷出身の薬師見習いが滞在しとるって、長は巫女様から聞いて知っておるからな」

「本当に大丈夫ですか〜? 不安しかないんですけど」

「なんとかなる。なんとかなる」


ジュウザはカラカラ笑った。

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