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郷長と星降の巫女

 郷長の屋敷の一室に通された星降の巫女は、シュカが持ってきた茶に口をつける。


「申し訳ありません、ジセイ様は間もなく参ります。急な面会が入りまして」

「構わないよ。長はお忙しいだろうからね」


巫女がちょうど茶を一杯飲み終える頃に、ジセイが部屋へとやってきた。


「久しいな、星降りの巫女よ。変わりはないか?」

「おかげさまで、聖域での勤めもつつがなく。長もご健勝そうでなによりでございます」


 巫女の茶を入れ直し、ジセイの前にも茶を置くとシュカは静かに退席する。


「つい先日のことだが、久々に狩りに出てな。瑠璃色の珍しい鳥を見たのだが、巫女は鳥の名前を知っているだろうか?」

「長、またお忍びで狩りに? シュカ様も気苦労が絶えませんこと」

「狩りについてはシュカが設けてくれた時間だから大丈夫だ。して分かるか?」

「瑠璃色の鳥と言いましても、実物を見てみないことには何とも言えませんね」

「そうか……では、もしまた見かけたら、捕らえてそなたに見せに行こう」

「では、その日を楽しみにすることと致します」


 二人はお互いの思惑を綺麗に隠した表情で、微笑み合い、茶を口にする。


「して、今回の面会依頼はどう言ったご用向きでございましょうや?」


巫女は本題を切り出した。


「そうだな……巫女よ、私に何か言うことはあるか?」


ジセイは軽い質疑で巫女の様子を伺う。


「次の星降りの儀式については前にお話した通りですが、他に何かありましたかな?」


しかし、百戦錬磨の巫女はするりとかわす。それならばと、ジセイも確信に触れる。


「屋敷に珍しい客人が滞在しているとか……」

「はて、珍しい客人? 心辺りがございませんが」


それでもシラを切る巫女に、ジセイは自分が知っている事を匂わした。


「巫女よ、とぼけるな。鍵の守り人の屋敷にいるのであろう?」

「あぁ、ジュウザの屋敷でございましたか。年のせいかとんと物忘れが酷くなりましてなぁ」


尚もとぼける巫女に、ジセイは確証を突きつける。


「巫女よ、私はこの目で見たのだ。あれは誰だ?」


巫女はそれを聞いてようやく心得たというように答える。


「長が見たのは、おそらく、ジュウザの遠縁に当たる者でしょう。二、三日前にジュウザが腰を痛めましてな、ジュウザの里から下働きの手伝いを呼び寄せたのでございます」

「ジュウザはそんなに悪いのか? 薬師を遣わそう」

「なぁに、長の手を煩わせる程ではございませんよ。それに、手伝いに来た者は薬師見習いゆえ、ジュウザの腰もじきに良くなりましょう」

「そうか、それならば良いが……」


話が途切れ、二人は茶を口にする。


「それだけでございますか? お忙しい長が、よもや下働きの事をお知りになりたいだけで、この星降りの巫女を呼び出されるなどという事はありますまい?」


「……次の星降りの儀式についてな、少し聞きたい事があったのだ」

「そうでございましたか」


ジセイは巫女にすでに知っている幾つかの事項を確認する事になった。


 面会時間が終わり、シュカが巫女を見送り、ジセイの居る部屋へと戻って来る。


「宜しかったのですか?」

「仕方がなかろう、あれは、これ以上聞くなと言う事だ。しかし、隠されると、より知りたくなるものだが……」


シュカはジセイの茶を入れ直す。ジセイは茶を飲むとシュカに指示を出す。


「薬師見習いと言っていたな。鍵の守り人の里は三の郷か?」

「問い合わせますか?」

「巫女に警戒されないように密かに調べさせよ」

「畏まりました」


◇◇◇


 巫女は自身の屋敷に帰るとすっかり元気になってジュウザの手伝いをしているラカとシロンを呼ぶ。


「薬師見習いですか?」

「そうさ。ジュウザの里、三の郷から下働きの手伝いに来ている事になっているからね」


ジセイに話した設定を話して聞かせる。


「ジュウザさんや、ジュウザさんの里の皆様にご迷惑がかかりませんか?」


シロンは、自身が関わることで、誰かを不幸にすることをもう知っている。


「なぁに、心配せんでもええよ。里のもんには申し伝えておるからな」


ジュウザはいつもの調子でカラカラと笑う。


「しかし、外部から来た者だと知らせないのには何か理由があるんですか?」


ラカの質問に、巫女は表情を改める。


「これから話すことは、弧空の民に絶対口外しない事。いいね」


巫女は難しい顔をしたまま話し始めた。


「ここに住む者は、外界を知らない。生まれてから死ぬまでこの小さな世界が全てだ。天上の世界は神々の国と教えられて育つ。だから、あんた達の事情は何があっても隠し通さなくてはならない」


ラカは巫女の言葉に疑問が浮かぶ。


「巫女様、質問してもよろしいですか?」

「なんだい」

「巫女様は初めから、我々を同じ人として認識されていました。巫女様は外界をご存知なんですね?」


ラカの確信を得て述べている質問に巫女はニヤリと笑う。


「フンッ、私の知る外界からは時が随分たっているからね。正確ではないにしろ……シロン、あんたの容姿がラヴォーナ国王族特有のものだって位は分かる」

「おばあ様……」


シロンは驚きの目で巫女を見つめる。


「詳しい事情は知らないがね、ラカ、あんたが乗ってきた乗り物とやらは飛空船かい? もしそうなら、あの気流の中、良く底まで辿り着けたもんだ。相当な手練れの空艇操士だね」

「ご明察。参りました~」


ラカは、最初から全てを把握していた巫女に脱帽する。


「星降りの巫女は弧空の民の歩んできた歴史の全てを知る者。外界を知らなければならず、郷の秘密を継承していく者なのさ。巫女になる為には外界での修行が必須だからね」

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