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回廊にて 邂逅

 (ふぅっ~、危ない危ない~。姫さんの薬、ピートの手が入るまでは劇薬だかんな~)


 人体実験の危機を脱したラカは、シロンに告げた言葉通り訓練場に向かう事にした。側近としての任を賜り、シロンの側にいる事が多いラカだったが、本来は空挺師団に所属し、現在では国一番とも言われる空艇操士だった。


 ラカが顔見知りの衛兵と挨拶を交わしながら王族居住区を歩いていると、シロンの父であるディオ国王が回廊に囲まれた中庭で祈りを捧げているのが見えた。


「ラカか?」


威厳のある声で回廊を振り返るディオ国王。ラカは王に歩み寄り片膝をついて正式な礼をとった。


「申し訳ありません。祈りの邪魔をしてしまいましたか」

「かまわん、アレとすこし話をしていただけだ」


 ディオ国王の憂いを帯びたグレーの瞳が細められ、風に揺れる花々の中に立つ白い石像を振り返る。若くして亡くなったシロンの母、タリス女王を模して作られた墓碑である。


「先ほど、シロンの声が聞こえていたようだが?」

「ご心配は不要です。実験が成功し、少し興奮されただけでしたので」

「そうか、苦労をかけるなラカ。シロンもじき成人の儀だ、あのように好きにしていられるのも後僅かだ……」

「では、シロン様のお相手が?」

「あぁ、候補者が出そろった。この国に大きな風が吹く事になるやも知れぬ。ラカ、シロンを頼むぞ」

「お心のままに」


 執務室に戻る王を見送った後、ラカはタリス女王の墓碑の前に跪いた。


(タリス様、姫さんも遂に成人の儀だってさ。どうするよ)


『ラカ、なに小難しい顔してるのよ。大丈夫、あの子はきっと自分で道を切り開いて行く子だわ。それに、あなたもピートもいてくれるのでしょ?』


ラカの脳裏に懐かしい記憶が鮮やかに蘇り、タリス女王の優しい音色が通り過ぎていく。


 ラカは六歳の頃、腕のいい飛空船整備士だった父が事故で亡くなり、城の料理人の一人として働き始めた母と共に城に移り住んだ。タリス女王は月の女神ミランもかくやといった儚げな美しい容姿とは裏腹に、とても気さくでおせっかいなほど面倒見の良い優しい人だった。城の暮らしに慣れない料理人の息子を気にかけ、亡くなるその日まで年の離れた弟のように可愛がってくれた。


(そうだな、俺はずっと変わらなよタリス様。一生そばにいますって約束しちまったしな)


ピートと共にシロンを守ると誓ったあの日を思い出し、ラカは小さく笑う。


「よっと、じゃあ、俺も行きますね」


ラカは夢から自分を切り離すように立ち上がった。


 回廊に戻るとちょうど朝食をとりに食堂に向かうピートと出会う。


「よぉ~ピート。姫さんは?」

「シロン様は、マーサたちに連行された」

「そっか、じゃあ夜まで戻ってこられないな。そういえばあの薬は?」

「あぁ、”お前の墓にシロン様の愚痴を言いに毎日通う”はめにならなくて本当によかったと、心から思う」


ピートはいたって真面目な顔でラカを見つめ、ポンと肩をたたいた。


「ぐっ! オッソロしい事言うなよ~。全然洒落になってないぜ」

「冗談など言うものか、事実を言ったまでだ」

「へぇ~へぇ~、お前はそういうやつだよ」

「シロン様のあの独自の発想はすばらしいものだが、なにぶん調合が極端すぎる」


(まぁ、それが新薬につながる事もあるのだが……それにしても、あの薬は色々と問題がありすぎる)


 ピートは先ほどの書き付けを思い出して眉間に深い皺を刻む。その深刻な様子にラカがいつものように眉間を指す。


「シッブイ顔になってるぞ、何か心配事か?」

「いや、今のところは大丈夫だ。それよりも、先ほどディオ様がいらっしゃったようだが?」


ラカの表情は改まり、周りを気にしてか静かに言葉を紡いだ。


「あぁ、候補者が決まったそうだ」

「……そうか遂に。シロン様には?」

「いや、まだだ。おそらく、成人の儀直前まで内密にされるのではないかとお察し申し上げる」

「シロン様のご気性を考えると、まぁ、そうだろうな」

「……俺、うっかりしゃべっちまわないように気をつける」


ラカはシロンの起こした数々の騒動を思い出して身震いをし、ピートは遠い目をしている。


 シロンの護衛と教師として長年側で見守ってきた二人の青年は、待ち受けるそう遠くない未来の出来事にちょっぴり憂鬱な気持ちになった。

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