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蒼月湖の侵入者

「なんじゃ? 蒼月湖(そうげつこ)の結界に反応が……」


 社の私室で就寝していたおばばは、布団を跳ね除け起き上がると、夜着の上に薄衣を引っ掛け社の奥にある禁足地の入り口に向かった。最奥の間にあるこじんまりとした屋敷にずかずか入って行くと、すっかり夢の中にいる年老いた門番を叩き起こす。


「この老いぼれじじい! 何寝こけてんだい。さっさと起きな!」

「……ぅん? こんな時間に何じゃ巫女様、はっ!? まさか夜這いか」

「このエロじじい、阿保か! 寝ぼけた事言ってる場合じゃないよ! 結界石(けっかいせき)の解錠しな」

「何だい薮から棒に。こんな夜中に何があるって言うんだい。全く人使いが荒いのう〜」


 ぶつくさ文句を言いながら、門番の老人ジュウザは結界石に触れた。鈍い灰色の石は、淡い光を放つと、重厚な扉の錠がガチャリとはずれる音がする。


「ほれ、開けたぞい」

「何かおかしいんだよ、人の気配がする」

「そんな、馬鹿な。わし、解錠したのこの前の儀式の時以来だぞ、どっから入ったって言うんだい」

「あんたはここに居な。もし私に何かあったら、(おさ)に直ぐ知らせるんだよ」

「何かって……そんな物騒なことがこれからあるんかい?」

「わからない。とにかく頼んだよ」


 おばばはいったい誰が禁足の地を犯したのかと不思議に思った。禁足の地に入る為には結界石を外から解除しなければならない。解除できるのは門番を担う鍵の守り人のみ、(さと)の中でもごく限られた者だけだ。


 星降(ほしふり)の儀式以外では通常入る事は無い通路を進む。頭上を見上げると闇の向こうに天高く、うっすらと三日月の形に弧空(こくう)が見える。まさか……と思いつつ、懐刀を取り出し鞘から抜くと、気配のする方へと歩みを進める。


 深く澄んだ蒼月湖に張り出すようにして造られた、星降の儀式の祭壇が見えてくる。祭壇の近くに人影が二つ見えた。おばばに気づいた体格のいい男は、背後をかばうようにしておばばに向き合う。男はずぶ濡れで随分消耗しているのだろう、気力だけで立っているように見える。


「誰じゃ? 何をしている!」


 おばばは刀の切先を相手に向ける。強い意志を持った瞳としばらく静かに睨み合っていると、男の後ろからひょこりと白銀の髪の子供が顔をのぞかせた。震える声で緊迫した場に割って入ってきた。


「……おばあさま、私たちは怪しいものではありません。武器は持っていませんので、どうか刀を納めてください」

「……フンッ! 怪しさしかないわい」


おばばは二人をしばらくまじまじと見つめると、ため息をついて懐刀をしまった。


「こんなところじゃ話もできない。ついてきな!」


 おばばはさっさと門の方へと歩き出した。子供は男を心配し、男を支えるようにしてついてきた。男の方は警戒を解くことなく常に辺りを注意しているようだ。


「さて、面倒な事になったね……」


おばばは小さくつぶやくと歩みを速めた。


 門で不安そうに待っていた鍵の守り人ジュウザは、巫女様が無事戻ってきてホッとしたものの、後に続く二人の姿に心底驚いた。


「たまげた~本当に誰か居たんだな。流石は巫女様」

「無駄口叩いてないで、奥の()使うから、とっとと用意しな」


おばばは、さっさとジュウザの居住スペースに上がり込んだ。


「巫女様はほんに人使いがあらいのぅ。老骨をもっと労わっておくれよ。施錠してから行くから、ちょっと待っといてくれんかの」


ジュウザは結界石の施錠をして、きちんと門が閉まったことを確認した。

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