空中での攻防
ラカの操縦する小型飛空船が飛び立った後、サギーナ国の小型飛空船が上空を埋め尽くし、まさに城を包囲せんとしているのが遠目に分かった。
「……あんなに沢山の小型船を。ピートの予想は正しかったな」
少しでも出立が遅れていたら、あの包囲網を抜けることは不可能だっただろう。後ろ髪を引かれそうになりながらもラカはしっかりと前を向く。
ラカは進路をサルト国の王都があるサライシークに合わせる。蒼輝石をフル稼働させ南西方向に飛んだ。上手くいけば、夜明け前にはラヴォーナ国とサルト国の国境まで辿りつけるだろう。夜の闇に紛れて一直線に飛ぶ。
しかし物事はそう上手くは運ばなかった。遥か上空、雲の切れ間に黒光りする堅牢な空中要塞が浮かんでいるのが目に入る。
「くそっ……飛空船本船も来てるのかよ!」
雲の陰に隠れながら小型飛空船を進めるが、サギーナ国の空中要塞はそれを見逃してくれるほど甘くはなかった。探照灯に照らされ、ラカの小型飛空船は敵の前にその姿を晒すことになる。
「ちっ見つかったか!」
警報音が鳴り響くと同時に、空中要塞から小型飛空船が次々と飛び立つのが見えた。
「城囲んだ上に、ま〜だあんなに温存してたのかよ!!」
ラカは急下降し、サギーナ国の小型飛空船と距離をとる。
「親父の魔改造、舐めんな!」
すぐさま敵の小型飛空船も同じ軌道を取るが、明らかにスピードが遅い。これなら撒ける! そう思ったラカだったが、すぐに考えを改める。サギーナ国の小型飛空船は上空から何かを投下してきた。ラカの周囲には白い煙が沸き立ち、一気に視界が悪くなる。
「うげっ煙幕か!」
スピードを上げ厚い煙幕の壁を振り切ると、そこには獲物を待ち構え、飲み込もうとする巨大な化け物の姿が……。
「なっ!?」
このまま突っ込めば、大きく開いた空中要塞の格納庫に自ら飛び込んでしまう。ラカは咄嗟に舵を切って左に避けるが避けきれず、堅牢な重金属に覆われている空中要塞に接触してしまう。
「まずい!」
極限まで軽量化されているラカの小型飛空船はスピードは天下一品だが、その分装甲が脆い。案の定、接触した船体の一部が壊れ、パラパラと剥がれ落ちていく。
船体に穴が開いたことで、グラグラと船体は安定せず、気流に上手く乗れない。元々気難しかった小型飛空船は、全く手がつけられないじゃじゃ馬飛空船へと成長をとげた。
「親父の船はまだ飛べる! 姫さんをぜって〜送り届ける!」
ラカは自分に言い聞かせるように叫んで、空中要塞の横ギリギリをすり抜けた。
空中要塞を抜けた先には小型飛空船が待ち構えていて、捕獲用の小さなアンカーが垂らされている。
「あんなもん船体に打ち込まれたら……」
後ろには空中要塞、前にはアンカー付き小型飛空船。
「逃げるっきゃない」
ラカは進路を南東に向けて敵の小型飛空船を躱す。敵も逃すまいと執拗に追いかけてくる。
何度かアンカーが接触した。ますます船体は不安定になっていく。けれどラカはもうそんなことを気にしていられない。少しでも気を抜くとじゃじゃ馬飛空船は、シロン姫もろともラカを空から振り落とすだろう。
「……姫さんを守るのは俺しかいない!」
呪文のように呟きながら、じゃじゃ馬飛空船の手綱をしっかり制御することだけに集中する。
次第に辺りの闇は薄くなっていく。いつの間にか夜が明けようとしていた。