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万能薬の効能

 ピートはシロンの部屋に急いだ。ノックもなしにシロンの私室に駆け込んできたピートにシロンは驚く。


「どうしたのピート? 貴方が廊下を駆けてくるなんて……何があったの?」

「シロン様よく聞いて、時間がない。現在城はサギーナ国に侵略されています。すぐに避難してください」

「侵略ってどういうこと、お父様は、城のみんなは無事なの?」


 ピートはシロンの質問には答えず、心配そうに見上げるシロンの前に不思議な色の液体が入った小瓶を差し出す。


「さぁ、これを飲んで! これは貴女の作った万能薬を改良したもの、薬の効果が切れれば元に戻ります。いいですね」

「え? 何、ピート、ちゃんと説明して!! それじゃ全然答えになって無い!」


シロンはいつにないピートの様子に怯え、彼の腕にすがる。ピートはシロンの震える手をぎゅっと握ると、グイッと自分の方へ引き寄せ片手で抱きしめた。


「いいですか? 貴女はサルト国まで逃げて助力を得てください。貴女なら出来る」

「そんなのっっ! 私だけ逃げるなんて嫌よ!」


シロンはその言葉を拒否するように、抱きしめるピートの体を力いっぱい押して暴れるが、ピートはビクともしない。ピートは聞き分けのない生徒の、今だかつてない本気の抵抗に、ぎゅっと目を瞑り眉間に深い皺を刻む。深く息を一つ吐くと、焦りの色を宿した紫の瞳は、シロンを見つめる。


「シロン様、無礼をお許しください」

(ラカ、ディオ王、すみません)


保護者二人にも心の中で小さく詫びる。


 ピートは手に持った小瓶の蓋を親指で弾き、中身を一気に呷った。シロンの後頭部にはピートの体温の低い手が差し込まれ、シロンは状況がよく分からないままピートを見上げたところで、ピートはシロンの唇を奪った。


 びっくりして声を上げようとしたシロンの口内に無理やりぬるい液体を押し込み、喉の奥へと流し込んだ。


「……むぐっ、ゲホゲホッ。ピート、なにをっ……」


シロンは何が起こったのか事態を把握できないまま、目の前が真っ白になり意識が遠のいていった。


 それは不思議な光景だった。ピートの腕の中で、見る見る手足が縮んで、ピートがシロンと出会った頃の見た目になり、更に小さくなっていき、ピートが絵姿でしか見たことがない幼少期のシロンの姿となった。


 ピートは小さなシロンを細心の注意を払って服で包むようにして抱きかかえると、実験塔の最上階に急いだ。塔の屋上に出ると、強い風がピートの長い髪を舞いあげた。夜空に浮かぶ雲は凄い速さで流れていく。星は雲の切れ間から少し見えるだけだ。


「ラカ、準備はいいか?」


屋上で小型飛空船を準備していたラカはピートを振り返った。


「あぁ、何とか動きそうだ。姫さんは?」

「大丈夫だ、例の薬を飲ませてある。暫くはこのままだ」


ラカはピートに抱かれるシロンを覗き込んだ。


「姫さん、ちっちゃくなっちゃって……」


ふと、ラカの脳裏にはタリス女王が抱いた小さなシロンの記憶が蘇る。


「まだ敵に気づかれてはいないが、急いだ方がいい。これを持っていけ、連絡に使えるはずだ」


ラカはピートから小さな鳥篭を受けとると操縦席の足下に置いた。ピートは後部座席に取り付けられた丸い透明な容器の中にそっとシロンを寝かせた。


「ラカ、頼んだぞ」

「おうよ! 国一番の空艇操士に任せとけ! ……お前も無事でいろよ」

「まだ、先に見たいものがあるからな、何としてでも生き残るさ」


少年時代、シロンを守ると約束を交わしたあの日のように、手を高い位置でバシッと打ちあってお互いの健闘を祈る。


 ラカは操縦席に飛び乗り、蒼輝石を稼動させた。飛空船はフワリと浮き上がり、一気に上昇すると、追い風に乗ってどんどん遠ざかっていく。小型飛空船はスピードを上げ、見る間に小さくなっていった。


 ピートは飛空船を見送ると、王の元に急いだ。武装した王は城内の見取図を前に難しい顔をして、戦況報告にやって来た衛兵達に指示を出している。ピートに気がついた王は、宰相にその場を任せ、ピートの方へとやって来る。


「首尾は?」

「ラカと伴に小型飛空船で城外へ出立しました」

「そうか、無事辿り着いてくれればよいが……」

「戦況はいかがですか?」

「おもわしくない。お前は投降して生き延びろ、シロンさえ生きていれば反旗の機会はきっとある。お前はその時に備えろ」


サギーナ国の執拗な攻撃が始まった。

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