晩餐会での出来事
大広間に各国の使節団が座る長テーブルが縦に四列。正面には主催者であるディオ国王とシロン姫と王子達が向かい合うテーブルが設けらている。時間となり、各国の使者団、王子達が一同に揃っての晩餐会は始まった。
和やかな雰囲気の中、美味しい料理に会話も弾む、ただ一人を除いて。シロンは、食が進んでいなさそうなその様子を見かねて声をかける。
「グロム様、何かお口に合いませんでしたか?」
「……いや、すまない。大丈夫だ」
「もしかしてご気分が? 少し、お顔の色が悪いような……」
シロンがグロムの顔色の悪さに気がついた時、グロムの体はゆっくりと傾いて椅子から崩れ落ちた。
「グロム様?!」
「うっ、グゥッ……」
床にうずくまるグロムは、服に皺ができるほど両手できつく胸元を握りしめ、苦痛に歪む顔はみるみる青白くなり、色をなくしていく。
「クロム様! 誰か、医者を! 早く!」
大広間は蜂の巣をつついたような大騒ぎとなった。“サギーナ国 第二王子 グロム・ギベリが倒れた”その衝撃的な一報が風のように城内を駆け抜けた。
◇◇◇
晩餐会は中止となり、各国の使節団はそれぞれの部屋に戻っている。シロンも自室に引き上げ、グロムを心配していた。静かな部屋にノックの音がやけに大きく響く。
「シロン様、よろしいですか?」
「どうぞ」
ピートが入ってくると、シロンは待ちきれず駆け寄る。
「グロム様は? 大丈夫なの」
「シロン様、落ち着いてください。座って話しましょう」
ソファーに座ると、侍女が気持ちの落ち着くハーブティーを入れてくれる。
「グロム様の意識はまだ戻っていません。調べた所、遅効性の毒が検出されました」
「グロム様から毒が? そんな、どうして」
「今調べています。いいですかシロン様、貴女も狙われている可能性があります」
ピートは真剣な目でシロンを見つめる。シロンは息を飲む。
「決して部屋から出ずに、おとなしくしていてください」
「……分かったわ」
それから暫くシロンの生活は自身の部屋の中で終始した。
グロムの容体は思わしくない。毒を盛った犯人は分からぬまま、ラヴォーナ国、サギーナ国ともに対応に追われている。数日後に迫ったシロンの成人の儀は、やもなく中断延期を余儀なくされた。
自分も毒を盛られるのではないかと疑心暗鬼にとらわれる者、国からの帰還命令が出て帰らざるをえない者。面倒事には関わりたくない者。三人の王子達も、次々に帰国することになった。各国の使節団も急な帰国の準備に大変な混乱ぶりだ。
そんな騒然と落ち着かない城内で、グロム王子の毒の出所が判明する。
「シロン様、こちらに見覚えは?」
ピートがシロンに見せたのは、親善試合の後、シロンがグロムに手渡したあの薬瓶だった。
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