二日目 午後 親善試合とピクニックのお誘い
昼食に戻った二人が聞かされたのは、他の三人の王子達がまだ戻ってきていないという報告だった。ケルビンは昼食は必要無いとのことで、午後からも図書室での閲覧を希望しているらしい。アケードからは一輪の花とカードが届いていた。
『麗しのシロン姫 ラヴォーナ国の整備士達の仕事は素晴らしいな 昼食を共にできなくてすまない 午後からの時間は飛空船ドックで一緒に過ごさないか? 良き返事を待っている』
アケードは飛空船ドックに昼食を運ばせて食べるようだ。整備士達と意気投合して午後からも飛空船の改造を行うそうだ。グロムはというと、急遽始まった『ラヴォーナ国空挺師団 対 サギーナ国使節団 親善試合』の真っ最中。最終戦が終わっておらず、戻れなさそうだと空挺師団からの伝令が来た。シロンは世話役と相談してセージに昼食と午後からの予定変更を提案する。
「セージ様、もしよろしければ、グロム様の最終試合が間もなく始まるようなので、空挺師団の訓練場に行ってみませんか? 昼食が少し遅くなってしまうのですが、その後、飛空船ドックで、ピクニックをするのはいかがでしょう」
「いいですね。午後からはシロン様とは別行動になると思っていたので、その方が嬉しいです」
シロンとセージの一団が空挺師団の訓練場に到着すると、師団長が出迎えてくれた。観覧席に着くと、グロムの試合がまさに始まろうとしていた。
「始めッ!」
大歓声の中、試合が始まった。グロムの相手はラカだった。毎日訓練しているのは知っていたが、実際に剣を振るうラカを見る機会はあまり無かったので、シロンはちょっと楽しみになった。
開始の合図と同時にグロムがしかける。ラカはグロムの剣を最小限の動きでいなす。グロムはバックステップで一度距離をとると、再び低い姿勢のまま斬り込む。ラカはこれに対して剣を沿わすように回転させ、グロムの剣を絡め取ろうとする。しかし、グロムはそれを振り払い、素早く打ち込む。ラカが剣で受け、つばぜり合いになる。じりじりとにらみ合った後、一旦離れて、激しく打ち合う。
訓練用の刃を潰した剣とは言え、下手すると骨折しかねない。シロンはハラハラしながら試合を見守った。
「そこまで! 両者引き分け」
長らく続いた試合の結果は、師団長判断により引き分けとなった。閲覧席にいるシロンに気付いたラカがグロムに声をかけ、二人は閲覧席へとやってくる。
「昼食の約束を反故にしてしまってすまない。わざわざ来てくれたんだな」
「実は、グロム様をピクニックにお誘いに参りました。私も、セージ様も昼食がまだでして、もしよろしければこの後、飛空船ドッグで昼食をご一緒いたしませんか?」
「わかった、そうさせてもらおう。先に行ってくれ、着替えてくる」
シロンはグロムの右手の甲に傷があることに気がつく。
「グロム様、待ってください、怪我してるじゃないですか!」
「あぁ。この程度、大したことない」
「油断してはダメです。小さな怪我からでも大病に繋がることもあります。手当いたしましょう」
シロンは自身の常備薬である小さな薬瓶を取り出した。
「手当は、遠慮しておく」
「もしかして、薬効をうたがってます? 副作用もありませんし、もし万が一経口摂取しても安心安全な傷薬ですよ」
「そこまで言うのならば、頼む」
グロムは右手を渋々シロンの前に出す。シロンは薬を塗り、ハンカチをとりだすと、傷に巻き付けそっと結ぶ。
「キツくありませんか?」
「大丈夫だ」
「はい、これでいいわ。よろしければ、この薬瓶はお持ちください」
「すまない。手当をありがとう」
今度こそ、グロムは着替えに向かった。シロンはラカに今日の予定の変更を告げた。
「アケード様から逃げる為にグロム様の訓練場案内を買って出たのに、結局アケード様の元へ向かうことになるのか~~」
ラカの情けないつぶやきがこぼれた。