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まだ終わらないことについて、始まる


 美咲は五味を殺した翌日から、毎日朝のニュースを見るようにしていた。もし彼の死体が発見され、ニュースで報道されたら、すぐに行動できるように。


 1月8日。冬休み終了まで10日を切った、その日。


 朝のニュースで、それは放送されていた。昨日、近くの公園の池から、キャリーバックに詰められたバラバラの死体が発見されたというニュース。


 発見者は、その公園の管理業務員。例年になく気温が上がった昨日、溶けた氷に囲まれるように池に浮かび上がってきたキャリーバックを回収し、開けたところ、バラバラの腐敗した死体が詰められていたという。


 身元はまだ分かっておらず、10代から20代の男性と思われる。そう、アナウンサーが緊迫した声で語っていた。


 美咲は、五味の死体が発見される可能性について、警戒はしていた。反面、どこか楽観視もしていた。氷の張った池に沈めたのだから、発見されるのは、早くても春頃だろう、と。それまでに4人全員殺せばいい、と。


 思い描いていた計画が、狂った。


 もっとも、楽観視していたとはいえ、対策はしている。五味の部屋は、指紋1つ髪の毛1本残さないように、徹底的に掃除した。美咲の存在を思わせるような物は何1つ残していない。五味に買わせたキャリーバックはあと2つ彼の部屋に置いてあるものの、それが直接、美咲犯人説に結びつくことはないはずだ。


 血痕も綺麗に掃除したが、その痕跡は警察に発見されるだろう。警察関係者ではないので詳しいことは分からないが、鑑識で用いられるルミノール反応は、かなり薄めた血痕すらも浮かび上がらせるという。


 殺害現場が五味の家だということは、おそらくすぐに明かされる。それでも、五味の家が殺害現場だということから、すぐに美咲に結びつくことはないはずだ。


 これまでの行動を振り返る。計画通りに進まなかったことでザワついた心を、美咲は、深呼吸をして落ち着かせた。


 大丈夫。大丈夫だ。まだ、死体が発見されただけだ。そこから自分に直接結びつく決定的な証拠は、まだないはずだ。


 深呼吸をして脳に酸素を送り、美咲は頭を働かせた。これからどう動くべきか。


 きっと、五味の身元はすぐに判明するだろう。歯の治療痕や指紋、体型、年齢など、彼だと判断する材料はいくらでもある。


 五味の身元が割り出されたら、彼の両親のもとに警察が行くはずだ。そこから、彼が1人暮らしをしているマンションに行き着く。家に捜査が入り、そこから殺害現場だと断定される。


 これからの警察の動きを予測し、まず最初にすべきことを決めた。


 第一にすべきことは、五味の家の鍵の処分だ。こんな物を所持していることを誰かに知られたら、一気に容疑者候補の上位になってしまう。


 美咲が五味の家の鍵を持っていると知っているのは、六田だけだ。その彼も、もうこの世にはいない。


 早速、美咲は行動を始めた。普段遊びに出かけるときと同じように身支度をし、公共の交通機関を利用して街に繰り出した。ショップで服や靴を見て回り、その最中に、思い出したかのようにトイレに入った。


 トイレの個室。


 そこで美咲は、五味の家の鍵を取り出し、トイレットペーパーを何重にもして包んだ。そのままトイレの中に捨て、流した。


 鍵をそのままトイレに捨てると、その重みから、なかなか流れない。しかし、トイレットペーパーに包むことで、水に流れるトイレットペーパーが、包んだ鍵も一緒に流してくれる。


 水が流れ、止まるまで待ったが、トイレの中に鍵は残っていなかった。完全に流れたようだ。


 想定通りに上手くいって、ホッと息をついた。


 美咲は何事もなかったかのようにトイレの個室から出て、普段トイレに入ったときと同じように手を洗い、その場を後にした。


 その姿には、何の違和感もなかった。

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