「大好きな人の為に守りたい志」
「ゆいゆい……」
「だから本当はユカリちゃんも手を貸してくれたら良かったんだけどやっぱり止めとく、ハルカとの約束が違うもの」
私達は歩いて数分、とある場所へとやって来た。そこは騎士団の業績やら固有の自分に対する称賛の声や、批判の声もあった。
「懐かしいな、ここに【極悪人を成敗した謎の美女】の記事があったな」
何処か悲観的な表情に私は恐る恐る口に出す。
「もしかしてそれ……ゆいゆいの?」
内容を考えるなら恐らく極悪人が私のお姉ちゃん、でそれを殺したゆいゆいが英雄とことになる。誰も何も知らぬままお姉ちゃんが悪者にされたことになる。ゆいゆいはこの時どう思ったんだろう……大好きな人を犯罪扱いされたまま誰かの陰謀だと知らずに世間体を気にしてしまうのだろうか?
ユイはふっと嗤った。
「誰が書いたか知らないけど私の人生を奪った者全部消し炭にしてあげる。私の復讐はまだ始まったばかりだからね」
その手は何かの目標を捻り潰すかのような怒りと憎悪、復讐心に囚われたユイの姿があった。
「ゆいゆい」
「何?」
私は呼吸を整え静かに口を開く、この言葉は私の世界を変えてしまうかもしれない…だけどゆいゆいは私の為に世界が違う世界にまでやってきて約束を守った、なら私もゆいゆいの為に手助けをしなければ私が許せないんだ。
「私にもなれるのかな戦士に」
一言放った言葉に想定外の反応を見せ、ユイはきょとんとする。
「お姉ちゃんの遺体は見つかってないんでしょ?」
「そうだけど……お姉さんあの後ショックのあまりに気絶しちゃったからね」
「だったら私もゆいゆいを手伝う権利はあるよね?」
「お、お姉さんを!?いいよ別に!無理して頑張らなくても・・・」
ゆいゆいは戦士の職業話を断ろうと首を横に振るも私にも食い下がることは出来ない理由がある。
「だって、お姉ちゃんが死んでるのにゆいゆい一人だけ苦しませるのは妹の私が嫌だよ。ちゃんと埋葬させてあげたいし私にも探す権利はあるよね!?」
「だ、大丈夫よ!お姉さんはいいから……お姉さんは上っ面だけで物を言う子どもは嫌いよ」
「上っ面じゃないよ!私、最近ずっと猫被ってた!!良い子にしないとって!でもそんな隠し事みたいなことをするなんて私間違ってたよ……ゆいゆいがこんなに私の為に必死に生かしてくれるのに私には何も出来ないなんて!」
胸が熱かった、嫌だった。お姉ちゃんを知ってるのにお姉ちゃんが好きなのに本心で判り合えないのが嫌だった。今は施設とは環境も状況も違う、いつまでも閉じ籠って生きていくなんて心機一転の機を逃してしまう。だったら私自身の全てを心に収めて新しい人生を送るんだ。
そうしないともう誰も信用出来ない身体になってしまう。手を伸ばさないと伝わらない、自分から手を伸ばさないと取り合ってくれないことに気付いた。せめて目の前にいるゆいゆいだけは守ってみたい。家族として新しいお姉ちゃんとして私は初めて自分から手を伸ばした。
肩を掴みまじまじとゆいゆいを見つめる。瞳には煌めくルビー色にゆいゆいはたじろいだ。
「でも……でも!」
それでも引き下がらないゆいゆいを逃がすまいと抱き締めた。ゆいゆいの身体は少しひんやりとしている。
「お願い、私……悪い子だけど猫被らないからゆいゆいの傍にいさせて?何でも頑張るなら」
「戦場は地獄よ、血も流れるし骨も砕ける。切り落とされるしグロテスクで……」
「大丈夫だよ、だってお姉ちゃんがいるもん♪血を流すもの折れるのも経験済みだし私はゆいゆいの為なら命だって投げ捨てるよ」
「そんなの子どもが言わないの!軽率な言葉は死を招き入れる、ユカリちゃんは死にたがりなの!?」
初めて怒られた、嬉しいな。私の為に怒ってくれるなんて、羨ましかったあの日が叶ったんだ。
「死にたくないよ、でも怖くない。私は一度死んだような時間があったからね」
「ゆ、ユカリちゃん」
私は無理矢理にでもゆいゆいを説得しようと下手な敬語を使って深々く頭を下げた。
「お願いします、私を妹にしてください。そしてゆいゆいの【本当の家族】になりたいです」
私は初めて本心を伝えた。家族が欲しかったこと、幸せが欲しかったこと。お姉ちゃんと一緒に暮らすこと。何もかもが私の夢だった。私はもう逃げない、嫌な過去はもう存在しない、私は誰かの為に生きるんだ。
ゆいゆいは呆れてしまったのかそれても折れてしまったのか分からなかった。でも一つだけ分かった事はあった。
「お馬鹿さん、どうなっても知らないよ?」
大きな溜息の後、ゆいゆいはきっと失望した。
「えへへ♪傍にいていいの?」
「はぁ……別にいいよ?後で怖じ気づいて止めたいなんて言ったら……」
「言わないよ♪だって私、ゆいゆいのこと大好きだもん♪」
抱き締めるとゆいゆいの心臓がドクンと高鳴りする。バクンバクンと音が鳴り続けている。鼓動が聴こえる、私のも聴こえるのかな?
「も、もう!悪い子なんだから!」
「ゆいゆい心臓バクバクだね♪大好き♪」
ゆいゆいは更に鼓動を高鳴らせ私から離れた。
「好きって言われるのハルカ以来だから……あんまり言わないでね?」
頬が赤く染まり耳まで真っ赤だ、大人とは思えないほど可愛らしい。
「ゆいゆいは言うのに?」
「お姉さんはいいの!何だか動いたから暑くなってきちゃったな~!」
そんなに動いてないのに!?
「本当は観光させよーかなって思ったけど悪い子だから今日はもう帰るよ!!」
「えっ!?酷いよ!」
「知りませーん!べーだ!」
そう言ってゆいゆいは私の手を繋ぎながら元の世界へと戻されてしまった。その時のゆいゆいは温かくて顔が真っ赤だった、その仕草がとても可愛らしかった。