プロローグ
おい、いいのか?あの人色々怪しくないか?
別にいいわよ、これであの危険な子が消えるんですもの。施設に入れた時からヤバかったからこれで施設の一件も帳消しになるといいのだけど……
男女の会話が聴こえる、コツコツと足音を鳴らしながら暗闇の部屋のドアに寄り掛かる。
良かったわね、貴方を迎えてくれる人が見つかったわ!
それはとても甲高く、まるで私にとっとと出てけと言っているような気がした。あの人もあの人も私を・・・私に居場所なんて無い、私は産まれるべきでは無かったんだ。
☆★☆★ 佐創柚駆
私の名前はサクラユカリ、産まれた時から親に捨てられた。でもその時の夜、私を拾ってくれた人が居た。佐倉春佳、その人は私の中で最も尊い存在だと思う人、私の事を愛してくれたたった一人の女の子であり私の姉、決して良い暮らしはしていないが私は幸せだった。
だがそれも束の間、ひょんな出来事により親にバレて大好きなお姉ちゃんと離れ離れになってしまい、今年で多分十六歳、私は棄てられた道中で大人に拾われてこの施設に何年間閉じ込められて・・・後は覚えてない。
無味乾燥の生活の中、牢獄の中私を迎えてくれる人に直接会うことなった。
誰かの話し声が聴こえる、私は部屋を後にして声の聴こえる方へと向かう。暗闇からの久し振りの太陽に目を塞ぐ。人工的な光よりも自然の光の方が温かくて眩しい。
今は恐らく三月、私の服装はワンピース一着で肌寒くて嫌になる。でも何故だが嬉しかった。久し振りの太陽に解放されたような心地の良い風、そして私を拾ってくれる人、どうか優しい人でありますように、そう思いながらキョロキョロ見回すとそこには大嫌いな施設の職員と話す人が居た。
風に靡く淡い桜色の長髪、深淵のような至極色の瞳。大きく張った胸に背中から感じる母性。
白のブラウスに桜柄が散りばめられた桃色のロングスカートとアンサンブルを着込ん所謂美人さんだ。
この人が私を?見た所独身っぽいけど、あっ、こっち来た。
その女性は私を見るなり職員の話を終わらせ私の方へと向かう。たゆんたゆん揺れる胸に困惑して頬が熱くなる。
「君が佐創柚駆ちゃん?」
眩しいくらいの笑顔に朧気な返事をしてしまった。女性は何かを思い詰めるような表情で声を唸らせる。
「ユカリ、ちゃんとこの人の言うことを聞くのよ?」
「この人は優しいお姉さんだからきっと君を幸せにしてくれるぞ」
その言葉にきっと心なんか無い、只のその場しのぎの言葉だ。私は嫌悪感を抱きながらも頷き、女性の方へ歩み寄る。
「それじゃあ行こうか♪」
女性は何かの手続きを済ませるとその手を引いて私を外の世界へと連れ出した。その手は少し強く離さない気持ちが伝わった。
☆★☆★
「ねぇ~ねぇ~お姉さんのこと【ゆいゆい】か【お姉ちゃん】って呼んで~♪」
そんなことがもう一時間前だと言うのにこの人はいつまで喋ってるんだろう?最初はお淑やかだと思ってたのにいざ話すとあらまびっくりテンション高めの明るい天真爛漫な女性でした。
「あの…いつまで話してるの?」
敬語使ったら駄目だし食らってあれやこれやといちゃもんつけられるし服装やら髪やらとずっと叱られてる。私の付け入る言葉の隙間が見つからず取り付く島もない。
「ユカリちゃんがどっちか呼ぶまで!!あっ!あそこにクレープ屋がある!いこいこ!」
また話がぶっ飛んだ。ユイさんは何振り構わずクレープを買って私に渡して来た。
「近くにベンチもあるしそこで話そうか♪」
まだ何も言ってないけど私はあかべこのように頭を動かす。ちょっと疲れて来た。
初めてクレープを食べたその後、私は疲労してしまったのかいつの間にか瞼が閉じていた。何か色んな話をしてたけど眠くて歩くのも久し振りで疲労が溜まりに溜まってそれどころじゃなかった。