ロボトミー
大変だ!
終に個人は、システムに抗う事を、止めてしまった。
前頭連合野と他の脳とを繋ぐ、神経繊維を断ち切って、ココロにICチップを埋め込んで、生成されるよロボトミー。
僕は、執拗なまでに安定を求める母親の勧めで、ロボトミーになった。
工場の一部として働いて、工場の一部として、死んでいく。
そこには退屈なんてありはしない。
ただ、ただ、現実が流れていく。
そこには感動なんてありはしない。
ただ、ただ、機能してるだけ。
朝になると、自然にカラダが目覚めて朝食を取る。
美味しいかどうかは、よく分からない。でも、味は、情報として僕の脳に送られて来る。
これは、甘い味。これは、苦い味。あれは、すっぱくて、あれには水分がない……
でも、そんな事はどうだって良い。僕は、エネルギーと、僕の体の部品を取り入れるだけ。命令があれば、どんなモノだって口に入れる。
(食べる感動なんてない、ロボトミー)
だいたい、ロボトミーは、全てにおいて無気力だ。仕事をやる意欲なんてない。でも、その反対に、仕事をさぼる意欲もない。体が疲れていると感じても、気にとめない。ICチップの命令に従う。逆らう意欲なんてないからだ。
(活きる感動なんてない、ロボトミー)
ベルトコンベアで、流れてくる部品を、次々と組み立てる。工場の部分のロボトミー達は、他にも大勢いて、僕と同じ様に働いている。会話なんて一言もない。無表情で、稼動している。
何も考えない。何も感じない。
今、僕の作っている製品が、一体何に使われる部品で、何に活用されているのか、僕は知らなくて、興味がなかった。
それは、もちろん他のロボトミー達も同じで、だから、僕らは何にも知らずに稼動してる。
ただ、ただ、稼動してる。
(将来への関心なんて、もちろんあるはずもない、ロボトミー)
でも、そんな中で、一人だけ活き活きと作業しているノがいた。
たくさんのロボトミーの中で、ソレはやっぱり異質な存在だったのだけれど、僕らロボトミーには、他者を排除する意欲なんてないから、ソノ存在はつまり結局どうって事なく、意味もなく、僕らにとってただソコに在るというだけの代物だった。
もちろん、ソレも、僕らに危害なんて加えはしない。
そのコも毎日、機能する。
僕らと違って嬉しそうに。
時には、笑ってスキップしたりして。
でも、僕は何にも感じない。それを見ても何にも思わない。だって、僕はロボトミーだから。
そのコは、言う、の。
ワタシは、ワタシの、ツクル商品。
ワタシの、ワタシは、ツクル商品。
ミンナが笑ってくれるカラ。
ミンナが笑ってクレルから。
その子は、イッタ、の。
ワタシは、ミンナが、笑ってくれるから、ワタシは、ワタシの、ツクル商品。
僕が、いつも通り、明日のない今日を見た朝。
目覚めて職場に行った朝。
工場は、いつもと少し違ってた。
でも、そんな事、全然関係ない。
いつもより、流れてくる部品のスピードが、少し遅いの。
でも、そんなこと、全然関係ない。
工場の主任が、僕に言ったの。
生産数が、減少したのさ。だから、仕事が楽になったんだ。嬉しいか? はは、そんな訳はないか。お前らは、ロボトミーだもんな。何にも感じないんだ。
そう、僕はロボトミー。
何にも感じないロボトミー。
気付くと、あのコがいなかった。
廃棄処分のスクラップ。
ゴミ捨て場の中に、カノジョは居た。
主任が言うの。
生産数が減少したんだ。必要以上に、やる気のあるノは邪魔なんだ。元々、コレは、お前らの生産速度を上げる為の、単なる部品だったんだからな。
プログラムで、やる気をインプットされた、単なる部品だったんだからな。
それを聞いても、僕は何も感じない。
だって、僕はロボトミー。
悲しみなんて、感じるはずない。
だって、僕はロボトミー。
悲しみなんて、感じちゃいないさ!
だって、僕はロボトミー…
大変だ!
終に個人は、システムに抗う事を、止めてしまった。
前頭連合野と他の脳とを繋ぐ、神経繊維を断ち切って、ココロにICチップを埋め込んで、生成されるよロボトミー。
大変だ!
抗う事を止めてしまった!
大変だ!
大変だ!