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番外:超越存在は今日も今日とて観測する

他者視点番外編

ただひたすらに白いその空間でソレは顔に喜悦を浮かべていた。

その目が向く先は白いだけの空間に土台もなく浮かぶモニター。

モニターには神獣の腹を鷲掴み、そこに顔をうずめどこかの世界では『猫吸い』と呼ばれていた行為にふける男。


何もない空間の空中に浮かぶ白い靄のような何かは絶えず形を変えながらも全身で愉快だという気持ちを表現していた。


その存在を分かりやすく定義するならば邪神、邪なる心を持ちながら人知を超える力をたやすく操る超越存在。


「あの不良二人の言動に違和感を感じなかったのかなぁ?フッツーに考えればおかしいって分かるはずなんだけど、それだけ彼が人間に期待していなかったってことなのかもしれないね!」


遡ること数日前。


そもそもこの男が死んだのはこの邪神が発端だった。

死んだ人間の魂を他の世界に放り投げてからその終焉までを観測するのが趣味の邪神はある日思ったのだ。


「主人公がワンパターンだとすぐ飽きちゃうなぁ」


邪神が転生させた魂たちの物語ははどれもこれも与えたスキルで無自覚、自覚ありの違いはあれど無双するばかりで代わり映えがしなかった。誰も彼もが最終的には番を得てハッピーエンド、そういう邪神にとっての地雷をここ数回の観測で連続して引いていたためか、ソレは徐々に苛立ちを募らせていた。そうしてついに邪神は吹っ切れる。


他者と関わることで幸せが生まれるのならば、他者を徹底的に厭う人間を送れば自分好みの物語を見せてくれるのではないか。


そう思うが早いか、今までは世界を管理する神にバレない程度に死後の魂をちょろまかすだけだった邪神の手が死ぬ予定がない生者にまで伸びる。今回の物語の主役に据えるにはぴったりの、生まれつきの人間嫌いであった男をすぐに発見した邪神はさっさと彼を殺す(ものがたりをはじめる)ためにちょうど良いとばかりに周りにいた人物の行動を操る。不良は死因を作るため、写真を撮ろうとした女子高生は彼の人間嫌いを悪化させるために。


どちらの干渉でも思い通りの結果を観測することが出来た邪神はホクホクしながら死んだ彼の魂を送り出す前準備とちょっとの暇つぶしを兼ねてその魂を自らの空間に呼び込んだのだが、予想外だったのはその後のことだった。


邪神は転生させる前の魂に必ず一個スキルを譲渡するようにしていた。転生させる世界にもよるが、貧弱な人間は環境の変化に弱く、少しはサポートしてやらないとすぐに死んでしまう。それを邪神はこの趣味を始めたばかりの頃の何度かの失敗でよくよく理解していた。

でもただ分かりやすいチートを上げるのでは面白くないと、邪神はあるランダム要素を追加していた。与えた相手の魂の性根を反映し、それぞれ異なる力に変質するスキルの譲渡。


善なる願いを持つ者にはそれを為せる力を、悪しき性根の者には悪をなせる力とそれにふさわしい末路を。

まるで地獄の審判のようなこの仕様を邪神本神も気に入っていたのだが、今回の男に関してはそれらどちらにも当てはまらない例外であったためか、予想外の結果が引き起こされることになる。


他者を何よりも嫌うが故に「関わりたくない」。好きの反対は無関心。


他者を傷つけることを望むでもなく、救いたいわけでもない、他者との関わりを断絶することを何よりも望んでいた男が得たのは「【他者限定】の空間転移」のスキルだった。


へぇ珍しいなと思いつつも邪神が説明をしようと、異世界に送る前の彼をこの空間に呼び込み話しかけようとするが早いか、男は見た目は人間に見えるであろう邪神に忌避感を抱いたのか無意識のうちにスキルを発動させていた。


しかしそこは腐っても邪神。自分が譲渡したスキルに対しての対策をしていないはずもなく、男の空間転移スキルは対スキルの反射壁に阻まれて邪神に届くことはなかった。が、その反射壁に当たって跳ね返ったスキルは男に向かって飛んで行き、ぱっという音と同時にその場から男の存在は掻き消えた。


唖然とする邪神。


「………スキル譲渡した瞬間に行っちゃうとは流石に予想できなかったかなぁ…」珍しく飄々とした狂言回しじみた態度を崩した邪神は呆れたように呟く。


「今回の主人公くんはなかなか興味深かったから少し話でもしようと思ってたんだけどなぁ。まぁ面白かったからいいけども」

呆れつつも心の底の期待が隠し切れていない邪神はそう言って、気を取り直して男の転移先を見ることに決めたのだった。


そして現在。


目当ての反応を観測し、映像をつなげる。そうして映っていたのは木の幹に頭をぶつけたのか、気絶して倒れている男だった。


思わず爆笑する邪神。


「ふひひ、自分で転移しといて頭ぶつけるとか愚かすぎて笑っちゃうぜ…しかもここに来た事自体まるっと忘れてるみたいだし…僕のことを忘れるなんて不敬も不敬だし、自分を面白半分に転生させた神への恨みつらみを持ちながら苦しみ足掻く転生者君を見る、っていうのも悪くはないけれど、今の状態を見るにこのままでもなかなかに面白そうだ。結果オーライってとこかな?」


明らかに転生させられた側の事情を考慮しない、あくまで自分中心の論理。しかしこの考え方がこの邪神が邪神たる所以なのかもしれなかった。


「彼が何よりも嫌っていた『他人と関わることに嫌悪感を抱かずにいられない性根』が彼が言うところのチート能力につながる鍵になるとは中々な皮肉だけれど、面白いからヨシ!ってことで…それに本人も能力の存在に気づいてないみたいだけど縛りプレイってのもなかなかに僕好みだし、まー多分放置でいいでしょ、知らんけど」


と責任感の欠片もない愉快犯的思考のままににやにやと笑う邪神。


「わざわざあのいけ好かない地球担当神に借りまで作って送ったんだ。」


「これからも君の物語が面白くあり続けることを期待しているよ?」


何もない空間にけたけたと、悪意と期待に満ちた笑い声が響き渡る。


画面に映る(しゅじんこう)の物語を見て。


邪神(どくしゃ)はただ、嗤っていた。


邪神: 人の苦しみを見て楽しさを感じる、邪神としてはごく一般的な感性の持ち主。転生者くんをコンビニでこのポテチを買うか!程度の軽いノリで異世界にぶちこんだ。この後地球担当神くんにボコボコにされた。性別は特になく、僕という一人称もここ数百年使っているだけで愛着があるわけではない。邪神ちゃん君。

いじめられたトラウマ持ちの転生者くんが一番嫌いなタイプの性格をしており、邪神を一目見て彼が能力を発動してしまったのはそのゆがんだ性根がにじみ出ていたことも理由の一つ。

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