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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

神からのギフトを人に与える【神官】、平凡なギフトしか与えることができず無能だと蔑まれ教会を追放されるが教会が信仰していた神様までついて来た〜戻って来いと言われてももう遅い。俺は神様と新宗教を作ります〜

作者: 三氏ゴロウ

連載候補です

「クレイ……君の天職は【剣士】だよ」

「やった! 戦闘職だ! これで騎士団に入れる!」


 俺は神から授かった天啓を元に、クレイという名の少年に与えられた恩恵を口にする。

 クレイ君はそれを聞き、嬉しそうにガッツポーズを取った。


「おめでとう。君のこれからの未来に、幸あらんことを」

「ありがとう、神父様!」


 クレイ君はニッコリと笑う。うん、良い笑顔だ。


「本当に、ありがとうございます。神父様」

「いえいえ。俺は神からの天啓をお伝えしているだけですから」


 クレイ君の母親に頭を下げられ、俺は慌てて顔を上げるように促す。


「じゃね! 神父様!」

「あぁ、立派な騎士になるんだよ」


 大きく手を振るクレイ君に、俺も手を振り返した。



「リョウマ……残念ながら、君に恩恵は与えられなかった」

「……そう、ですか……」


 俺の言葉に、リョウマ君は肩を落とす。

『祝福の儀』は良いことばかりではない。このように、十三歳の子供に無慈悲な宣告をすることもある。


「本当に、すまない……」


 頭を下げる。それしか、俺にできることは無かった。


「な、何で神父様が謝ってるんですか。全部、僕が悪いんです……僕に、才能が無いのが……」


 涙ぐむ声でリョウマ君は肩を震わせる。


「……帰りましょ。ありがとうございました、神父様」

「は……はい」


 悲し気なリョウマ君とその母親の背中を、俺は見ることしかできなかった。

 しかし、止まっている暇はない、『祝福の儀』を受けに来た子供たちはまだ数多くいて、列をなしている。

 今はとにかく……自分の役割を、全うするんだ……。



『祝福の儀』というものがある。

 二日間で行われるそれは、毎年決められた日に行われていた。

 十三歳になった者は例外なくこの儀を受け、その内大体半数が神に選ばれる。

 選ばれた者はどうなるか、簡単に言えば神から恩恵ギフトを与えられるのだ。

 恩恵はそれぞれ『天職』、『異能』、『神器』の三種類。


『天職』を授かればその職業に適した魔法や剣技のようなスキルを習得できるようになり、その『天職』の特性が付与される。

『異能』を授かれば魔法やスキルとは別に自分だけの特殊な力が使えるようになる。

『神器』を授かればその神器に籠められた力を引き出し、それぞれの適した場面で使用することができる。


 ――と言っても、全員が全員恵まれるわけじゃない。


 さっき言ったように選ばれなかった者は祝福を与えられないし、選ばれたとしても三つの恩恵全てを与えられるという話でもない。

 内訳としては選ばれた者の内、五十%が一つ、四十%が二つ、十%が三つの恩恵を与えられる。


 そして、そんな中……俺は【神官】の天職を与えられている。

【神官】の特性は「神託者」。恩恵を与える神と、与えられる人間との仲介役を務める。

 これが『祝福の儀』であり、俺たちのような天職の者がいないと儀式は成立しない。

 そのため俺たちの天職には一定の需要があった。


 俺の名前はカムイ。

 年齢は二十一歳、住んでいる町は「グレンマ」という、特に何の特徴も無いのが特徴の町。

 そこにあるメグレウス教の教会で働き、メグレウス教の崇拝する神に仕える神父だ。


 神から与えられた天職……【神官】として、十三歳になった子供に『祝福の儀』を執り行っていた。

 周辺の村や町で教会がここしかないため、毎年一定数の子供がここに足を運んでいる。

 

 今年も始まったのだ……『祝福の儀』が。



「はぁ……」

「はい、お疲れ!」

「ん、あぁ……ありがとう。ノエル」


『祝福の儀』一日目の終了。

 書斎で陰鬱な気分になっていると、この教会でシスターを務め、修道服を纏う女性、ノエルが机の上にコーヒーの入ったカップを置いてくれた。


 ノエル、十年来の幼馴染である俺と同じで、家名は無い。

 肩の辺りで切り揃えられた綺麗な銀髪と少し吊り上がった目が特徴的。


「まぁた辛気臭い顔してる」

「っ……」

 

 ノエルは結構快活な性格で、幼馴染の俺に対して結構遠慮なく体を近付けてくる。彼女は体の発育も良く、修道服を着ていても分かる素晴らしいプロポーションが俺の体に接触した。

 もうお互い二十代なのだからこういったことは止めてもらいたいのだが。

 しかし、ノエルは俺が少し恥じらっているのを気にする様子も無いので、こちらだけが意識しているのは癪ということで俺は必死に平静を装っている。


「カムイが気に病むことじゃないわ。『祝福の儀』は神に選ばれるかどうか、あなたはその仲介役をしているだけなんだから」

「……別に、そんな理由で落ち込んでるわけじゃないよ。ノエル」

「え? ならどうして」

「……この世界は、神から祝福を与えられた人が上に立ち、与えられなかった人は踏みつけられる。だから、皆祝福が欲しくてたまらない。けど、そうじゃいけないと思うんだ。祝福は、人に提示された可能性の一端に過ぎない。どう生きるか、何をするか……それを決めるのは祝福じゃなくて、その人自身だと、思う」


 祝福の有無はその後の人生を大きく左右する。これは子供でも分かる常識だ。

 けど、それで何か夢を諦めたり、欲しいモノに手を伸ばさないのは、違うと思う。


「ま、言いたいことは分かるわ。けど、それは理想論よ。天職として【剣士】を与えられた人は剣技が圧倒的に上達する。異能や神器を与えられれば、それを使って他者より人生を豊かにできる。輝ける道があるのに、それを選ばないなんて損じゃない」

「そ、それは……そうだけど……」

「カムイだって【神官】の天職を授かって、教会の神父になってるんだから。人のこと言えないでしょう?」

「……」

「それに、それじゃあ選ばれなかった人たちが浮かばれないわ」


 ノエルの言う通りだった。

「どう生きるか、何をするのかは祝福じゃなくて自分自身が決めること」……なんてのは、結局与えられた恩恵で聞き永らえている俺が言っていいことじゃない。

 加えて、与えられた祝福を使わない人生を選択するなんてのは……選ばれなかった人たちに対する侮辱である。


「……そうだな。ごめん、俺がどうかしてた」

「いいのよ、気にしないで。それに優しいのはカムイの美徳だもの。誇りを持って」

「……あぁ」

 

 ノエルの励ましに、俺は小さく頷くことしかできなかった。


「あ、そうだ。司祭様が今夜司祭館に来てって」

「わ、分かった」


 恐らくあのことだろう。そう思いながら、俺は一気にコーヒーを飲み干した。



「突出した恩恵を授かる者が……今年もまだ誰一人として輩出されていないそうだな。カムイ」

「は、はい」


 その日の夜、俺はノエルの言伝に従い、司祭館内の書斎へと足を踏み入れ、司祭であるガープさんと対面していた。


「このままではグレンマを含むここ周辺はますます衰退の一途を辿ることになる」


 祝福として授かる恩恵にも、当然優劣がある。

 与えられるだけでも御の字だと思うのだが、それでは満足しないのが俺たち人間と言うものだ。


 ――話を戻そう。 


 優秀な天職、異能、神器を授かった子供を多く生み出すことはその町、周辺地域の活性化に繋がる。国から莫大な資源や金銭の援助を受けられるからだ。

 また、優秀な恩恵を授かった子供を生み出した土地に引っ越してくる人間は多いため、人口も増えそれに伴い町そのものの発展も見込める。


 そのため【神官】をようする教会は、毎年優秀な恩恵を授かる子供が出てくることを望んでいるのだ。


「も、申し訳ありません」

 

 俺は頭を下げる。が、ガープさんは「はぁ」とため息を吐くだけだ。


「お前の謝罪はもう聞き飽き、見飽きた。そんなことをする暇があるなら、優秀な子供でも見繕ってきたらどうだ」

「……」


 ガープさんの言葉に、俺は何も言い返すことができない。


「ま、だから……新しい【神官】を連れてくることにした。早朝こちらへ来ることになっている」

「……え?」


 あまりにも突飛なガープさんの発言に、俺は一瞬理解が遅れた。


「聞けば、彼は今まで何十人もの『三つ持ち』を輩出した経歴がある。おまけに、その恩恵の内容も非常に優秀なモノだという。加えて、我々と同じくメグレウス教の教徒。引き入れるのには何の問題も無かったよ」


『三つ持ち』とは天職、異能、神器の三つの恩恵を与えられた子供のことだ。

 

「ま、待ってください! 恩恵というのは、我々の崇拝するナナシ様が見定め、与えるものです! 俺たち【神官】は恩恵の数や内容に手出しすることはできません!」

「それは、お前だからじゃないのか? カムイ」

「なっ……!?」

 

 ガープさんの発言に俺は目を見開く。


「同じ天職と言っても、その中での優劣がある。優秀な【神官】ならば、より深く強く……その力を発揮できるはずだ」

「そ、それは……」


 否定できなかった。確かに、同じ天職を持った者でもその中での差異は存在する。


「明日の『祝福の儀』はお前ではなく、新しい【神官】に執り行ってもらう。まぁ……安心しろ。お前には今まで通りメグレウス教の教徒として役割を果たしてもらう。教会内の雑務をな」


 拳を握りしめる。だが、この何とも言えない気持ちの矛先は、何処にも存在しなかった。

 神から与えられた役割を全うしよう、そう思った矢先の出来事である。



「初めまして、今日からこの教会でお世話になります。【神官】のメイス・アレリアです」


 翌朝、俺は司祭の命令で到着した【神官】を案内するよう言い渡された。


「よ、よろしく」

「はい。ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします。先輩」


 俺が手を差し出すと、メイスはその手を掴み、ニコリと笑う。


「え、えーっと、君何歳?」

「俺ですか? 十九歳です」


 変わらぬ調子で答えるメイス。十九歳と言うことは、少なく見積もって教会で働き始めてまだ四年程度ということになる。

 俺は十六歳から働き始め五年間、教会で働いている。メイスが先輩と言うのは間違いではない。


 ――まぁ、その実績には雲泥の差があるのだが。


「と、とりあえず案内するよ。さ、こっち」

「はい」



「よし、こんな所かな。後分からない場所があったらその都度聞いてくれれば教えるから」

「ありがとうございます」


 敷地内の建物や、それぞれの役割を説明し、約三十分が経過した。

 

「あ、カムイ!」

「ん?」


 すると、俺たちの元にそんな声が届く。声の主はノエルだった。


「ノエル。水浴び終わったのか?」

「うん」


 メグレウス教のシスターは早朝水浴びをする決まりがある。水分を含んだ髪の毛先を指でいじるノエルを見て、俺は彼女の水浴びが終わったばかりだと判断した。


「そちらは?」

「初めまして、今日からこの教会で【神官】として働かせていただきます。メイス・アレリアです」

「そう。シスターのノエル、よろしく!」

「はい」


 何だろうか、それは俺に挨拶をした時よりもやけに好意的な印象を受ける。


「えーっと、それでさノエル」

「ん?」


 できればあまり言いたくないのだが、いずれ分かること。隠しても仕方が無いため俺は自分の重くなった口を開いた。


「今日の『祝福の儀』はこのメイスが執り行うから」

「え……?」


 俺の言葉に、ノエルは一瞬体を硬直させる。


「ど、どういうこと? それじゃあ……カムイは」

「べ、別に教会を追われるとかそんなことは無いよ。ただ【神官】としての仕事をメイスがやるってだけで」

 

 ノエルの言葉を先読みし、俺は彼女を安心させる。が、ノエルの表情はどこか優れなかった。


「安心して下さいノエルさん。カムイさんに代わって、この俺がしっかりと『祝福の儀』を行ってみせますから」

「……そう」


 何やら気まずい雰囲気だ。


「ま、まぁ! ってことでさ。『祝福の儀』は二時間後からだから、よろしくねメイス」

「はい、任せてください」


◇ 


 二時間後、予定通りに『祝福の儀』二日目が開始された。

 今日も多くの子供たちが教会の敷地内にある聖堂へと足を運んでいる。昨日も使用した『祝福の儀』を行う場所だ。

 俺やノエルといった教徒たちもその場に集まり、ことの成り行きを見守っている。


「……」


 聖堂の中央にある祭壇にメイスが立ち、そこに一人ずつ子供が入っていく。

 メイスは無言で両の手を握るように合わせ、目を閉じた。

【神官】の天職を持つ者の特性、「神託者」を発動させるために必要な作法である。

 

これには他にも条件があり、今言った動作を行う他に、【神官】はある程度名のある宗教に所属している必要がある。

 というのも「神託者」を発動させるにはその神を信じるための信仰力というものが必要なのだ。

 そのためどこの宗教にも入っていない【神官】が勝手に『祝福の儀』を執り行うことはできないのである。

 そしてももう一つ、聖堂と祭壇の存在。これは神聖な力を集約させるために必要なモノでありこの土台が無くても『祝福の儀』はできない。


 ちなみにだが、俺は儀式を始める前にその子の名前を聞く。これは本来であれば必要の無い過程なのだが、自分が関わった子の名前は、覚えていようという俺なりの決め事だ。


「……」


 メイスが祈ること数十秒、すると彼とそこにいた少年の間に眩い光が発せられる。それは神に選ばれ、子供が何かしらの祝福を授けられることを示していた。

 更に、眩い光は子供までもを包み込む。

 そうして数秒後、光は消え、その場には先ほどまで存在していなかった槍があった。


「『神器』、【火柱の長槍】。そして『天職』、【槍使い】。それがあなたが神によって授けられた恩恵です」 

「おぉ!! こ、これが俺の……!!」


 少年は出現した槍を握りしめ、体を震わせる。無理もない、二つの恩恵……『二つ持ち』。これからの彼の人生はバラ色だろう。


「素晴らしい! 素晴らしいぞメイス!!」

「いえいえ、これくらい当然ですよ」


 昨日はいなかったが、新しい【神官】の働きを見たいということで、この場に同席していたガープさんはメイスに対し賛辞を贈る。

 ――なんというか、俺がいたたまれない。


 その後も『祝福の儀』は滞りなく進んだ。

 結果だけ言おう。メイスは【神官】としてとてつもなく有能だった。


 今日メイスが担当した子供たちの中で祝福を授けられなかった子供は数人もいない。そして恩恵を授けられた子供たちのほとんどは、二つの恩恵を授けられた。

 つまり……ぐうの音も出ない程に、彼は俺よりも【神官】としての適性や才能があるということだろう。


「では、最後の一人ですね」


 最後の五人は孤児院に子供たち。四人は儀式が終わり、残るは後一人となった。

 

「……」


 少女の足取りは、見た所重かった。あまり儀式に乗り気ではないのだろうか。


「それでは」


 メイスは今までと同様に、目を瞑り握るように手を合わせる。そして数秒後、光が照らされ、少女を包み込んだ。

 少女は神に選ばれた。


◆◆◆


 そして、彼女の目の前には一本の剣が刺さっていた。


「っ!? な、な……!」

「ど、どうしたメイス!!」


 今までにないメイスの狼狽っぷりにガープさんが駆け寄る。


「い、いやこれは……! こ、こんなことが……!!」

「一体どうしたんだ!」


 宥めるガープさんにメイスは一呼吸、プルプルと目の前にいた少女と剣を差し、言った。


「こ、この子の天職は【勇者】!! 加えて、武器は【エクスカリバー】!! さらに、詳細は僕も分かりませんが、異能も授けられています!!」

『っ!?』


 メイスの衝撃の報告に、俺たちは当然衝撃を受けた。

 

 ――【勇者】、それはこれまで存在が確認されている中で一番強い天職だとされている。

 加えて、【勇者】の天職を持つ者は複数人存在せず、その者が死なない限り次の【勇者】の天職を授けられる者は現れないと言われているほどに、その希少価値は高い。

 更に【エクスカリバー】、これはかつての【勇者】が使用していた伝説の神器の名だ。

 

「え、えと……」


 動揺と興奮を併発しているメイスやガープさんに対し、凄まじい『三つ持ち』となった少女は困惑気味に、おろおろしていた。


「君!! 名前は……!?」


 ガープさんは興奮した様子で少女に名前を問う。


「ミ、ミラ……です、けど」

「ミラ君だね!! 君のような優秀な子供が現れて、私は大変嬉しいよ!!」

「は、はぁ……?」

「これから君は【勇者】として、その力を発揮するんだ!! おめでとう!!」

「……え?」


 ガープさんの言葉に、ミラと名乗った少女は体をピクリと止めた。


「ど、どういうこと……ですか?」

「どうって……決まっているだろう! 君は選ばれたんだ! 選ばれたのなら、その責務を全うしなくてはならない!! それこそが義務であり、我々人類にとっての至上の喜びなのだから!! 君はこれから騎士になり、国の繁栄のために生涯を懸けるのだ!!」

「……」


 ミラに迫るように顔を近付けるガープさん。そこには隠し切れない必死さと、それに伴う形相が存在する。

 けど、ガープさんがこうなるのも無理はない。

 この教会で、ここまで優れた恩恵を授かった子供はかつていない。彼女を王都へと渡せば、国からこの地域周辺に援助をしてもらえるのだ。


 そして、あの少女も恵まれた人生を謳歌できる。

 双方共にメリットしかない。


 ――と、そんなことを俺は考えていた。

 だが、次の瞬間……全く以て予想だにしていない事態が発生した。


「あ、あの……い、いや……です」

『……』


 ……え?


「ん……? す、すまない。聞き間違えかな? 今……」


 ガープさんの言う通り、俺も一瞬耳を疑った。だが、聞き間違えようがない。今、あの少女は確かに言った。


「い、いやです。わ、私……戦いたく、ありません」

『……』


 聞き間違いではない。少女は、【勇者】を含めた優れた恩恵を三つ授かりながら……確定した輝く人生を、拒絶したのだ。


「な、ななななな何を言っているんだ!!」

「きゃっ!?」

 

 ガープさんは信じられないと言った表情でミラの両肩を掴んだ。


「君は【勇者】として!! 騎士になる!! これは確定事項だ!! もう君の人生は、決まったんだよ!!」

「わ、私は……大人になったら、孤児院で……働きたいです……。お父さんも、お母さんもいない私に、居場所をくれた孤児院の先生みたいに……なりたいんです……!」

「ワケの分からないことを……!! メイス君、君からも何か言ってやれ!」

「……ミラさん。あなたはこの世界で最も力のある人間として、選ばれたんです。あなたがそれを拒否しても、世界がそれを良しとしない。あなたには、世界のためにその力を振るう義務があるんです」

「……」


 が、少女はやはり乗り気ではない。 

 安泰な将来が確定しているにも関わらず、彼女はそれを捨て、自分のやりたいことをやろうとしているのだ。


 っ……。


 そして、俺の視界に入る、ガープさんを怖がり、嫌がる少女の姿。


「あ、あの!」


 ――気付けば、体が動いていた。


 ……待て。何をしようとしてるんだ、俺。


 ガープさんやその他の教徒たちが俺の声に反応する。


 止めろ、止めろ止めろ! 昨日決めたばかりだろ。恩恵を授かった子供は、ソレに即した人生を歩むのが一番なんだ。だから……!!


 しかし、そう思いながら……俺のした行動は、真逆。


「すみません!」

「ちょっ、カムイ!?」


 足を前に動かし、祭壇へと向かう俺に、ノエルが目を見開く。そんな彼女を横目に、俺は歩みを続ける。


「ん? 何だ、カムイ」


 訝し気な目で、ガープさんは俺を見る。その圧に一瞬のまれそうになりながらも、俺はゴクリと唾を飲み込み、そして口を開いた。


「その子は、孤児院の先生になりたいと言っています。いくら彼女が【勇者】だからって、彼女にそれを強いるのは……」

『……』


 俺がそう言った瞬間、周囲から鋭い視線が向けられる。

 それは、聖堂内にいる……俺と同じメグレウス教の教徒たちのモノだ。


「お前、何を言っている……?」

「な、何って……ぐぁ!?」


 ガープさんの拳が、俺の頬に直撃する。その衝撃に耐えられず、俺は床に膝をついた。


「ふざけたことを抜かすな!! 神はあの少女に超常の恩恵を授けた。おまえの言っていることは、神の判断に背こうとする侮辱……!! 背徳行為だ!!」

「ち、ちが……俺はただ……!!」

「はは、分かったぞ。カムイ、貴様自分が『祝福の儀』の任を外された腹いせにこの凶行に及んだのだろう!! 担当が自分じゃなくなった途端【勇者】の天職を持つ子供が現れた。お前としては面白くない、彼女の存在を隠そうとするその行動にも辻褄が合う!!」

「そんな……!! 違う、そうじゃない!!」


 必死で弁明をしようとするが、そこに理論的な釈明の余地はない。今の状況を考えれば、この場にいる誰しもが俺の行動に対し、ガープさんと同じ考えを持つだろう。


「おいお前たち!! この愚者に罰を!!」


 司祭の言葉に従うように、他の教徒たちが俺に接近する。そして、


「ごはぁ……!」

 

 彼らは俺に暴行《罰》を与え始めた。

 頭部を殴り、腹を蹴り、腕や足を周囲にあった装飾品で叩きつけた。


『粛清!! 粛清!! 粛清!!』

「がぁ!! うぅ……!! ぁああ!!!」


 ――痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。


 体から血が流れ、それは祭壇へ滴り落ちる。体に力が入らない。


「や、止めて!! カムイが死んじゃう!!」

「ノエルさん!」

「メイス!? 何をしてるの離しなさい! このままじゃカムイが……!!」

「今近付くのは危険です。それに、あれを止めようとすれば、あなたも粛清対象になる」

「っ!?」


 近くで、ノエルを制止するメイスの声が聞こえる。

 

 ありがとう、メイス。ノエルを巻き込まないように……考えてくれて、……っ。


 激痛はまだ続く。


 あぁ……ごめん。


 歪んだ視界の中、俺はミラを見る。彼女は酷く委縮するように俺の方を見ていた。

 

 ごめん、ごめんね……俺が、弱いから。君を、助けられない。君の意思を、通させてあげられない。


 募るのは、無力感。【神官】として神の声を聞き入れるだけの俺では、この状況を好転させることは不可能。


 くそ……、くそぉ……!!


 涙が出てくる。痛みからではなく、悔しさからくる水滴が俺の頬を流れる。何もできない罪悪感が、俺の体を震わせる。

 

 ――大丈夫?


 ……ぁ?


 何だ、声が……聞こえる。誰の、声だ……? 一体、誰の……。


 ――私、あなたを見てた。あなた、とっても優しい人。


 優、しい……はは。悪いけど、それだけじゃ……この世界、どうしようもないんだよ。


 ――うん、分かってる。だから、私を、あなたにあげる……。


 ……は……? 一体、何を……。


 ――私、あなたが気に入った。だから、見てみたい。あなたが、これから何を為していくのか。

 ――これは契約……私は力を、あなたは新しい世界を。


 い、意味が……分からない……。それに、君は……そもそも誰……っ。


 そう思った瞬間、俺の頭に鈍い音が走る。


「カムイ、今日を以て……お前をメグレウス教から追放する」


 ガープさんの言葉を耳にして、俺の意識はそこで途絶えた。



「ん……ぅ」


 背中に伝う振動で、俺は目を覚ます。


「こ、こは…‥?」


 周囲を見る。鼻腔を突く匂い、ガタガタと揺れる空間。それはここが馬車の中であることを明確に示していた。


「って、は……?」


 次いで、俺はもう一つの違和感に直面する。それは首に鉄の首輪が、足に鉄枷が装着されていたことだ。

 これではまるで奴隷である。


「よぉ、目覚めたか?」


 すると、俺は一人の人影に気付く。それは二十代後半に見える男性だ。彼は鎧を着ていた。

 その情報から、その男が騎士だと認識する。


「……あ、あのすみません。状況が、よく分からないんですが…?」


 恐る恐る、俺は騎士の男に言葉を発した。


「ん? あぁ、お前は二日間ずっと寝ていたらな」

「……え?」


 聞かされた驚きの事実に、俺は唖然とする。が、そんな俺を無視して、騎士の男は更に言葉を続けた。


「簡単に言えば、お前はこれから奴隷として働くんだ」

「なっ……!?」

「お前が入っていた教会の司祭から連絡があってな。俺はお前を奴隷として引き取りに来た騎士というわけだ」


 放ち続けられる怒涛の情報量に、俺の脳は汚染される。


「それにしても、驚いたぞその回復力。二日前見た時は生きているのか死んでいるのか分からなかったが、まさかこの短い日数でそこまで回復するとはな」

「え……」


 言われて、俺は気付く。あの時、俺は教徒のほぼ全員から暴力を受けていた。思い出したくもないが、体中から出血し、骨折や打撲で体中が腫れるような事態に見舞われた……はずだ。


 だが、今はどうだろう。体は所々痛むが、それでも動けないほどではない。傷跡や殴られた跡は所々残ってはいるが、これだけで済んでいるのはどう考えても異常な事態であった。


 な、何だ……一体どうなってる? ていうか、これから奴隷として働くって……。


 止まらない情報の波、目覚めたばかりの俺では処理し切れないものである。


 ――その時だった。


「え……?」


 俺は気付く。俺の目の前に、深紅の髪を持つ少女が体育座りでこちらを見ているのを。

 彼女は俺のように拘束具を付けられておらず、騎士は彼女の方を一瞥もしていない。


「あ、あの……」

「ん、何だ?」

「そ、その子は……」


 そう尋ね、俺はその少女を指差した。騎士の男は少女の方を見る。しかし、


「あ? 誰もいないぞ」

「は……?」


 その返答に、俺はポカンと口を開けた。


「い、いやいやいや! いるでしょ! ほらそこに!!」

「あぁ? ったく、どうやら後遺症かなんかで幻覚でも見るようになっちまったのか」

「幻覚!? そんなバカな……!」

「バカはお前だ!! 子供なんて、この荷台には乗ってねぇ!」

「っ!?」


 語調を強くし、はっきりと告げられ、俺は嫌でも思い知らされる。

 どうやらあの子は俺にしか見えていない、と。


『……』


 俺が騎士の男とやり取りをしていると、少女はおもむろに立ち上がりこちらへ歩いてきた。


「ほ、ほら!! ここに!!」

「だからいねぇって!!」


 やはり無意味。目の前の少女は、俺しか認識していない。


 一体何だ、何なんだこの子は……。


 こちらへ近づいた少女は、涼し気な目でこちらを見ながら、無表情で言った。


『私、ナナシ。神様』

「……へ?」


 か、神様……?


 ナナシ、それは俺たちメグレウス教が信仰する神の名前。

 そして目の前の少女の発言を、俺は当然の如く虚言と考える。


『その顔、信じてない』

「え、いや……まぁそうだね」


 子供と言うこともあり、俺は一周回って冷静に返答することができた。


『じゃあ、これなら?』

 

 少女はそう言った瞬間、その場で浮遊した。しかもそれだけではない、その状態で飛行し、荷台をすり抜けた。


「え、え……」

 

 あまりに異常な光景に、俺の目は点になる。

 再び荷台をすり抜けこちらへ戻り、浮遊を止めた少女。そんな彼女は相も変わらぬ無表情のまま、言った。


『これからよろしく、カムイ』

「ええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 驚愕する俺の声が、周囲に響き渡った。

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