58.『幸運の聖水』
世界転移をしたパーフェクトガール、北大路ナミことナヴィ。
職業『村人A』
仕事『駆け出し冒険者に、最初のダンジョンの情報を与える』のみ。
『村人』→『ガイド』→『上級ガイド』へとクラスアップしたナヴィ。
デニス、テリウスとの一件があり、ナヴィは仕事を辞め心を閉ざしてしまった。
ナヴィを元気付けようと『幸運の聖水』を求めエンフィーとコイルの冒険はクライマックスへ!
倒れたコイルとエンフィーが目の前に……。
「エンフィー!」
ナヴィはボロボロの状態で倒れていた二人の元に駆け寄った。
「待ってナヴィ、まだもしかしたらボスがいるかも!」
そのハンナの声はナヴィには届かなかった。
「くそっ、絶対どこかに隠れてるのに!」
ハンナは目を瞑り感覚を研ぎ澄まし、モンスターの気配を感じ取ろうとしていた。
どこだ、どこだ……。
そんな……。
「……いない?」
そんなはずはない。だってエンフィー達がやられてるんだよ? きっと何かの奇襲の類が……。
「エンフィー、あたしよ! 大丈夫!? コイル様!」
<ホーリーヒール!>
ナヴィは回復魔法を掛けるも二人の傷は深く中々目を覚まさない。
「なんでよ……なんでよ……目を覚ましてよ!」
魔力をさらに高め全ての魔力を注ぎ込んだ。
「二人に近づいたナヴィに何も襲ってこない。僕の感覚がおかしいのか……? 全然出てこないじゃないか」
ハンナも警戒しながらエンフィーたちの元へ駆け寄った。
「ハンナ、二人が……」
ナヴィは目に涙を浮かべながらハンナの方を向いた。
「落ち着いてナヴィ。君の回復魔法でかすかだけど呼吸は戻ってるし魔力も感じる。少し安静にしておけば大丈夫だよ」
「あ、本当だ。顔色もさっきよりも良くなってるかも……よかったぁ」
「ね。ふぅ。」
ハンナは大きく息ついた。
まったく、こういう時の君は本当にもろいんだから。まぁそれが良さでもあるんだけどね。
「あ、ハンナ、そういえばさっきあたしを呼んだかしら?」
「あ、あぁ。そのことなんだけど」
「お、おねえちゃ……ん?」
ハンナが話し始めようとした瞬間、エンフィーの目がゆっくりと開いた。
「え、エンフィー! 大丈夫!?」
「うん。来てくれたんだね。ありがとう。ごめんねこんな時に」
「ううん。あなたとコイル様のおかげよ」
続けてコイルも目を覚ます。
「あれ、僕は……。あ、ナヴィさん! がはっ」
起き上がろうとするコイルをすかさずハンナが止めた。
「コイル君、まだ君は体を起こしちゃだめだよ。エンフィーよりも君の傷の方が深い」
「す、すみません。ありがとうございます」
「それで目が覚めたところ申し訳ないんだけど、二人とも。リヴァイアサンはどうしたんだい? どこに行ったの?」
ハンナが尋ねると、エンフィーとコイルは一度二人で向き合い、くすくすと笑いあった。
「「……?」」
ナヴィとハンナは首を傾げた。
「お姉ちゃん、手を出して」
「え?」
「はいこれ! お姉ちゃんが外に出れた記念!」
エンフィーは上半身を起こし、いつもの笑顔でナヴィの手のひらに小瓶を乗せた。
「これ、すごく綺麗……」
中には様々な宝石が散りばめられており、その宝石を漬け込むようにピンク色の水が入っていた。
「エンフィーこの小瓶ってまさか……」
「うん! それが『幸運の聖水』だよ」
「え、まじ!?」
ハンナの驚きの声がコイルの耳に響く。
「ハンナさん……耳が痛いです」
「あぁコイル君ごめんね! 待って、ということは本当に二人で倒したのかい? あの『海龍リヴァイアサン』を……」
「はい。エンフィーさんのサポートで何とか倒すことができました。見ての通り倒したはいいものの、もう一歩も動けないほどダメージを負ってしまいましたが」
僕の予想通り胸のタトゥーはやっぱり二つ……まさかそれで本当に倒してしまうなんて。末恐ろしいなこの子。
「いや僕からしたら倒すだけでもすごいよほんと」
二人の会話を聞きながらナヴィはエンフィーから受け取った『幸運の聖水』を子供の様にきらきらと目を輝かせながら見ていた。
「本当に綺麗。いつまででも見てられそう。ありがとうねエンフィー」
その姿を見たエンフィーは自然と涙が溢れ出てきていた。
「え、エンフィー?」
「あ、うん。何でもない。良かった。本当に良かった」
何度も涙を手でふき取るエンフィーをナヴィはぎゅっと抱きしめた。
「お姉ちゃん……」
「たくさん心配かけちゃったね。エンフィー、これからもあたしと一緒にいてくれるかな?」
エンフィーはナヴィの顔を見上げ最高の笑顔で答えた。
「もちろん!」
「うん。あ、コイル様」
「は、はい、ナヴィさん」
「妹を守っていただいて本当にありがとうございました。そして私の立ち上がるきっかけをくれたのもコイル様です。何とお礼を申せばいいのか……」
「僕はもう二人の笑顔が見れただけで大丈夫です」
「え、それでは申し訳ないです!」
「んー。そしたら一つだけ!」
「はい! 何でもおっしゃってください!」
「また僕の冒険に同行してもらえますか?」
ナヴィは数秒ぽかんと口を開けた。そしてそれがすぐに微笑みに変わりはっきりと答えた。
「はい! もちろんです!」
コイルの頬がほんのりと赤色に染まった。
「よーしじゃあ帰るよ! みんな僕についてきて!」
「ちょっとハンナ、なんであんたが仕切るのよ!」
「いーじゃん別に誰でも、あ、エンフィー僕たち来るときカエル何匹か見逃してきたから離れないでね」
「ひ、もういやぁ」
「エンフィーさん、だめですよさっきみたいに勝手に逃げたら」
「勘弁してくださぁい!」
こうして四人はダンジョンでのことや、ナヴィの引きこもりの話で盛り上がりながらゆっくりと村へ帰っていった。
とある日の昼下がり。
「ナヴィちゃん。今日もありがとう!」
「はーい、またお願いしますね! 寒いのでお身体に気をつけて!」
「あぁ、ではまた」
ナヴィは同行した冒険者に笑顔で手を振り見送った。
あれから数か月ほどが経ちました。
私、エンフィーとお姉ちゃんのナヴィのお店もすっかりと元に戻り、昔以上にお店は繁盛していました。
ただ、一つ疑問があります。
「ねぇお姉ちゃん、いつになったらあの『幸運の聖水』飲んでくれるの?」
カウンターからでは手の届かないところに飾っている『幸運の聖水』を指さした。
「あ、もしかしてエンフィー知らないの?」
「え、だってこれ飲むものなんでしょ?」
エンフィーが首を傾げた。
「それはこの聖水の効果の一つでしかないの」
……え? そうだったっけ、調べたときには一つしかなかったけど。
「ふふ。この聖水を飲んだらその人の運気は必ず上昇するのは知ってるよね。でもね、もう一つあって……」
「もう一つ……?」
「こうやって置いておくと、この店くらいの範囲にいる人の運気をちょっとずつ上昇させてくれるのよ」
「そ、そんな効果が……でも私お姉ちゃんに飲んでほしくてコイル様と……」
「うん。もちろんその気持ちは分かってる」
「でも、今のあたしがあるのはエンフィーにコイル様、ハンナ、そしてここに来る全ての冒険者様がいてくれたからなの。あたしは今のそんな環境がもうすでにとっても幸せなのよ」
ナヴィの温かい声とその言葉にエンフィーは顔が赤くなり、ナヴィから目を逸らしてしまう。
「う、嬉しいけどさー」
「だからこの『幸運の聖水』で少しずつ皆にも幸せが届けばなって!」
「お姉ちゃん……」
もう本当に素敵なお姉ちゃんだ……。
そんな会話をしていると、玄関から一人中年の小太りの男が入ってきた。
「すみませーん」
「いらっしゃいませ、どちら様ですか?」
「お姉ちゃんあの格好多分冒険者じゃない、それになんか嫌なオーラが」
カウンターに置いていた杖を構えるエンフィー。
「待ってエンフィー落ち着いて。まずは話を聞きましょう。見たところ武器は所持していないみたいだし。格好からするに王都の方よ」
「言われてみれば……お金持ちって格好だけど」
「ふふふ。流石噂通りの洞察力ですね。『上級ガイド ナヴィ・マクレガン』さん」
「……!? なんで私の名前を?」
「それは王都でもあなたが実力のある案内人だと名が知れ渡ってるからですよ」
「あ、申し遅れました。わたくし『王都 案内人育成委員会取締役 ブレビンス・ゴードン』でございます」
「え! あの王都の案内人全てを取り仕切ってるブレビンス様!?」
「ははは。あんまり驚かないでください」
「それで、お姉ちゃんに何の用ですか?」
警戒心を解いていないエンフィーは杖を持つ手により一層力が入った。
「そんなに深い意味はありませんが……単刀直入に言います」
「な、なんでしょう」
ナヴィは唾を飲みこんだ。
ブレビンスはそれまでの穏やかな表情から一変し、真剣な表情になった。
「王都のために近々このお店を辞めていただきます」
「「は……」」
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第六章 十三話 いかがだったでしょうか。
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