異世界ヒモ戦記 俺は魔王の前まで行ってもヒモを貫く
ときにはさらっと短編です。
清々しいほどにヒモです。
俺の名はガープ。
クラスは女勇者のヒモだ。
女勇者の名はレティシア。
世界最強と言われ、やがて魔王を倒すと言われている女だ。
俺はこいつについてまわって、世界を旅している。
レティシアは強い。
魔法は超一流。
剣も超一流。
さらには魔法剣というオリジナルの技まで使う。
俺が今まで見てきた女勇者の中で最強だろう。
「たあーっ!! ドラグーン・ストライク!!」
『ウギャアーッ!! お、おのれ勇者レティシア! だが俺は魔王直属四天王最弱! 次の四天王がきっとお前を……!!』
「消えなさい、鉄腕のデビルホーン! えーいっ!!」
『ウグアアアーッ! 魔王軍に栄光あれーっ!』
おっ、噂をすれば、魔王軍四天王の一人を倒したようだな。
彼女は返り血と煤にまみれて戻ってきた。
「おう、お疲れー。おかげでおれは無事だよ」
すると、鬼気迫る雰囲気だったレティシアが嬉しそうに微笑む。
「良かった……! ガープに何かあったら大変だもの。私、必死に戦ったわ!」
「うんうん、お疲れお疲れ。じゃあ帰ろっか」
「うん! たくさん報奨金がもらえると思うから、たくさん美味しいもの食べさせてあげるね!」
「そりゃあ楽しみだなあー」
俺はレティシアと二人で、魔王軍四天王、鉄腕のデビルホーンという鬼の姿をした奴と戦ったのである。
正確には、戦ったのはレティシア一人。
俺は見てた。
だってヒモだもの。
ヒモは戦ったりする役割を求められてはいないんだぞ。
戻ってくると、国を上げての大歓待だ。
一つの王国を滅ぼす程の力を持った四天王だった。
あいつ、四天王最弱とか嘘だろ。
やられて悔しいからそういう事言ったんだな。
そして、王宮に招かれ、王から直々にお褒めの言葉をなんかもらったりして、金もたんまりもらった。
金の管理はレティシアだ。
そして俺達は王国で一番の酒場に行き、たらふく美味い飯と酒を食らった。
「ふう、食った食った。もう食えないや」
「ガープ、大丈夫? 食べすぎてない? 気持ち悪くない?」
「大丈夫だよー。いやあ、美味かったなあ。レティシアも美味かっただろ?」
「うん、美味しかった!」
彼女が幸せそうに微笑む。
そして、することをしたら就寝だ。
俺のヒモとしての一日がまた終わる。
今日は危なかった。
思わず仕事をしてしまうところだった。
プロのヒモはヒモに徹さねばならない。
ヒモとは、何もしてはならないのだ。
何もせず、ただ自分がそこにいるだけで十二分な役割を果たしている……的な雰囲気を醸し出さねばならない。
俺はベランダに出て、夜風に当たってまったりした。
すると、下の方で睨んでいる男がいる。
あいつは確か、騎士団長のバルバラだ。
レティシアに横恋慕していたやつだな。
だが、あいつは妻子持ちなのでそもそもレティシアとくっつけない。
あ、妾にしようと狙ってんのか。
呼ばれたようだから俺は降りていった。
「貴様!! この穀潰しが!!」
バルバラがいきなり殴りかかってきた。
俺はこれを、後ろに下がって軽くいなす。
「なんという体捌き! それだけの力がありながら、どうして貴様はレティシアを守らん! 何もせんのだ!」
「あの女は最強の勇者だぞ? 多少使える程度で手助けになるものかよ。それよりも、あいつに必要なのは俺みたいなやつなんだよ」
「どうして穀潰しが必要なんだ!」
「俺があいつを見つけた時、あいつはクッソ危険な任務を王から言い渡されていて、誰もパーティを組んでくれなかったんだよ。最強の女勇者って言ったってまあ女の子だ。一人ぼっちは寂しいわな」
俺は思い出す。
二人の出会いを。
『よう、あんた最強の女勇者なんだろ? イカスじゃん』
『君、私と一緒にいると死ぬよ。だってとても危険な任務に行くんだもの。だから誰もパーティなんか組みたくないって』
『だったら俺がパーティになってやるよ』
『正気!? 死ぬかもしれないのに!』
『あんたが俺を死なないように守ってくれれば、ずっとパーティを組んでいられるだろ?』
これが殺し文句だった。
俺は個人的なスタンスから、絶対に働かないことを決めている。
働かないためなら、魔王軍との戦いの最前線に赴いてもいい。
だから、俺はレティシアの仲間になってから、ほぼ働かなかった。
ごくたまーに、野営の時に晩飯を作ってやったりした。
するとレティシアは涙目になって喜ぶのだ。
ごくたまに働くから、それが感謝される。
基本的に労働をせず生きていくためには必要な知恵だ。
「クズめ……!!」
「妻子がいるのに別の若い女狙ってるあんたも同類だろ」
「俺は違う! 俺には甲斐性がある!」
「家庭一つに満足できねえ男にはそんなもんねえよ。つーか、レティシアはお前みたいなのはお呼びじゃない。あれが家庭に収まるタマか? だがな、そんな傑物でも承認欲求やらは絶対ある。誰かが一緒にいて、よくやったなあ、とか、お疲れとか言ってやるんだよ。それが俺だ」
「そんなことは誰にでも……」
「できないね。絶対に働いちまう。中途半端で、レティシアの足元にも及ばない程度の力で働いちまう。下手に動けば、あいつとの冒険じゃたちまち死ぬ。死んだらあいつは自分を責めるだろう。それか、死ななくても役に立たない。役に立たなかった奴が申し訳無さそうにしたら、それはレティシアに刺さるんだよ。優秀すぎるってのは孤独だわな」
「な……なにを……。貴様、そこまで考えて……」
「勇者のヒモはな、並大抵の男にゃ無理なんだよ。分かったか、凡庸な騎士団長さん」
俺は奴の肩を叩くと、宿に戻った。
最後まで、バルバラはずっと俺の背中を見ていた。
翌朝。
レティシアは爽やかに目覚めた。
俺は久々に、宿の厨房を借りてあいつに茶を淹れてやった。
「ありがとう、ガープ! お茶、とっても美味しい」
「そりゃどうも。で、次はどこいくの」
「うん。あのね、四天王の残りが新たに動き出したみたい。多分、魔王軍が本格的に決戦を挑んでくると思うわ。だから私達はこれを食い止めなくちゃいけない」
「俺とお前でな」
「うん! 私、ガープがいたらどんなことだってできるわ! また、ついてきてくれる?」
レティシアが不安そうに、俺を見つめた。
瞳が揺れている。
俺はそれを笑い飛ばす。
「俺はレティシアを信じてるからな。そら、飯を食ったら行くぞ。馬の手配とかしてくれよ?」
「うん! もちろん!」
俺は一番高い朝飯を頼むと、それをまったりと食った。
こうして戦いは続くだろう。
いつか、この女勇者が魔王の元に辿り着く時まで。
つまりは俺も、その時まではヒモをしていられるって訳だ。
やれやれ、働かないのも楽じゃない。