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一話目:能無しのナイン

【荒野の町:ホクストン】


「やーい!能無し!能無し!」


 日課の素振りをしていると、少し離れたところからジョージ達が僕をバカにするように大きな声をあげていた。

 僕はそれを横目で見たあと、また素振りに戻った。能無しというのは魔法を使うことができない人を指す言葉だ。

 その言葉通り、僕は魔法を使うことができない。

 だからこそこうやって体を鍛えているのだが、それでも他の同年代の人達と比べると一回り身体が小さい。


「おい、無視するなよ捨て子」


 僕が鍛錬していることが気に入らないのか、今度はこっちに近づいてきた。

 ちなみに僕はみなしごであって、捨て子じゃない。

 僕の本当の両親は海で死んだ。

 エウロパ皇国からこの大陸にくる船の中で…それを不憫に思ったナイツ家の人が僕を引き取ったのだ。


 ナイツ家、開拓団初期の頃から治安維持などに従事していた家であり、この町で治安維持を行っている【レンジャー】を取りまとめている。

 父は人を庇って死んだため、今はエイト兄さんが【レンジャー】のリーダーとなっている。

 僕も温情で育てられたとはいえ、ナイツ家の男なんだ、だから立派な【レンジャー】になるために欠かさず鍛錬に勤しんでいる。


「能無しのくせにレンジャーになれるわけないだろ!」

「無駄なことしてんじゃねぇよ!」


 そんな僕のどこが気に入らないのかは分からないけど、彼らはずっと僕の近くで喋り続けている。


「お前なんか、本当の親と一緒に海に沈んじまえばよかったんだよ!」


 バキャッ!


 最後の一言で思わず手斧がすっぽ抜けてしまい、そのまま飛んでいった手斧は遠くにあった樽を壊してしまった。

 バラバラになった樽を見て、彼らは呆然としていた。


「ごめん。けど、近くにいると危ないから」


 押し黙っている彼らに謝ったが、はっとした彼らは激昂した様子でこちらに掴み掛かってきた。


「こんなのでビビると思ったのか!」


 そう捨て台詞を吐いて、掴んだ僕の体を突き飛ばした。

 バランスをとれなくて転んでしまった僕の姿に満足したのか、彼らはひとしきり僕を笑った後に何処かに去って行った。

 そして僕は飛んでいった手斧を拾い、素振りを再開した。

 能無しなんかがレンジャーになれるわけがない、確かに彼らの言うとおりだ。

 レンジャーというものはこの町の治安を預かっている集団、戦いも魔法も熟練している者だけがレンジャーになれると言われている。

 魔法が使えず、身体も一回り小さい僕には無理だと周りの人達から何度も言われてきた。

 だけど、それでも諦められなかった。

 ナイツ家の血を引いてなくても、僕はナイツ家の者として育てられたんだ、ならば最後まで足掻かなければならないと思っていた。


「ちょっと、ナイン!あの樽、あなたが壊したの?」

「…ごめん、すっぽ抜けちゃって」


 素振りをしていると、今度はヒューストン酒場の一人娘、リップが話しかけてきた。

 彼女は僕のことをあまり悪くは言わない数少ない友達だった。


「別に中身が空だったから良かったけどさ…あなた、まだレンジャーになるつもりなの?」

「うん、三日後にレンジャーの試験が始まるんだ。一度も挑戦せずに諦めることなんてできないよ」

「…魔法も使えないのに?」


 彼女の言いたいことは分かる、そして悪意がないということも。

 魔法が使えないということは、それだけで大きなハンデになる。

 普通に暮らしていくだけでも白い目で見られ、レンジャーになるというのであればなおさらだ。


「レンジャーなんか止めて、ウチのお店で働けばいいのに」

「…僕が諦めたら、そうするよ」

「ほんと?なら決まりね。ナインには料理長になってもらうんだから!」

「料理長も何も、あの狭い料理場じゃ作れる人は一人しかいないじゃないか。」


 にっこり笑う彼女に呆れながらも返事をするが、彼女はそんなことお構いなしといった感じで僕に喋りかけてくる。


「いいじゃない、あなたが看板料理を作る、私が看板娘になる。完璧じゃない!」

「自分が料理を作るっていうのは無いのかい?」

「あら、それならあなたが看板娘になってくれるのかしら?…それもいいかもしれないわね」


 そう言うと、ブツブツと呟きながら品定めするような目つきで僕を見てきた。

 もしかして、僕に女装でもさせるつもりだろうか…。

 そんなことを考えていると、遠くから何かが走ってくる音が聞こえた、そしてその音は徐々に近づいてきて…僕たちの隣まできた。


「へっへっ、困るなリップお嬢さん。ウチの自慢の弟を酒場に引き抜くつもりかい?」


 毛が少なく、大人よりも大きな狼に跨ったその人は僕の兄であるエイト・ナイツ。

 パトロールから帰ってきたのか、兄さんの相棒である狼【バディ】は激しく呼吸をしている。


「おかえりなさい、エイトさん!今日こそウチで飲んでいってくれるわよね?」


 熱のこもった目でリップは兄さんを見ている。

 恐らく彼女は兄さんのことが好きなんだろう、だからこそ僕のことを邪険にせずに接してくれるのだ。分かっていることだ、誰が好き好んで能無しと接点を持つだろうか。


「悪いな。仕事から帰ったら、必ず家族の料理を食うって家訓がウチにあるんだよ。さぁ、帰るぞナイン!」


 兄さんがそういうと、合図をしたわけでもないのにバディが僕を加えてその背中に放り投げた。

 振り落とされないようにしがみつきながら、リップのいた場所をあとにした。

 夕飯を終えて夜、何気なしに兄さんが僕に話しかけてきた。


「ナイン、お前…手斧で樽を壊しちまったんだってな?」

「ごめん、手からすっぽ抜けてしまって…」

「あぁ、いやいや!怒ってるわけじゃないんだ!ただ、その歳で樽を一撃で壊すなんて、そうそうできることじゃないぞ」

「…誰でもできるよ、魔法さえ使えば」


 そう、魔法が使えれば僕よりも小さい子でもできるのだ。

 力を強くする、何かを打ち出す、様々な方法で同じことが可能なのだ。

 兄さんは僕のことを認めているように言ってくれてるが、僕にとってはそれはとても惨めに思えてしまう。

 この町で一番魔法を上手く使えて、そして強いのだ。レンジャーのリーダーとしてみんなにも尊敬されており、この町の支えとしっても過言ではない。

 何もかもが、僕とは全く逆なんだ…


「だが、お前は魔法を使わずにやってのけた。それはそれで凄いことなんだぞ?」


 そんな僕を励ますかのように声をかけているが、頭の中には全然入ってこなかった。

 そんな僕を見て何かを察したのか、急に頭をぐしゃぐしゃと乱暴に掴んで撫でた。

「いいか、ナイン?確かに魔法は凄い、これが使えるかどうかで一生が決まると言っていいかもしれない。だが、逆にお前に聞こう」

「…何を?」

「魔法で人を殺したり強盗をする奴を、お前は尊敬するか?」

「そんなことないよ!」

「じゃあ、屋根が崩れて潰されている人を、魔法を使わずに助けた奴がいたとしよう、お前はその人に何故魔法で助けなかったと言うのか?」

「そんなこと、言わないけど…」

「そうだろう?魔法が使えるかどうかじゃない、何をしたかが大事なんだ」


 兄さんの言いたい事は分かる、だけど僕にはそれを素直に頷くことはできなかった。

 何の力を使うかじゃない、何を成したのかが大事なのだと言ってくれているのだ。

 けれど、兄さんは魔法が使える、そして戦う力も持っている。

 だから、兄さんには分からないんだ。

 魔法を使わないということと、使えないという立場ではものの見方が全く違うということに…

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