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エイジェンマ・フラグメント  作者: 狭凪
3.5

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91/101

OTHER FOUR

 ドタドタと荒い足音が部屋の外で鳴り響いている中、雑音など無いかの様に一定の速度で書類に目を通し、サインを記入している老齢の男性。


「教皇様。聖典を盗んだ男の行方は今だ分からず、申し訳御座いません」

「………………」

「衛兵、教会騎士を用いてこれより捜索を強化し、必ずや成果を教皇様に献上致します」

「…………よい」

「はっ、では失礼します」


 一般兵より華美になっている鎧を着た人物が部屋を去ると、教皇と呼ばれた老人が息を吐き出す。


「その意味ではないのだが、言葉とはめんどうな物。そうは思わぬかそこな盗人ぬすびとよ」

「それには賛成するのにゃ~。文化もちがえば人も違う。考えが違えば受け取り方さえも違って来ちゃうのにゃ~」


 部屋の中の書棚の一棚からまとめて本が転がり出たかと思うと、人の姿へと変わり、開いた書棚へ袋から取り出した本を戻す。


「盗人はここに既に戻ってきておるのに、無駄な労力を掛け探すなど無能がすることだ」

「そうだにゃ~。ヘンテコ満載のプレイヤー(ブロワー)に対して、古典的な捜索じゃ髪の毛一本見つかれば良い方にゃ~」

「それを言ってやったのに……、無駄だったようだ」

「そうだにゃ~。あれ、気合い入れてるから言うだけ無駄なのにゃ~。あ、これ返すのにゃ~」


 片付けていた本棚に無造作に聖典が入れられる。それが終わると部屋に備え付けられていた物を使ってミルクティーを入れる。


「せっかくの紅茶の香りが飛ぶとは思わないのか?私が選んだ茶葉なのだが」

「紅茶は好きだけど香りが強いのは苦手なのにゃ~。で、結果的にだけどテロリストから聖典を守った謝礼が欲しいのにゃ~」

「ふん。マッチポンプのうえ、教義を揺るがすような映像を流した癖に何を求める気だ」

「言いがかりはやめて欲しいのにゃ~。まあ、ちょっとばかり、贔屓にして欲しいだけなのにゃ~」


 小さなテーブルにカップを4つ置いて、ミルクに注ぐ形で用意すると、1人分を持って移動する。部屋の中を物色しながら教皇の机の邪魔にならないところに置く。


「そう言うが、誰に対しての贔屓かは言わないのだな」

「なんのことかにゃ~?」


 教皇の問いに朗らかにはぐらかす。それに対して何も言わず、書類から顔を上げるとカップに手を伸ばす。


「手慣れてはいるようだな。まあ、こちらからの力添えをするのは構わんが、お前にはいくつかの条件、契約を設ける」

「え~」

「いやなら国宝の窃盗で指名手配を行う。見逃すのだから嫌だとは言わぬな」


 それを言われると拒否できる立場ではない故に、教皇からのいくつかの条件と契約を詰め、書類に互いにサインを行う。


「教皇様。お呼びでしょうか」

「聖典は返却されました。警戒体制を解き通常業務へ戻りなさい」

「は……、そ、それは、いったい……」

「言葉にした通りです。市勢の混乱は一旦置いておき、外敵及び内部犯罪の警戒に当たりなさい」

「それは聖典を盗んだ者を見逃せと言うのですか?」

「それが返却の際の見返りです。表向きは死亡した故に返還されたとでもしておきなさい」

「りょ、了解しました」

「それと」


 急いで出ていこうとする男を呼び止め、カップを一瞥する。


「誰か、聖女の側仕えを呼んでそこにある紅茶を彼女達三人(・・)へ持って行かせて下さい。彼からの怖がらせた謝罪の品の様です」

「そ、その、危険では?」

「大丈夫です。私のスキルに反応はなく、飲んでも何もありませんでした」

「了解しました」


 男が改めて部屋から退出した後に教皇は小さく言葉をこぼした。


「この茶葉は私が備え付けさせている物ではなかったな。この私を言葉もなく使うとは、良い趣味をしている」


 空になったカップを手に机を離れ、4つに増えていたポットの1つから紅茶を注ぎいれた。

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