OTHER FOUR
ドタドタと荒い足音が部屋の外で鳴り響いている中、雑音など無いかの様に一定の速度で書類に目を通し、サインを記入している老齢の男性。
「教皇様。聖典を盗んだ男の行方は今だ分からず、申し訳御座いません」
「………………」
「衛兵、教会騎士を用いてこれより捜索を強化し、必ずや成果を教皇様に献上致します」
「…………よい」
「はっ、では失礼します」
一般兵より華美になっている鎧を着た人物が部屋を去ると、教皇と呼ばれた老人が息を吐き出す。
「その意味ではないのだが、言葉とはめんどうな物。そうは思わぬかそこな盗人よ」
「それには賛成するのにゃ~。文化もちがえば人も違う。考えが違えば受け取り方さえも違って来ちゃうのにゃ~」
部屋の中の書棚の一棚からまとめて本が転がり出たかと思うと、人の姿へと変わり、開いた書棚へ袋から取り出した本を戻す。
「盗人はここに既に戻ってきておるのに、無駄な労力を掛け探すなど無能がすることだ」
「そうだにゃ~。ヘンテコ満載のプレイヤーに対して、古典的な捜索じゃ髪の毛一本見つかれば良い方にゃ~」
「それを言ってやったのに……、無駄だったようだ」
「そうだにゃ~。あれ、気合い入れてるから言うだけ無駄なのにゃ~。あ、これ返すのにゃ~」
片付けていた本棚に無造作に聖典が入れられる。それが終わると部屋に備え付けられていた物を使ってミルクティーを入れる。
「せっかくの紅茶の香りが飛ぶとは思わないのか?私が選んだ茶葉なのだが」
「紅茶は好きだけど香りが強いのは苦手なのにゃ~。で、結果的にだけどテロリストから聖典を守った謝礼が欲しいのにゃ~」
「ふん。マッチポンプのうえ、教義を揺るがすような映像を流した癖に何を求める気だ」
「言いがかりはやめて欲しいのにゃ~。まあ、ちょっとばかり、贔屓にして欲しいだけなのにゃ~」
小さなテーブルにカップを4つ置いて、ミルクに注ぐ形で用意すると、1人分を持って移動する。部屋の中を物色しながら教皇の机の邪魔にならないところに置く。
「そう言うが、誰に対しての贔屓かは言わないのだな」
「なんのことかにゃ~?」
教皇の問いに朗らかにはぐらかす。それに対して何も言わず、書類から顔を上げるとカップに手を伸ばす。
「手慣れてはいるようだな。まあ、こちらからの力添えをするのは構わんが、お前にはいくつかの条件、契約を設ける」
「え~」
「いやなら国宝の窃盗で指名手配を行う。見逃すのだから嫌だとは言わぬな」
それを言われると拒否できる立場ではない故に、教皇からのいくつかの条件と契約を詰め、書類に互いにサインを行う。
「教皇様。お呼びでしょうか」
「聖典は返却されました。警戒体制を解き通常業務へ戻りなさい」
「は……、そ、それは、いったい……」
「言葉にした通りです。市勢の混乱は一旦置いておき、外敵及び内部犯罪の警戒に当たりなさい」
「それは聖典を盗んだ者を見逃せと言うのですか?」
「それが返却の際の見返りです。表向きは死亡した故に返還されたとでもしておきなさい」
「りょ、了解しました」
「それと」
急いで出ていこうとする男を呼び止め、カップを一瞥する。
「誰か、聖女の側仕えを呼んでそこにある紅茶を彼女達三人へ持って行かせて下さい。彼からの怖がらせた謝罪の品の様です」
「そ、その、危険では?」
「大丈夫です。私のスキルに反応はなく、飲んでも何もありませんでした」
「了解しました」
男が改めて部屋から退出した後に教皇は小さく言葉をこぼした。
「この茶葉は私が備え付けさせている物ではなかったな。この私を言葉もなく使うとは、良い趣味をしている」
空になったカップを手に机を離れ、4つに増えていたポットの1つから紅茶を注ぎいれた。




