ヘンタイナリシタイ
[アテーシュ帝国:???ダンジョン 地下?階]
獲物の争奪か縄張りに侵入したことによる排除かわからないが、互いに脅威だと感じてよわよわな俺は眼中から抜け落ちたようだ。
というのだが、一向に動けない。入ってきた道は2匹が戦闘している近くで無理やり行こうものなら踏み潰されかねない。
「てか漁夫の利が狙えそうだからも1つの理由である」
どったんばったん大騒ぎしているお友達の被害を被らないように三角座りで隅っこに一時間ほど避難している。そして時々飛んできている可愛そうなお友達が虫の息だったりするのでそれの介錯をして【剣】や【打】のレベルを上げた。
それにしてもまだ体力が減っていないのか、敵に背を向けられないのか未だにガンガン戦っているが、明らかに蟷螂の方が押されている。虫は燃えるからな。
「さて、二兎追ってみますかにゃ~?」
若干痺れる足を叩いてしびれを取りながらこっそりと猪の側に移動する。牙から火を吹いているが、それ以外にも火属性なのか近づくとだんだん暑くなってくる。
「ぶもぉぉぉぉぉおおおお!!」
猪が頭を振り上げ蟷螂の鎌をかちあげると蟷螂が後ろによろめく。ドシンと地面に前足を付く瞬間に猪の後ろ足の毛を掴み取りつく。
「うおっ、アブねっ?! ちゃんと猪を狙え下手くそ! うわっ、今度は俺狙ったな!」
顔の方に近づいていくと蟷螂の攻撃が飛んでくるがそんな事は今は関係ない。片方が倒されたときもう片方は瀕死になってくれないと俺が死ぬ!
首元にたどり着いた時に片方の蟷螂の鎌が牙に挟まれ根元からぶちっと千切られそうになった。あ、アレ欲しい! だけどその前に、さすがに鎌の威力耐えきれなっかのか裂け目が入りエナメル質から象牙質が見えている。
「さぁて、俺の運と不運、どちらと踊ることになるかなっと」
ストレージに収めていた鋳造品の剣を手に取るとその裂け目を狙って振り続ける。カツンカツンと完全に弾かれている音が鳴り裂け目には一向に当たらないが若干、若干削れてきて……いないわ。それでも振り払い、斬撃をぎりぎりでこらえながら叩いていく。……これ叩いたほうが早くない?
「ぶもっ、ぶもぉぉぉぉぉおおおお!!」
さすがに虫歯菌している俺が邪魔になってきたのか、それとも決めに行くのかわからないが大きく体を沈ませた。その態勢はかちあげの姿勢! 絶好のチャンス! ……絶好とチャンスって意味被ってる?
「【波】【剣】」
頭を振り上げた瞬間と同時に剣を技文字で強化して当てるとうまく裂け目にめり込ませることができた。象牙質を貫通したのか火の粉が剣の隙間から漏れ出ている。その痛みでかちあげが不十分になった所を蟷螂は見逃さず、千切れかけている鎌を牙に叩き付け鎌一本を犠牲に牙一本を折った。そしてすかさず俺は折れ飛んだそいつを回収した。
「やほーい、なんかいい素材ゲットできたぜ! これをさっさとアイテムボックスに入れて、ストレージIN」
これで最初の探索としてはもう死んでもいい気がするが。
「わお!? 蟷螂の鎌増えてる」
奥の手なのか折りたたまれ擬態のように体に溶け込んでいた小ぶりだが同じタイプの鎌の腕を出し、猪の混乱に乗じて飛ぶことで猪の背に乗りそこから自慢の鎌を振るいまくっていた。こうなったら振り落とすまで蟷螂のターンだがさすがに猪も黙ってやられはしない。痛みによる混乱から回復すると壁に体をぶつけ出した。振り落とす算段ではないだろう。なぜなら暴れ出した時から小さいほうの鎌を楔のように猪の体に突き刺しているから意味がないだろう。だがそれでいい。
「猪の耐久値は蟷螂より高いだろう。ならばあとは根競べだ!」
蟷螂の足や腹などは振れば必ず岩壁に当たるであろうし、たとえ猪の体が当たろうとも蟷螂の比ではない。ならばそれを繰り返せば蟷螂はいずれ死ぬだろう。これは蟷螂と猪のHPのどちらかが尽きるまでの勝負だ。
ただそれよりもその暴れっぷりの副次的被害で俺のほうが死ぬのが早いかもしれない。
「今のうちに脇道に退避しておこう」
這う這うの体で通路に逃げ込みこっそりと漁夫の利ができるように観察はしておく。がんばれ猪、蟷螂の足を何本か折れ。がんばれ蟷螂、猪の背中の肉を削ぎ取れ。俺が楽して勝てるように弱体化しろ!
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[アテーシュ帝国:地下牢]
「ただいまー」
「お帰りー。遅かったが運が良かったのか? どんだけ進んだ?」
「あー、まあ運が良かったのか悪かったのか」
「なんだよその煮え切らない反応」
猪と蟷螂の戦いは蟷螂のギリギリ勝利で終わった。猪は肉の塊になり、蟷螂は小鎌と足が二本取れて腹がひしゃげていたが戦利品の肉を喰らいだしたので、その隙に首をぐるんともいだのだが流石昆虫。残った体が動いて小鎌で胴体真っ二つにされたので牢屋戻ってきた。案外持ち物が少なかったからかもいできた蟷螂の頭がデスペナにならず手元にある。ぐえキモい。
「お土産いるかにゃ~?」
「貰える物はもら、うっわキモッ」
見えるように牢屋の隙間から出した頭を見てツボに入ったのか笑い出した。なので上下に振りながら裏声で挨拶すると引き笑いにまでなった。
「とりま一回死んだから簡単に死ねなくなったからログアウトするか」
感覚的に夕暮れ辺りか晩飯辺りになっているだろうから、ログアウトして数時間たてばデスペナ回避の効果は戻るな。
「その前にちょっと話そうぜー」
「んー、そうだにゃ~。ならステータス確認する程度の時間なら話していてもいいかにゃ~」
「うん、ならお前はどこから来たんだい?」
ウインドウを開いてステを確認すると【剣】が5、【打】【身】【波】が3、【蹴】が1になっていた。総レベル15とそこそこ戦えるレベルだ。いまなら逃げ専でなら皇帝からも逃げられるだろう。
「ここと戦争やってたアマルティ王国から戦争に巻き込まれ、あれよあれよとここに来てしまったわけにゃ~」
「アマルティ王国! あそこは無防備な女性が多くて良かったなー。ま、俺のせいで警戒心が高くなったからこっちに来たわけなんだが」
「お巡りさんコイツです」
「お巡りさんワタシ牢屋です!」
現実でも虚構でも確実に犯罪になる行為を自慢げに話すルパンは筋金入りかもしれない。現実で盗んでなければいいが。
「いやいや、ここがゲームだからやってるって話で、現実でするわけない。と言うか現実は機器の発展でほ……んんっ。現実的に考えて不利益しかないことはしないよ」
「…………、オマワリサンコイツモノホンデス」
「ぶふっ!?」
蟷螂の頭をカタカタ動かしさっきと同じように裏声で話すと吹き出したルパン。ロリコンと言い下着ドロと言いなんでこんな奴らが多いんだ?
「……はぁはぁ。ちなみに俺の友人にアクエロアス・PPトムって奴がいるんだがな、覗きをしていたらなぜか最終的に王国騎士団長の一人になった」
「ぶふっ!?」
今度は俺が吹き出してしまった。なんで覗きしてたら騎士団長になるんだよ! そこにいる友人みたいに牢屋に入れよ!
「初日から濃すぎる面子に会いすぎて胸焼けがする気がする」
「濃すぎてごめんね? ってか普通の連中は普通過ぎてここには入らないし、戦争だと最初に死んでるよ」
「うーん……」
思い返してみるとほぼほぼ濃い面子だわ。保護してもらったクランリーダーしかりドジっ子騎士しかり。と言うかこのゲーム内で没個性が目立つわけはないか。
常識人は居ないわけではないが、普通のゲーム常識に囚われているブロワーは中堅に収まってしまうのであまり大事にはならないのである。
「いやぁ、面白い話が聞けたにゃ~。お礼にこの紙をあげるにゃ~。気に入る気に入らないは行った後に決めるといいにゃ~」
俺にはいらない紙、ロゥリコンから貰ったメモを紙飛行機にしてルパンがいる牢屋に向けて飛ばした。
「あー、ちょっとバランスが悪かったのにゃ~」
「いいよいいよ、後で拾っとく。それと引き留めて悪かったな」
「別にいいにゃ~。ばいば~い」
紙飛行機は折った時にバランスが悪くなったのかルパンの牢屋ではなく、曲がってその隣、俺の目の前の牢屋に入ってしまった。ルパンは気にしないといっているから俺も気にせずログアウトした。
エイジェンマ・フラグメント溢れ話
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┃◎フ <モンスターの討伐の戦利品について
HPを削って倒すことができるとそのモンスター由来のアイテムが入手できる。死骸は残らない。
爪や骨、皮などは普通にドロップ。たまに脳ミソや目玉なんかもドロップするがこちらはレアにあたる。極たまに全部残ることがあるがアイテムボックスがないと運ぶのがめんどくさい。
その他にも武器や道具などでドロップすることもあり、一般的な量産品よりも良いものがおおい。
部位破壊などにより腕や足の分離、牙や角が折れた際にその形が残っているとブロワー、ヒューマリアン、モンスター関わらず所持した時に固定されるためドロップ品とは別扱いになる。
そのままの姿で残るため首等は高く買い取りをしてくれるが、武具や道具にする際に手間がかかる。