クサリカケウツ
だいたいの方向性が決まってるのに文字に表せない病発症
ジェミニオンが岩壁に衝突し、崩れる拍子に舞い上がる砂煙で姿が隠れる。通常なら地面などのオブジェクトに叩き付けてもほぼダメージが通ることはないが、同レベル帯のブロワー同士の行動、武具の能力やスキル、技文字によって叩き付けられた場合は別となりダメージは発生する。
「この程度では倒せるなんて思い上がりません。まして、行動停止したなんてことも思いません。【万物総射】【流星群撃】」
指輪型のアイテム袋から状態異常を起こすアイテム等を地面に撒く。弓を構えるとアイテムが矢に変化し空中に固定される。そして弦を弾こうとした瞬間、彼女は体を反転させ背後から迫る多種多様な属性の槍にアイテムを変化させた矢の大半を放ち迎撃する。
「混乱と窒息を併発させる毒だったんですけどよく解毒出来ましたね。……もしかしてその系統の文字か技能を持っていましたか」
「いきなり苦しくなるし頭が働かないから時間が掛かったけど、準二等級回復薬を使ったわ。あれなら大半の毒を消せるから。でも予想以上の出費よ」
「使わなかったら良かったのでは?」
「そうかもね。でも貴女も使う羽目になるから」
そう言われた瞬間、彼女の足から、いや四肢から力が抜け地面に落ちた。若干残った力を振り絞り倒れる事を免れたが、弱々しく、緩慢な動きしか出来ない手足に焦りを覚える。
「まさか私の耐性を抜ける毒を持っていましたか。……いや、あの時の大量のナイフのどれかが」
「そんな運に頼った事は私達はしないの。それより自分の事を心配したら?」
「ッ!?【愛全族万家】」
反射的に防御用の技文字を発動し、強度が高い弓を取り出すと腕と一緒に割り込ませると、いつの間にか跳ね上がっていた鎖が彼女の周りを囲み首を狙って締まる。そして砂煙の中から少し汚れたがHPゲージが回復しているジェミニオンが現れる。
「貴女は色々言ってたけど、ちょっと傲慢過ぎたんじゃないかな?」
「俺達の武器と姉さんと繋がってる鎖が、ただ強化するだけの武具だと侮っていたとかかな?」
「け、警戒はしていましたが、ジェミニオンの無傷に近い状態に解除が難しい与えた状態異常の回復、いえ交換……。立ち位置の入れ替えと同じ双子座の鎖の能力ですか」
「やっぱり戦うとバレちゃうな。でも喋って手の内をばらすとかそんなバカ正直じゃないから」
「そっちこそ、技文字で誤魔化してたけどその射手座の鎧、自身や身の回りの物を撃ち出す感じだよね。でも手足が動かないなかったり、鎧の背中が展開出来なかったら意味ないよね」
お互いに使用している黄道武装の能力が割れ、片方は拘束状態。そしてラブリンス兄姉が武器と魔法を構え勝敗を決する。と考えたその瞬間に脚甲の部分に弓が展開され、自身の体が地面に引き摺られることも厭わず、足部分の加速により双子から挟まれた状況を脱する。
双子は鎖が引っ張られた一瞬だけ体勢が揺らいだが、即座に鎖を伸ばすことで転倒と魔法の暴発を防ぐ。そして鎖が若干緩んだ刹那の隙をついて、彼女は体を回転させることでほどき拘束を抜け出した。
「うわっ……、なにそれ。地面に擦れてったのは見てたけどそんなに出血するもの?」
「っぺぺ。手足のダルさ程度で準二等級回復薬は勿体無いですから。吐き出す方が早いですし」
「それにしても力技過ぎないか」
鎧の能力によって顔や手足の至るところから少量の血と共に排出、多少のダメージを自然回復スキルで賄うことでアイテム使用の隙を無くした。少しばかり痛みを伴うが、動けないよりはましと言うことだ。
双子も伸びた鎖を引き戻して用意していた魔法を牽制に飛ばし始め、それに対して彼女は雑多な素材アイテム等をばら蒔き撃ち出して対抗する。
彼女から撃ち出される多数の矢の弾幕を突撃槍で迎撃したり、そうできない物は入れ替わり防御魔法で弾く。そして少しの被弾は後方からの回復の受け渡しで回復するため距離を詰めて行くが、その度に自ら射出することで距離を稼がれ一進一退の調子が続く。
「ちっ、いたちごっこは嫌いなんだけど。時間稼ぎのつもりか?」
「そうですね、彼が逃げ切ればこちらの勝ちですからそれも悪くないですね」
「まったく、敗北条件が複数あるのは面倒です。もうやめにしませんか?」
動きを止めた双子に構えたまま一挙手一投足見逃さないよう視線を固定し会話を続ける。
「彼から頼まれたのは教典を盗みに来る貴殿方に対する対抗手段だけですから、これ以上の戦闘行為は無意味、ですか」
「だったらこうしている時点で仕事終わってるじゃん」
「足止めと言うか、もう何処にいるかわからないあいつを探すとしたら終了時間になるからもう帰ったら?」
「それなら僕たちも追わないから。君も雇われただけなんでしょ?」
「そうですね。普通なら隠れたブロワー一人見つけるなら一週間くらいかかりますから。ですが」
彼女達のいる場所からかなり離れた場所に見えていた巨人とは別の鉄の巨人が聳え立ち、少しの間まごついた次には別の姿に変成、そして最初に見えていた巨人と組み合い衝撃音が響く。
「少し目立つ人なので簡単に見つかりそうですから時間切れまで粘ることにします」
「ならこっちも実力を見せてあげようかな」
「【重層操鎖】」
技文字が唱えられると二人を繋げていた鎖が勢いよく伸び始め、二重三重とドンドン集まると巨大な拳を形作った。そして巨大な拳を使い彼女に叩き付ける。
「【重層操鎖】」
彼女が避ける前に更にもう片方が同じ技文字を使用し、2個目の拳を作り間を置かずに叩き付ける。ガンガンと避ける先に鎖の拳を交互に叩き付ける中、自分を撃ち出すことで叩き付けられる範囲外に瞬時に移動しているが、一度に一つしか鎧の弓を展開できないのか回避に使用しているので攻撃が疎かになっている。
さすがに避けてばかりだと距離を離しすぎてしまうと近付く方向へと飛ぶこともあったが、それは魔法で牽制され回避を遅らせると鎖の拳が落ちてくる。
「【氷愛爆矢】」
だが、一瞬の隙を突き両方の根本にある鎖の隙間に氷の矢を打ち込むと、刺さった瞬間爆発、範囲内の鎖が氷結し閉じ込められたことで鎖の塊ではなくなった拳が彼女の背後に落ちる。突然操作できなくなったことで大きな隙を作った双子の元に飛ぶと弓に二本つがえる。
(獲りました)
「行けるとでも思った?」
「意表を突いたつもりだったようだけど」
「想定の内だったよ」
「ざぁんねん」
足元から鎖が飛び出し弓を叩き落とす。いつの間にか余分に伸ばされていた鎖が踏まれて視界から外されていた。それ故に対応が遅れ今度は確実に首を締め上げられる。ギシギシと鎖から軋む音と同時に締め上げられた喉からか細い呼吸の音が溢れる。
「え?何か言ったかい?」
「掠れていてなに言ってるかわからないね~」
呼吸を取り戻そうと首の鎖を引っ掻いていた腕がだらりと垂れたのを確認すると、双子はクスクスを笑いながら近くに引き寄せる。
「弓使いなら遠距離が得意だろうけどさ」
「私達はどの距離でも上手く出来ちゃうんだよ。でも~、やっぱり近距離が得意かな?」
「だって悔しがる顔が見えるから!」
「ね~」
窒息による行動阻害が起こっている彼女を目の前に持ってきてトドメを刺そうとする瞬間。
「奇遇ですね。私も弓より拳の方が得意なのです」
窒息していたと思われていた彼女のはっきりした声が聞こえ、顔を向けたその様子に双子が反応する前に背中に弓が展開。気づいた瞬間には既に肉薄しており弓が両腕に展開されていて、弦の音と共に【愛我己強自】と言葉が響いた瞬間彼女の拳が双子の顔面へ入り地面へその体を叩き付けた。




